「勇者ヨシヒコ」シリーズなど、おなじみ福田雄一監督作において、安定の笑いをもたらしてくれる3人。もちろん、今回の映画『50回目のファーストキス』でも、映画館が爆笑の渦に包まれることは言うまでもないが、ひとつ、大きく違うのは、本作が正真正銘、感動のラブストーリーであるということ。天文学者になる夢を抱えるプレイボーイと短期記憶障害を負ったヒロインの恋に、ハンカチが必要となること請け合いなのだが、これら熱い涙のシーンに3人はどのように向き合ったのか?
アダム・サンドラー&ドリュー・バリモア主演のハリウッド映画『50回目のファースト・キス』の日本版リメイクとなる本作。事故の後遺症で新しい記憶が1日でリセットされてしまう短期記憶障害を負っている瑠衣(長澤まさみ)に恋する主人公で、天文学者になる夢を抱え、ハワイで働く大輔を山田さんが演じ、その親友をムロさん、そして瑠衣を傷つけまいと事故の日と全く同じ出来事を毎日繰り返す父親を佐藤さんが演じている。
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――「あの福田雄一監督がラブストーリーを」、「福田雄一に泣かされる!」と話題の本作ですが、みなさんはいつもとひと味違う福田作品をどのように受け止めたんでしょうか?
山田:最初に話をいただいて、オリジナル版の映画を観たら、すごく面白かったし福田さんっぽいなと思ったんですよね。福田さんに合ってるなと。どこがって聞かれるとわかんないけど、テンポとかコメディ色とかですかね? これを日本でやるなら、福田さんだろうって思えたんです。実際、脚本を読んでも日本版としてうまいなと思いました。これは面白くなるなと。
ムロ:僕は、福田さんとは一緒に舞台もやってて、福田さんが実は“いい話”も書けるってことは知ってたんでね。
佐藤:実はね(笑)。
ムロ:だから、すんなりと入れたんですけど。まあ、まさかこのメンバーでこういうラブストーリーをやれるとは思ってなかったんで。主人公とその親友、ヒロインの父親ってポジションで…。
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――完成した映画を観て、特に「泣けた!」というシーンは?
ムロ:まあ、本人の前では絶対に言わないけど、佐藤二朗の涙には弱いので、そこかなぁ…?
佐藤:目の前にいるよ(笑)! いや、僕もムロと同じなんですけどね。以前、福田の演出で「THE 39 STEPS」という舞台に出させてもらったんです。そのとき、渡部篤郎さんを撃つシリアスなシーンで、どうしようかと思ってたら、福田に「上手まで歩いてきて」と言われたんです。そうすると渡部さんを見ないで撃つことになるんだけど、そのひと言の演出で、シリアスなシーンがグッと良くなったの。
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――その経験もあって、福田監督が笑いだけでなく、シリアスな作品やラブストーリーでもいい演出をするであろうことはわかっていた?
佐藤:WOWOWのシリアスなドラマ(「同期」)を書いたりもしてるしね。ネタとして「福田がラブストーリー…体調でも悪いのか?」とか言ってますけど、世間で言うほど実際は意外でもなくて。今回も、テーマは結構、重いものをはらんでいるけど、不思議なほど悲壮感なく描かれているところが福田らしいなと。老若にゃんにょ…(苦笑)。
ムロ:わかりますよ。大丈夫です(笑)。
佐藤:老いも若きも男性も女性も楽しんでもらえるんじゃないかと(笑)。
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――佐藤さんのお気に入りのシーンは?
佐藤:僕は孝之が勤めてる旅行会社での、同僚の勝矢と山崎紘菜と一緒の3人のシーンが好きだね。テンポがよくて面白くて。
山田:ホントですか(笑)?
佐藤:ホント、山崎がね。映画の中で大輔が、瑠衣を元気づけるために作るビデオがあって、それを父親も見てグッとくるシーンがあるんだけど、芝居の中でビデオを見たとき、(ほかの共演者と比べて若い)山崎はまだ委縮して、ちょっと緊張してるのかな? と思ったの。でも、完成した映画で改めて見たら、すごく良くなってて、福田に「いい演出だね」ってメールしたもん。
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――福田監督によるラブストーリー自体に3人とも意外性は感じなかったようですが、実際の現場でもいつもとの違いや変化はなかったんですか?
ムロ:僕はそんなに感じなかったけど…ただ、みなさんがよく想像するであろういつもの作品と比べて、コメディしなくていいシーンが多かったのは事実ですね。みなさん、お気づきかとは思いますが、僕らももちろん“役者”ですから…(笑)。
山田:そうですね(笑)
佐藤:あははは。うん、そこちゃんと言っとこうな(笑)!
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――決してコメディアンや芸人ではなく…。
ムロ:役者です! そこで役者に集中できる時間がいつもよりは長かったです。いつもは、そういう時間に加えて「このシーン、成立させてくれるよね?」「何かちょっと足してくれるよね?」という無言の圧力との戦いがあるから(笑)。
――恋と夢とどちらを選ぶべきか悩む大輔との2人の砂浜でのシーンも感動的です。
ムロ:山田孝之とそういうシーンをやることはもうないのかな? とあきらめかけていた頃に巡ってきたんでね(笑)。肩の力を入れずに、ずっとやりたいと思っていたことがやれるんだなぁって。
山田:楽しかったですね。もちろん大輔は悩んでるし、決断しなきゃいけないシーンなんだけど、真剣にやればやるほど「え? ムロさんと何やってるんだろう?」「ハワイのこんないいロケーションで、なんで泣きそうになってんだ?」って(笑)。
佐藤:僕も、これは決して楽をしようと思って言うんじゃないけど(笑)、ムロが言ったのと全く同じです。ムロの発言を僕の意見として書いてほしい(笑)。いつも「なんか面白いことやってくれよ」という無言の圧力を感じてるのも同じ。だから今回、肩の力を抜いて、孝之や長澤と芝居ができるのは嬉しかったね。いつもは雲の上から孝之を見てたけど(※「ヨシヒコ」シリーズの仏)、やっと孝之と同じ目線で芝居ができると(笑)。
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――瑠衣を傷つけまいと、事故の日の新聞とニュース映像を用意し、毎日、同じ1日を繰り返そうとする父親の姿に涙する観客も多いかと思います。
佐藤:すごくつらい境遇にいる娘を持った父親なので、そこは土台としてしっかりと持っていようと思っていました。そこに大輔が現れて「なんだこいつ?」って感じなんだけど、おそらくはそういう状況にいる父親って、誰かに助けてほしいという、藁(わら)をもすがる想いを抱いてると思うんですよ。その藁がこいつなのかも? と思い、頼りつつも、でもこいつはいずれハワイを出て行くんじゃないか? という思いもあって。そういう感情の変化を計算しつつの芝居を孝之とやれたというのは、この映画での一番の収穫というか、すごく嬉しいことでしたね。
ムロ:(瑠衣の弟役の)太賀の存在が大きかったですよね。
佐藤:そうなの。大きかったね。
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ムロ:太賀がいることで、この苦しい状況を笑いにしていいんだなって。「ボケ」と「ツッコミ」という言い方はあまりしたくないんだけど、僕らって実はボケ側の人間じゃないんですよ。どっちかというと受け身で「それ違うだろ」と言う側。太賀がいたことで、お父さんのいい部分がすごく出てたし。
佐藤:太賀がいてよかったのは、まず僕自身にとって、同じシーンにいるときに彼が笑いを担ってくれたから、力を抜いて芝居に集中できたってこと。もうひとつ、物語にとってもそうで、全体として結構、悲惨なお話ですけど、そんな状況でも人は毎日、飯を食うし笑うし、そんな悲壮になってばかりいられないんです。彼の存在でそれが観客にも伝わるんだよね。
ムロ:あのシーン、良かったね! 車で病院に向かうところ!
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――自身の障害を知らされた瑠衣と父親、弟、大輔が、瑠衣が治療を受けていた病院に向かう車中のやり取りですね?
ムロ:あのシーン、シリアスなはずが途中からコメディになっていくの。あれが福田さんの凄さですね。普通ならあそこはずっとシリアスなままでしょ。あそこにコメディ要素を入れるって、いま、他の監督にはない部分だなと思いますね。
――山田さんは、いつもの福田組との違いは現場で感じられましたか?
山田:いや僕自身、普段からこの監督だからこういうストーリーで…というスタンスがあるわけでもないので、あんまり「福田さんだから」とか関係ないんですけどね。まあとはいえ、ふとした瞬間に「なんで福田組で…」という思いはよぎるんですけど(笑)。
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佐藤:ふとした瞬間にな(笑)。
山田:なんで福田さんとこんな真剣な話をしてるんだ? と(笑)。
――久々のラブストーリーという点に関してはいかがでしたか?
山田:楽しかったですね。正直、不安もすごくあったんですよ。10年近くやってなかったので、24~25歳の時と34~35歳じゃ感覚は全然違うし、あの当時みたいに素直に目の前の状況に笑ったり、泣いたりできるのかな? って。でもやってみたら、逆にいまのほうが素直にできましたね。無駄にあれこれ考えず、「見え方」とかを気にせずに自然とできたなと思います。
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――ここまでも十分に語っていただきましたが、改めて福田監督の凄さ、福田作品の魅力についてお聞かせください。
ムロ:改めて言うと…(真剣なまなざしで佐藤さんのほうを向き直り)ふざけた“フリ”をできる人、普通のことをするのが実は難しいと知ってる人は、どうやったら普通のことをできるのか? とすごく考えてると思うんですよね。普通の状況がないと、逸脱した面白さって作れないんです。それは、福田さんもそうだし、僕の大好きな佐藤二朗という役者にも言えることだと思います。「普通」ということができるってことは、「ふざけたこと」をできるということ。そのバランスを福田雄一と佐藤二朗は持ってるんじゃないかと。
佐藤:(こらえきれず)うはははは(笑)!
ムロ:すごいでしょ? いまのやりとりの面白さ、文章にしたら絶対に伝わらないでしょ?
佐藤:これ伝わらないよ(笑)。どういう顔でムロが言ってたのか…文章だけで読むとめっちゃ気持ち悪いわっ!
ムロ:僕は面白いこととして言ったけど、文章で読んだらクソ真面目ですからね。
山田:もったいないな。「ボクらの時代」であってほしかった…。
ムロ:いや、「冗談」と言いつつ、それはホントです。普通ができることの難しさを知ってるんですよね。
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――山田さんは?
山田:やっぱり笑いですよね。ジャンルで言うところのコメディとかそういうのはわかんないけど、笑いって全ての要素が詰まっていて、そうじゃないとできないと思うので。これだけずっと笑いをやり続け、求められるって、それだけですごいことだと思います。
佐藤:僕の意見は、ムロと全く同じなので(笑)、インタビューの「ムロ」というのをそのまま「佐藤」にしてもらえたら大丈夫(笑)。
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