台湾が2019年から毎年開催している、文化コンテンツ産業の大型展覧会「2024 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest )」。5年目となる2024年は「ピッチング」「マーケット」「フォーラム」の3つを柱に11月5日から11日8日に開催された。
イベント2日目にあたる11月6日、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(以降『チェリまほ』)のドラマ&劇場版を手掛けたテレビ東京プロデューサーの本間かなみ氏、監督を務めた風間太樹氏、タイドラマ版『チェリまほ』監督の那達彭・蒙寇薩瓦(Nuttapong MONGKOLSAWAS)氏が「フォーラム」の舞台に登壇。人気BLマンガから日本で実写ドラマ化、映画化され、タイでリメイクされるまでの道のりやこだわりについて語った。
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“チェリまほ”こと『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』は、豊田悠が「ガンガンpixiv」にて連載中のBLマンガ。童貞のまま30歳を迎えた主人公・安達が「触れた人の心が読める魔法」を手に入れ、勤務先のイケメン同期・黒沢が自分に想いを寄せていることを偶然知ってしまうことから巻き起こる、純度100%のラブコメディを描く。ピュアなストーリー展開と、登場人物たちの愛らしいキャラクター像が話題となって共感を呼び、女性を中心に幅広い層で人気を集める。「全国書店員が選んだおすすめBLコミック2019」の第1位に選ばれ、アジアをはじめ全世界で海外翻訳版も出版されている。2020年には実写ドラマが放送され、2022年4月には実写映画化も果たした人気作だ。
日本実写版は “原作ファンを大切に”
2024 TCCFフォーラムステージでは、はじめに本間氏が日本で実写化する際のキャスティングについて触れた。
実写版の安達清役は赤楚衛二、黒沢優一役は町田啓太が務めており、「安達は“子犬っぽさ”がある人、黒沢はイケメンというより“ハンサムという言葉が似合う人”」というルック的な観点と、「芝居の相性的にもコントラストがつくこと、身長差が3cm以上あること」を重視したという。
ドラマは各話22分という短い尺だったが「豊田先生や担当編集さんと綿密なコミュニケーションを取りながら、心情のステップや、安達と黒沢の距離感が変化していくステップを一番大切にしながら、ストーリーの凝縮を行った」と語った。
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風間監督は、マンガ原作というビジュアルイメージがすでに出来上がっているものを再現することの難しさを指摘したうえで「コミックの中に描かれているものの再現とオリジナル部分の創作のバランスが実写化する際の醍醐味」だという。原作ファンが多い作品の実写化ということもあり「原作ファンを大切にしながら、原作と実写化の違いを常に見つめながら制作した」と全体を振り返った。
また、物語のプロットとしての“安達の魔法”のユニークさに注目し「触れた相手の本音を知ってしまう主人公が、受け取った本音に対して寄り添っていく過程を重視して描いてきた」と語り、「映像の豊かさを生み出すため、グレーディング(映像の色彩やトーンを演出する過程)を撮影に入る前にスタッフ全員で決め、それに伴って美術・製作チームに照明色のトーンやセットデザイン、装飾などを作ってもらった」と映像づくりの工夫についても明かした。
タイ版は “オリジナルな作品”という認識をもって
続いて、タイ版『チェリまほ』(CHERRY MAGIC 30 ยังซิง)を手掛けた那達彭監督が、タイでドラマ化する際の「タイの視聴者へ向けたローカライズ手法」について語った。
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日本が舞台である『チェリまほ』の物語をタイでドラマ化する際に、“いかにも日本のマンガが原作である”という要素をなるべく排除しタイの風土に溶け込ませるため、通勤の交通手段を電車から船にする、安達が最初に心の声を聞く人をコンビニ店員から寺院の僧侶に変更するなど、随所にタイの文化を移植した。また、安達と黒沢の会社は日系企業という設定にしているものの、日本よりも階層的でなく同僚との距離感が近いタイの会社の特徴や、水かけ祭り「ソンクラーン」などのイベントも盛り込まれた。
タイ版は1話50分・全12話の構成で、日本版に比べ1話ごとのストーリーに余裕があったため、日本版の映像イメージを一旦リセットし原作マンガを中心に据えてタイ要素を入れ込んでいったと話す。
キャラクター設定に関しては、日本版の黒沢のパーフェクトな人間ではなく、「自問自答を繰り返す性格、歌が下手」といったコミカルさをプラス。完璧に見える人も完璧でない部分があるところに人間味が出て、黒沢も完璧でないからこそ安達が救われるというつくりにした。一方セリフ選びは難題で、タイ人の安達はどんなバックボーンをもっていて、どんな言葉を使うのかなど、ローカライズで生まれた要素と原作の雰囲気を壊さないバランスに気を配ったという。
タイ版ドラマの反響について聞かれた那達彭監督は「原作ファンに気に入ってもらえるか心配だったが、あまり比較されることなく、オリジナルな作品という認識をもってくれて悪評はない」と語り、「脚本構成時点のタイでは“同性婚”の法制化を望む声が多く上がっていたが、タイ版『チェリまほ』の放送と並行して議論が進行、最終話放送直後に同性婚を認める“婚姻平等法”が可決された。これは『チェリまほ』の魔法だ!」と同性婚法制化への喜びも明かしてくれた。
編集後記
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今回のフォーラムの司会を務めた宋鎵琳(Anita SUNG)さんがいる「株式会社BIG ART」ブースを訪ねたところ、“台湾BLドラマの女王”と賞される脚本家・プロデューサーの林珮瑜(リン・ペイユー)氏に偶然お話を聞くことができた。
台湾のBLについて林さんは「台湾のBLファン層は女性中心に厚く18~49歳くらい(うち、コア層は20~36歳)。タイのBLがセクシー系で肉体描写に前向きな作品だとすると、台湾BLは温かみのある心のつながりが描かれる作品が多いです」と語る。また、「原作がある作品だけでなく、オリジナル作品にも力を入れており、どちらも楽しんでもらえている」として、「ドラマ制作時のプロジェクトのなかに事前にグッズや写真集、イベント開催などを含めているため、ドラマ放送からスムーズな周辺展開が可能なのです」と制作事情についても説明してくれた。
今回のTCCFのなかでは『チェリまほ』台湾版制作の話題はなかったが、今後の動向に注目したい。
IP當地化:從《櫻桃魔法》看BL漫畫改編到電視劇的海外熱銷關鍵
司会:
株式会社ビデオマーケット アジアコンテンツ事業戦略部長兼チーフプロデューサー・宋鎵琳(Anita SUNG)インタビュイー:
テレビ東京 プロデューサー・本間かなみ
AOI Pro. 監督・風間太樹
有限会社GMMTV シニアディレクターコンテンツ制作・那達彭・蒙寇薩瓦(Nuttapong MONGKOLSAWAS)