舞台となるのは、ゴールデン・ゲート・ブリッジや坂道を走る路面電車、優雅に佇むヴィクトリアン様式の家が並ぶ情緒豊かなサンフランシスコ。歴史あるこの街は、急速な発展によって地価が高騰し、富裕層が多く住むようになったことで、代々住んでいた者たちは行き場所を失っていた。
主人公を実名で演じる、サンフランシスコで生まれ育ったジミー・フェイルズもその1人。メガホンを執ったジョー・タルボット監督は、幼なじみであるフェイルズが体験してきた物語を自身初の長編映画として作り上げた。
本作は、サンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞をW受賞したほか、世界各国の映画祭で高い評価を受け、オバマ前米大統領の2019年のベストムービーにも選出されている。

生まれ育った場所が面影も残らないほど変化することで、大切な記憶が上書きされ、自分のアイデンティティまで否定されてしまうような感覚。それは一見パーソナルな物語でありながら、いまや世界中で起きつつある問題を描いている。多くの財産をもたず、大都市の片隅に追いやられても、家族の記憶が宿る美しい家や、かけがえのない親友を大切にするジミー。そんな彼の姿は、「人生にとって、本当に必要なものとは何か」を見つめ直し、寄り添う。
解禁となった予告編では、ベイエリアを象徴する汽笛の音が鳴り響き、主人公のジミーと彼の親友・モントが2人でスケートボードに乗り、街をかけ抜けるシーンから始まる。
歴史あるサンフランシスコに住んだ“最初の黒人”だったという祖父が建てた、1軒のヴィクトリアンハウス。都市開発によって変わっていく街で、家族との記憶が宿った大切なその家を取り戻そうと奔走するジミーと、それを支えるモントの友情が描かれる。美しい街並みを捉えた映像、スローモーションを活用したカメラワーク、そして登場人物たちの優しくも力強い台詞が印象的で、長編デビュー作であるにもかかわらず、世界各国で絶賛されたジョー・タルボット監督の作家性が垣間見える。
予告編の最後は、「多くの財産を持たなくとも、心の中に大切な居場所とかけがえのない友がいる。それだけで人生はそう悪くないはずだー」というタルボット監督の言葉で締めくくられ、詩的な雰囲気を纏いながらも、そのメッセージはいまの時代を生きる私たちの胸に強く響くものとなっている。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』は10月9日(金)より新宿シネマカリテ、シネクイントほか全国にて公開。