俳優の河合優実が、『あんのこと』で第48回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞。本作で実在の女性の役を心を込めて演じた河合は、震える声で今の気持ちをスピーチした。
優秀主演女優賞には、河合のほか、石原さとみ(『ミッシング』)、上白石萌音(『夜明けのすべて』)、草笛光子(『九十歳。何がめでたい』)、満島ひかり(『ラストマイル』)がそろい、誰が受賞しても初受賞となっていた。
『あんのこと』は実在の人物をモチーフに、入江悠監督が脚本も執筆した作品。壮絶な生き方を強いられた少女・杏を河合は演じた。機能不全の家庭に生まれ、虐待の末にドラッグに溺れる少女・杏が、人情味あふれる型破りな刑事や、更生施設を取材する週刊誌記者をはじめとした人々と出会い、その見返りを求めない姿に次第に心を開き、生きる希望を見いだしていく。しかし、微かな希望をつかみかけた矢先、どうしようもない現実が彼女の運命を残酷に襲う――。杏が懸命に生きた日々が、そこにあった喜びと痛みがダイレクトに伝わるような純度の高い表現で、見る者の心に杏の存在を深く刻み付けた。
実在の女性を演じたことについてインタビューで聞かれると、河合は「起きていることは自分たちと遠いし過酷に見えますけど、その人の本当にあった人生に監督、含めスタッフの皆さん、役者が触れるとき、本当にそれぞれができる限りやさしく丁寧に触れようとしているような現場でした。この人の心のキレイさ、キレイな魂にみんなが吸い寄せられていった感じがしました」と答えた。
最優秀賞を受賞した河合は、共演した佐藤二朗と抱き合った後、入江監督とも握手を交わし感動を分かち合う。壇上に上がると、河合は「本当にこのたびは…ありがとうございます」と声を震わせた。「信じられない気持ちで、この会場にいること自体も夢のような思いで今います。私は本当に未熟で新参者ですが、今日会場に来て敬愛する大先輩の方々に囲まれて。この映画という世界に足を踏み入れて本当によかったなと、心の底から思っています」と思いの丈をスピーチ。
そして「『あんのこと』という映画は、言葉で言い表せないほど特別な作品です。これからも長い間俳優を続けていきたいと思うんですけど、その中でもずっと自分の心に残り続ける大切な作品になるだろうと思っています。『あんのこと』に人生の時間を貸してくれたすべての人に感謝を伝えたいです」と作品愛を込めていた。