2024年も残りわずか。1年の中で多くの作品が公開・配信されました。そのなかでも印象深かった作品、2024年映画No.1を映画ライター11名が発表します。
👑『ネクスト・ゴール・ウィンズ』👑
鴇田崇
寄せ集めのダメチームが同じく人生ドン底の鬼コーチの元、奇跡を起こして行くだけの物語だけかと思いきや、<負けを知る、すべての人へ。>と公開時コピーにあるように、人生に深く傷つき、もしかしたら立ち直れないかも知れない人々を優しい視点で包み、しかも終盤に予想もしていなかった展開を用意して、笑えて泣ける上質な人間ドラマに仕立てたタイカ・ワイティティの見事な手腕が光りまくり! これが実話ということにも腰を抜かす。タイカ・ワイティティの愛、存分に浴びれます。生涯忘れ得ぬ一本になりました!
>>『ネクスト・ゴール・ウィンズ』あらすじ&キャストはこちらから
👑『ナミビアの砂漠』👑
赤山恭子
まごうことなきブレイク女優となった河合優実。彼女が俳優になる前の学生時代、山中瑶子監督に「いつか監督の作品に出たい」と直談判した数年後に実現したのが本作。作品ができあがるまでのドラマティックさもさることながら、何よりも主人公のカナを演じた河合優実のふてぶてしくさ、ずるさが、かわいくって仕方ない。不器用に生きる…なんていう範疇を超えた他責姿勢の自由さには笑ってしまうし、映像のギミックはこと大胆で惹きつけられる。こんな鮮やかに記憶に残る1本に出会えるなんて、またのタッグを待っております。
>>『ナミビアの砂漠』あらすじ&キャストはこちらから
👑『花嫁はどこへ?』👑
牧口じゅん
インドにのこる慣習により、意志決定の自由を持たない女性達。非道な結婚制度を通して彼女たちの苦悩を描きながらも、明るい未来を感じさせる物語。理不尽でシリアスな問題をあえてユーモラスに描くことで、多くの人の心に問題意識を刻みつける手法はインドのカリスマ的スター、アミール・カーンの得意技。今回は彼のプロデュースだが、カーン作品の定番である人情味と痛快さにより、終演後の爽快感は期待以上。主人公達を取り巻く濃厚なキャラクターたちが、物語をいっそう立体的に仕上げている。あっという間の124分。時間を忘れて物語に没頭できることこそ本作の魅力の証。
>>『花嫁はどこへ?』あらすじ&キャストはこちらから
👑『デューン 砂の惑星PART2』👑
内田涼
This is only the beginning.「驚くのはまだ早い」。前作でチャニ役のゼンデイヤが放った言葉は、嘘ではなかった。映像、音響、物語、そのすべてが圧倒的な没入感で「映画を観る」を超えて、自分が「映画になる」体験を味わった。第97回アカデミー賞での最多受賞は確実。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にとっては「原作第1巻を、2本の映画で完結させた」という認識のようだが、あのエンディングを見せられては、ファンとして第3弾を期待せずにはいられない。実際、監督の中にはユニークな構想があるようで、いまから胸が高まる。
>>『デューン 砂の惑星PART2』あらすじ&キャストはこちらから
👑『成功したオタク』👑
上原礼子
2024年のKコンテンツ、とりわけK-POPは連日耳を疑うようなニュースばかり。だが12月、そのK-POPの奇跡を目にした。少女時代やBTS、aespaなどが大音量で流れるなか、あらゆるグループのカラフルなペンライトを灯して大統領に声を上げる大勢のオタクたち。『ソウルの春』を4人に1人が見た国だけある。オタクをやれるのも民主主義あってこそ。彼らの連帯に背中を押された。推しの性加害をきっかけに内省し、独自の「成功したオタク」論を展開したオ・セヨン監督もその中にいた。推し活とは消費行動を超えた、政治や社会とも深く結びついた人生そのものと改めて思わされた1作。
>>『成功したオタク』あらすじ&キャストはこちらから
👑『密輸 1970』👑
西森路代
ファン・ジョンミンの『ベテラン』など、アクション映画ヒット作の多いリュ・スンワン監督による女性たちのクライム・アクションを作ってくれました。とはいえ、実はリュ・スンワン監督、2002年にもチョン・ドヨンとイ・ヘヨンが出演のクライム・アクション『血も涙もなく』を作っていたのですが、『密輸』は、より痛快な娯楽作になっていました。特に、キム・ヘス演じる海女の主人公・チュンジャのキャラが、時に豪快で時にセクシーで時にふてぶてしくて最高でした。海女のリーダーのジンスク(ヨム・ジョンア)との友情や、敵か味方かわからない密輸王クォン(チョ・インソン)とのヒリヒリしたやりとりなども見どころ。続編も作ってほしいものです。
>>『密輸 1970』あらすじ&キャストはこちらから
👑『ロボット・ドリームズ』👑
渡邉ひかる
人間に対するロボットの献身の話にはうんざり。そう思っていたら、大間違いだった。ドッグとロボットの関係は、好きな気持ちがなくなったわけじゃないけれど再び交わることはない元カレ元カノのようにもなっていき…。出会いと別れの真理をここまで率直に、でも誠実に描いた物語に心をかき乱されずにいるのは無理。愛くるしさしかないロボットの丸い瞳も、陽気で切ない「セプテンバー」もずるい。ここまでギャンギャンに泣いたアニメーションは『メアリー&マックス』以来。そう言えば、あの映画のマックスも孤独なニューヨーカーだった。
>>『ロボット・ドリームズ』あらすじ&キャストはこちらから
👑『哀れなるものたち』👑
児玉美月
2024年の鮮烈な幕開けを飾った『哀れなるものたち』。米国大統領選でドナルド・トランプが大統領に返り咲き、「わたしの身体はわたしのもの」というスローガンがふたたびソーシャルメディアに飛び交ったように、『哀れなるものたち』が描いた女性の自律/自立というテーマが、今ますます重要なものになったようにも思います。その後すぐに公開された『憐れみの三章』はヨルゴス・ランティモス節が炸裂した彼らしい作品でどちらもそれぞれ素晴らしいですが、そういった背景もあり、『哀れなるものたち』の方を今年のベスト映画として選びたいです。
>>『哀れなるものたち』あらすじ&キャストはこちらから
👑『異人たち』👑
冨永由紀
山田太一の原作を尊重しつつ、アンドリュー・ヘイ監督がごく私的な物語として脚色した手腕が見事。寂しさと後悔を抱えた人間が見る幻は優しさに満ちた儚い夢であり、生者も死者もそこに縋りつく。2024年は他作品でも活躍したアンドリュー・スコットとポール・メスカルだが、本作での壊れそうに繊細な佇まいは出色。アンドリューが演じる主人公が、言ってほしくないことを口にしかけた父を止めようとする咄嗟の仕草は即興だったという。それに応えたジェイミー・ベル、そして母役のクレア・フォイも含めて互いの名演を引き出すアンサンブルが美しい。
>>『異人たち』あらすじ&キャストはこちらから
👑『落下の解剖学』👑
黒豆直樹
「待って、私は殺してない」「問題はそこじゃない」
「事実かどうかは関係ないんだ。問題は君が人の目のどう映るかだ」
イメージや印象、時にデマや悪意をも含んだ“わかりやすい(=吸収しやすい)”情報に大きく左右される形で、大切なことが「民主的に」決定されていくのを目の当たりにした1年にふさわしい、ポスト・トゥルースの時代の法廷ドラマの傑作。『関心領域』(こちらも歴史に残る大傑作でした)しかり、イラついてる妻・ザンドラ・ヒュラーに詰められる夫の悲哀…。
>>『落下の解剖学』あらすじ&キャストはこちらから
👑『ある一生』👑
新田理恵
孤児として育ち、厳しい環境や時代に翻弄されながらも、アルプスの自然の中で80年の人生をまっとうした男の生き様。あれがしたい、あれがほしい、あそこに行きたい、ああなりたいーー何かと欲しがりで、不確実な未来のことばかり考えてしまいがちな自分に、“今”を生きる大切さを教えてくれた1本。しばらく仕事に忙殺されていたので、目の前にあるものを大事にしながら今を楽しむことの価値について考えるきっかけもくれました。個人的にクリーンヒットです。
>>『ある一生』あらすじ&キャストはこちらから