数年前、韓国芸能界を揺るがした性加害事件で“推し”が犯罪者になるという経験をしたオ・セヨン監督のドキュメンタリー映画『成功したオタク』が順次公開中。この度、来日したオ・セヨン監督のインタビューがシネマカフェに到着した。
あるK-POPスターの熱狂的ファンで、“推し”に認知されテレビで共演も果たし「成功したオタク」と呼ばれたオ・セヨン監督。本作では、推しの逮捕をきっかけに同じような経験をした友人たち、“推し活仲間”に話を聞きに行き、「成功したオタク」の新たな定義を試みていく。
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Q.この作品を制作したきっかけは?
オ・セヨン事件があったあとは混乱していたし映画にしようなんて思っていませんでした。でも友達に軽いかんじで「映画にしたら?」と言われて、「あ、できるかも」と思ったんです。
まずは怒りが原動力でしたが、怒りの感情は持続しません。悩んだり悲しんだり、色々な感情に苛まれながら、「ここまで話して大丈夫なのだろうか」と悩みながら映画を制作しました。なにより、愚かなものと捉えられがちなアイドルファン、「ファンダム」とひとくくりにされがちな集団の中の、個々の顔、声、想いを伝えたいと思いました。
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Q.インタビューしている人はどのように選びましたか?
オ・セヨン最初はいわゆる「成功したオタク」や有名なファンの人々にもインタビューしようと考えていたのですが、カメラの前で本音を率直に語ってくれる人が必要でした。結果、周りの友人たちに話を聞くことにしました。長い間積み重ねてきた友情で築いた信頼関係があるからこそ、同じ目線で率直な対話ができると思ったのです。
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Q.加害者か被害者かと悩んだこと、そしていまも残っているファンについて。
オ・セヨンなにも知らず熱心に推し活をしてそのアイドルに権力を持たせたことで、私たちも加担してしまったと感じました。同時にオッパ(お兄さん)たちの犯罪によって心の傷を負った私たちは被害者でもある。自分が信じたものを否定するのは難しいですよね。
「私が推したせいで」「私の選択が間違っていた」などと自分を責めたりしてしまう。でも悪いのは犯罪を犯した人なんです。韓国では表立って彼らを擁護する人たちは少なかったですが、それでもまだ残っているファンたちがいます。
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Q.なぜ映画では擁護するファンに話を聞かなかったのでしょう?
オ・セヨン最初は、いまも彼らを支持している人に話を聞こうと思っていたのですが、映画制作を進めるうちに、やはりやめよう、と思いました。
擁護発言を映画に入れることは被害者の方への二次加害になるのではと心配になったし、かつて「私のオッパはそんな人じゃない」と何度も擁護していた人物こそ、ほかならぬ私自身だったという事実に気づきました。私はもうその気持ちを知ってるじゃないか、と思ったんです。自分でもそのような気持ちを抱いたことがあるのに、いまはそうでないという理由で彼らを支持する人をジャッジする立場に立とうとしているんじゃないのか、と。
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Q.監督は今後誰かをまた推すと思いますか? また、健全な推し活をするにはどうしたらいいと思いますか?
オ・セヨンいまは推している人はいません。映画を作っている最中にも「いいな」と思う人はいましたが、どうしても「この人ももしかして…」と警戒してしまうんです。でも、そう言っている時点でもう好きになっているんですよね。誰かを好きになることは本来とても楽しい、素晴らしいことですよね。
以前と同じようには推し活をできないかもしれませんが、「私が見ているのはその人の全てではない。アイドルとして美しい一面を見せてくれているにすぎないのだ」ということを念頭に置くことが重要なんじゃないでしょうか。
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Q.日本の観客へのメッセージ
オ・セヨン日本での公開をとても嬉しく思うと同時に、この映画に共感してくださる方がたくさんいるのかと思うと胸が痛みます。もちろん心強くもあります。映画館でみんなで一緒に笑って泣いて、その後いろんな思いを話し合ってくださるといいなと思います。
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『成功したオタク』はシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開中。