『パラサイト 半地下の家族』が米アカデミー賞4部門に輝き、女性監督の『はちどり』が日本でミニシアターを中心にロングランを記録するなど、今年、日本と世界で進撃を続けた韓国映画。2021年も話題作の日本上陸が続々決定している。中には今年大ヒットしたドラマで人気の俳優が出演している作品も。大作、社会派、コメディ、青春ドラマetc. 来年必見の多様で多彩な4本をピックアップした。
壮大なるディストピアで生き抜く人々
『新感染半島 ファイナル・ステージ』
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コン・ユが釜山行きの列車でゾンビと闘った『新感染 ファイナル・エクスプレス』の4年後の物語。とはいえ、『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、おそらく多くの人にとって、予想を裏切る(いい意味で!)はずだ。なぜなら『新感染半島 ファイナル・ステージ』が描くのは、完全なるアナザーストーリー。本作の舞台は、もはや現実社会でいうところの日常が崩壊した後の終末後の朝鮮半島だ。
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前作からさらにスピード感を増したアクロバティックなゾンビが恐怖を高める中、ヨン・サンホ監督ならではのヒューマン・ドラマはしっかり健在。軸となっているのは、ディストピアと化した朝鮮半島で生きるために抗う生存者一家の奮闘だ。監督に「彼の目から伝わってくる思いがあまりにも強烈で、つい引き込まれてしまう」と言わしめたカン・ドンウォン。そして「冬のソナタ」でヨン様の上司役で人気を博したクォン・ヘヒョが、生存者一家の祖父役でいぶし銀の演技を見せる。さらに、「美しき日々」でチェ・ジウ扮するヒロインの妹的存在の少女を演じたイ・ジョンヒョンが、家族を守るために体を張って闘う母親(!)役に。ダークカラーの服に身を包み、銃を手にする凛とした姿は、『ターミネーター』シリーズのお母さん戦士、サラ・コナーを彷彿させる。
怖いのはゾンビのみならず、人間の渦巻く欲望。極限状態に置かれた人たちに残された未来は、破滅か希望か――。
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知られざる「闇の40日」を掘り下げる
『KCIA 南山の部長たち』
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社会派サスペンスの真打が『KCIA 南山の部長たち』。韓国現代史最大の事件のひとつ、パク・チョンヒ大統領暗殺を正面から捉えた作品だ。「独裁者」「経済発展の立役者」といまも見方が大きく分かれるパク・チョンヒ大統領だが、本作が焦点を当てるのは単なる人物評価ではない。全編を貫くのは、「大統領に次ぐ強大な権力を持っていたと言われるKCIAのトップが、なぜ大統領を射殺したのか」というミステリー。1979年10月26日に至るまでの40日間に関わった人物の行動を掘り下げ、歴史の闇に肉薄する。
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特筆すべきは、「ミニマムな演出」だ。KCIAの部長に扮する主演のイ・ビョンホンも、大統領役のイ・ソンミンも、抑えたトーンのセリフと動作を生かしつつ、目や眉、唇の小さな動きで深い感情を表す。それが一層ひりひりかつジリジリと、誰もが知る歴史的な「暗殺の日」に向けて緊張感を高めていく。
韓国映画評論家協会賞で作品賞と主演男優賞を受賞し、2021年開催のアカデミー賞国際長編映画賞韓国代表にも選出。まさに名実ともに今年の韓国映画界を象徴する作品といえるだろう。
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ユーモアたっぷりで心ほっこり
『チャンシルさんには福が多いね』
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2020年の韓国は、女性監督が相次いでデビューした年だった。そのひとりが、『チャンシルさんには福が多いね』のキム・チョヒ監督だ。キム監督は、もともと『ハハハ』『ソニはご機嫌ななめ』『自由が丘で』などホン・サンス監督のプロデューサーを務めていたが41歳で辞め、今後に悩んでいた時に女優のユン・ヨジョンの映画での方言指導の仕事をゲット。それが「元プロデューサーが俳優の家で家事手伝いをすることになる」という本作の着想につながったという。
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映画はチャンシルさんがともに仕事をしていた映画監督が突然亡くなるところからスタート。職を失ったチャンシルさんは、年下の俳優ソフィのお手伝いさんとなり、ソフィのフランス語の先生(年下!)に心をときめかせ……。アラフォー女性の切ない物語かと思いきや、ちょっぴりとぼけたハートウォーミングなコメディだ。カン・マルグム扮する、のびのび自然体なチャンシルさんに加え、『ミナリ』でアメリカの賞レースで高い評価を受けた演技派ユン・ヨジョン、ランニング&トランクスで『欲望の翼』のレスリー・チャンのそっくりさんに扮するキム・ヨンミン(ご存じドラマ「愛の不時着」の耳野郎!)など、脇のキャラも立ちまくり。
‘太陽のように輝く果実’という名前のごとくポジティブで明るいチャンシル(燦実)さんの姿ににっこり、ほっこり。かけがいのないものをひとつ失っても、それに代わるたくさんの福が実は身近にあるということを、気づかせてくれる。
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現実にもたくさんいる私たちの物語
『野球少女』
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まず、冒頭に流れる文字に驚く。「韓国のプロ野球が始まった当時、医学的に男性でない者は不適格選手とされた。1996年の規約改定により、現在は女性もプロになれる」とある。つまり、女性もプロ野球選手になれるのだ。『野球少女』は、そんな女子にとって稀有なプロの世界を目指す高校3年生のスインが主人公。演じるのは、ドラマ「梨泰院クラス」のトランスジェンダーの料理長役でブレークした、イ・ジュヨンだ。
天才少女と称えられ、韓国で高校野球20年ぶりの女子選手として注目されるスイン。ところが、憧れのプロ球団に指名されたのはチームメイトで幼なじみの男子だった。母や友達、野球部の監督からも夢をあきらめるように忠告され、女子だからという理由で入団テストを申し込むのもままならず――。
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監督が「シナリオを書きながら多くの人にインタビューをしたところ、現実にも大勢のスインが存在すると気づいた」と言うように、学生時代は男女平等だったはずが社会に出たら実は不公平というのは、日本でもあるあるな出来事。すなわち、『野球少女』は特殊なスポーツの世界ではなく、現実にもたくさんいる私たちの物語だ。
真っすぐに夢を信じるスインの姿に勇気をもらえるのはもちろん、コーチのジンテのアドバイスも心に響く。そう、若者のみならずビジネスにも役立つヒントがちりばめられた、「NiziU」の生みの親J.Y.Parkの金言のように。
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