■2017年をふり返り!女性監督が世界各国で活躍
2017年を代表する『ワンダーウーマン』は、何かが変わる試金石となるのか?

『ワンダーウーマン』は、男性ヒーローばかりのコミックスの世界に1941年に初登場し、長きにわたり世界中の女性たちを鼓舞してきた女性ヒーローの初実写化映画として大成功を収めた。世界興収8億ドル超え、女性監督作品として史上最高の記録を達成しただけでなく、「女性であろうと何であろうと、あなたはあなたで、特別で大切な存在」であることをスーパーヒーロー・アクション映画の中で描き、ハマリ役となった主演ガル・ガドットとのコンビは「現代のリアル“ワンダーウーマン”」ともいわれている。
ジェンキンス監督は、2019年11月1日全米公開の『ワンダーウーマン』続編では監督・脚本・製作を務め、女性監督史上最高額の報酬を手にするといわれている。期待以上の仕事をしてみせたのだから、これは当然の結果。ちなみに続編は、ダイアナ/ワンダーウーマンが1980年代のアメリカで旧ソ連と関わる、といううわさも。いまの時代に先頭を切って走る“ワンダーウーマン”は、これからも性の格差問題や男性優位社会を“美しくぶっとばして”くれることを期待したい。
2017年は若手/ベテラン問わず活躍。特にフランス映画界は女性監督が台頭

インディペンデント映画やヨーロッパ映画、特にフランス映画界からは今年、日本にも多くの女性監督作品が上陸。
監督、脚本家、女優の顔を持つ才女レベッカ・ミラーはジュリアン・ムーア、イーサン・ホーク、グレタ・ガーウィグが出演する『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』をディレクション。
フランシス・フォード・コッポラの妻で、ソフィアの母であるエレノア・コッポラは、80歳にして長編劇映画の初監督を務めた『ボンジュール、アン』でフランスを舞台に爽やかなロードムービーを届けてくれた。
フランス映画界では『エル ELLE』での怪演が圧巻だったイザベル・ユペールの主演作『未来よ こんにちは』のミア・ハンセン=ラヴ(1981年生)や、喪失と再生の物語を描いた『あさがくるまえに』のカテル・キレヴェレ(1980年生まれ)といった新鋭の作品も光った。ユペールの娘ロリータ・シャマーが主演した『静かなふたり』のエリーズ・ジラールは今作が長編2作目。次回作は2018年、日本で撮影するというから大いに期待したいところ。
日本でも国内外で高い評価を得た女性監督作品多数
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日本でも、前述の『光』河瀬監督のみならず、生田斗真がトランスジェンダーの女性になりきった『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子は母子の愛と疑似家族の物語を丁寧に紡ぎ、ベルリン国際映画祭でテディ審査員特別賞を受賞した。また、浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶという実力派キャストを揃えた三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』も、第41回モントリオール世界映画祭・審査員特別賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ている。
女性監督×女性主役で、厳しい時代を生き抜いた女性たちの姿が描かれた
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新進女性監督の台頭が著しいなか、『ココ・アヴァン・シャネル』のアンヌ・フォンテーヌによる『夜明けの祈り』は、フランス映画祭2017で「エールフランス観客賞」を獲得。注目女優ルー・ドゥ・ラージュを迎え、第二次大戦末期にソ連兵にレイプされ妊娠してしまったポーランドの修道女たちに希望の光を照らした。
さらに、実写版『ムーラン』を手がけるニキ・カーロ監督のもと、ジェシカ・チャステインが『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』に主演し、来日も果たしてくれた。
フォンテーヌ監督『ボヴァリー夫人とパン屋』で注目を集めたジェマ・アータートンは、『17歳の肖像』のロネ・シェルフィグのもと、ビル・ナイやサム・クラフリンと映画愛にあふれた『人生はシネマティック!』を創りあげた。クリストファー・ノーランの『ダンケルク』などの一方で、こうした女性監督×女性が主役の戦時下の映画も重要なトピックだったといえる。
なお、ポーランドといえば、マウゴジャタ・シュモフスカ監督の『君はひとりじゃない』も見逃せない。巨匠アンジェイ・ワイダや『イレブン・ミニッツ』の俊英イエジー・スコリモフスキなどを輩出するポーランド映画界において最注目を集めるシュモフスカ監督は、Facebookを通じて演技初挑戦のユスティナ・スワラをスカウト。オリジナリティにあふれた世界観はベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞、ポーランドのアカデミー賞「イーグル賞」にもノミネートされた。
▼2017年日本公開の主な女性監督作品(順不同)
『ワンダーウーマン』パティ・ジェンキンス(アメリカ)
『最初に父が殺された』アンジェリーナ・ジョリー(アメリカ)
『未来よ こんにちは』ミア・ハンセン=ラヴ(フランス)
『夜明けの祈り』アンヌ・フォンテーヌ
『あさがくるまえに』カテル・キレヴェレ(コートジボワール)
『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』レベッカ・ミラー(アメリカ)
『君はひとりじゃない』マウゴジャタ・シュモフスカ(ポーランド)
『静かなふたり』エリーズ・ジラール(フランス)
『ボンジュール、アン』エレノア・コッポラ(アメリカ)
『人生はシネマティック!』ロネ・シェルフィグ(デンマーク)
『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』ニキ・カーロ(ニュージーランド)
『ダンシング・ベートーベン』アランチャ・アギーレ(スペイン)
『スウィート17モンスター』ケリー・フレモン・クレイグ (アメリカ)
『光』河瀬直美(日本)
『彼らが本気で編むときは』荻上直子(日本)
『幼な子われらに生まれ』三島有紀子(日本)
『勝手にふるえてろ』大九明子(日本)
■2018年も注目の女性監督作品が続々登場。しかし映画賞は波乱の兆し…
第75回ゴールデン・グローブ賞「監督賞」に“女性ゼロ”
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年明け早々、現地時間1月7日に発表される第75回ゴールデン・グローブ賞の監督賞ノミネートには女性監督の名前はなく、数多くのメディアがその件を取り上げていた。
「ノミネートされるべき」と名前が挙がったのは、『ワンダーウーマン』のパティ・ジェンキンスや、初監督作『LadyBird』(原題)(2018年公開)を手がけた『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィグ(脚本賞にはノミネート)、高評価を得ている『デトロイト』(2018年1月26日公開)のキャスリン・ビグロー、『The Beguiled/ビガイルド』(2018年2月23日公開)のソフィア・コッポラ、メアリー・J・ブライジが注目を集めるNetflixオリジナル映画『マッドバウンド 哀しき友情』(Netflixにて配信中)の新鋭黒人監督ディー・リースなど。
同じくNetflix『最初に父が殺された』で長男マドックス・ジョリー=ピットの出身地カンボジアの大量虐殺を描いたアンジェリーナ・ジョリーは監督賞ではなく、外国語映画賞でのノミネートとなった。
過去20年間で同・監督賞にノミネートされたのは、『ハートロッカー』で史上初のオスカーを獲得したキャスリン・ビグローを含めてたった3人だとか。女性監督作品が数多く出品されているカンヌでさえも、女性の監督賞はソフィアでまだ史上2人目だという…。果たして、現地時間1月23日にノミネート発表される第90回アカデミー賞では、どうなるだろうか。今後のショーレースにも注目したい。
(また、女性が主役の映画として、2017年最大のヒット作『美女と野獣』のエマ・ワトソン、『ワンダーウーマン』のガル・ガドッドなどもノミネートから漏れている。)
2018年も女性監督作品が観逃せない
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そのほか2018年は、先に挙げた『The Beguiled/ビガイルド』『デトロイト』『LadyBird』などに加え、女優でもあるギャビー・デラル監督のもと、エル・ファニングがトランスジェンダーの少年を熱演した『アバウト・レイ 16歳の決断』の日本公開がようやく決定(2018年2月3日公開)。
また6月にロンドンで行われた「グラマー・ウーマン・オブ・ザ・イヤー・アワード」で、最優秀映画女優賞に選ばれたニコール・キッドマンは、18ヶ月に1回は“女性監督作品”に出演すると宣言。2018年、女性監督の草分け的存在である日系のカリン・クサマ(『ガールファイト』)の次回作、『Destroyer』(原題)にロス市警の警官役で主演を務める。
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日本では、河瀬監督がジュリエット・ビノシュと永瀬正敏を迎えた『Vision』も公開予定で、アメリカのインディペンデント・スピリット賞にて新人作品賞と主演女優賞(寺島しのぶ)にWノミネートされるなど、海外で大きな注目を集めている平柳敦子監督の『Oh Lucy!』がゴールデンウィークに公開予定となっている。
「女性の時代」は、これからも続いていくのだ。