本作の主人公“先輩”の数少ない友人である“学園祭事務局長”を演じたのは、唯一無二の声色が放つ存在感と高い演技力、そして作品やファンへの真摯な佇まいが人気を博し、昨今の声優人気の中でも一線を画する声優・神谷浩史。
「僕が演じた“学園祭事務局長”は、原作を読んだ段階では、そこまでキャラが立ってるように思わなかったんです」「だって変なキャラクターがいっぱいいるから。天狗だと名乗る人まで出てきて、それがうそか本当かも分からない…そういう世界観の中で、“先輩”のいち友人であり事務局長というポジションにいるからには、非常に常識的な人なんだろうな、という印象だったんです」――しかし、実際に神谷さんがスクリーンに投影したのは見事なまでに個性的で、魅力的で、とても愛おしい人物だった。神谷さんは如何にしてキャラクターを作り上げたのか?
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原作・森見登美彦×監督・湯浅政明、ほかアニメ「四畳半神話大系」のクリエイター陣再集結で贈る本作。登場人物たちは“先輩”を筆頭に誰も彼も個性的! 中でも“学園祭事務局長”は、映像化にあたり原作の“こじらせ”エッセンスを一際膨らませて描かれる。
小説の中では「美形で女装癖があり、幾多の男性を無謀な恋路へと翻弄してきた」と謳われてはいるものの、その描写は書かれていない。しかし、本劇中ではその才能を遺憾なく発揮し、女装をして歌い踊る場面が登場。神谷さんが自身の声帯から、キュートで可憐でキラキラオーラ全開の女子ボイスを発し、『ラ・ラ・ランド』もかくやというミュージカルシーンを演じる。
もはや当初のイメージからはだいぶ離れ、なんともドラマティックなキャラクターに仕上がっている。そこに至るには様々な要素が肉付けされていった役作りの過程があったようだ。
「まず、ファーストシーンの演出(ダメ出し)として『優雅で余裕があって落ち着きがある人』と言われたんです。ところが、物語が進んで“事務局長”という立場で学園祭を運営するにあたっては、非常に冷静にいろんなことを分析する一面が見えてくる。“先輩”に『学園祭を手伝え』と語りかけるシーンでは、冷血とまでいかないですけど…先輩の気持ちさえも利用して『この学園祭というものを正しく運営してこう』とするんです」。
さらに物語が進み、思い通りに学園祭が運営できないことへの悔しさを露わにするシーンでは「『悔しがっている自分』っていうものを表現してほしいと言われました。いま起こっている問題について『一体コレはどういうことだろう?』と独りごちるところも、割りと『ドラマチックにやってください』と。ナルシストな部分が出てくるんですよね」。
「彼は、自分の見た目が優れていて、人を率いる役割に秀でていることを自覚している。その上で、求められた“事務局長”というポジションを演じているんだと思う」「だから、周りから見た“人気者の学園祭事務局長”を構成する要素には、実はいろいろな表情があって、それらを見せるためには、僕も多様な表現をする必要があった、というわけです」。
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くるくると移ろう万華鏡のような彼を演じるうえで意識していたこと…それは「魅力的な世界を構成する上で、“学園祭事務局長”が魅力的なパーツとしてこの作品の中で正しく機能するためにはどうしたらいいんだろう、っていうのは凄く考えてました」「ただ、木村絵理子音響監督の指示がすごく的確だし、自分が迷ってたことに対して明確な答えが返ってきた。湯浅監督の意図をちゃんと正しく伝えてくれる人がいたので、僕はそれを信じて演じることができました」。
そんな収録を「凄く楽しかった」と飾らない言葉でふり返る。「いろいろな表情を見せられたと思う。優雅なところもクールなところも、ちゃんとしている部分も、女装して歌いながら自分の気持ちを吐露してみたり…。ただカッコイイ&可愛いだけじゃなくて、ちゃんと一生懸命に生きる姿を表現してもキャラクターは魅力的に映るんだ、ということを今回証明してもらえた気がして、『一生懸命やってよかったな』って思いました」。