8月26日から41の国と地域で公開された本作は、世界興行収入5,300万ドルのオープニングを記録。コロナ禍にあっても、他の追随を許さない圧倒的な強さを見せつけ、各国で初登場No.1を獲得した。
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本作の大枠は「世界の破滅を回避すべく、スパイが奔走する」物語なのだが、そこに「時間の魔術師」なノーラン監督らしい「時間の逆行」という要素を入れ込み、映像的にも物語としても、これまで観たことがない内容に。歴史的な傑作と呼ぶにふさわしい、驚異的な作品に仕上がっている。
今回は、ノーラン監督と主演を務めたジョン・デイビット・ワシントンの2人にインタビュー。予定時間を超過しても、作品の魅力や舞台裏を饒舌に語りつくしてくれたノーラン監督とワシントンの言葉を、余すことなくお届けする。
“時間”は「世界の見方を変える」
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――『TENET テネット』、読解力を総動員しなければ太刀打ちできない傑作かと思います。同時に、監督の「観客の理解力を信じる」姿勢を強く感じました。
ノーラン:常々、映画は誠実に作っていきたいと思っています。ではその誠実さとは何なのか? それは「自分が観たいものじゃないと作りたくない」なんです(笑)。
そして、「きっと、私が観たいと思う映画を楽しんでくれる人がいるに違いない」という信念はありますね。
自分だったら何を期待するのか? ワクワクしたいし、現実逃避がしたい。今までに見たことのない世界を見たいし、やっぱりエンターテイメントがいい。プラス、世界に対する見方がちょっと変わるかもしれないもの、あれこれ考えたくなるものが観たいんです。
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――今回は、ノーラン監督がこれまで描いてきた「時間」というテーマがより複雑化していますが、『TENET テネット』における時間の意味合いとは?
ノーラン:「時間」はこれまではメタファーであったり、話を円滑に進めるデバイス的な役割を果たすものとして、使ってきました。『TENET テネット』では、「世界の見方を変える」意味合いとして用いています。
――「逆行」は、まさに観たことがないものでした。
ノーラン:映画の中ではいろんな物理学の法則が出てきて、「すべてはシンメトリーだけれど、エントロピー(熱力学における、複雑さを表す概念の1つ)だけは例外である」と描いていますが、「逆行」の部分に代表されるように、「時間」というものを物理的な次元に落とし込んで、リアルに画面の中で見せていかなければいけませんでした。
逆行をどうCGを使わずに表現するか……役者にも不自然な動きをしてもらわなければならないわけですし、演出的にも技術的にも工夫を凝らしましたね。
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例えばカーチェイスのシーンなどは、1つのショットを作り上げるのに6通りの撮り方を試しました。その6パターンの映像を編集でつなぎ合わせて、作り上げているんです。毎シーン毎シーン、計算して組み立てて、試行錯誤の連続でしたね。