『ゼロ・ダーク・サーティ』鑑賞。冒頭、真っ暗な画面。音声と字幕のみで伝えられる9.11直後の模様。嫌でも、あのニュース映像を頭に思い浮かべ、当時の記憶が蘇える。当事者の証言に基づくこの作品の徹底したリアリティは凄まじい。余計なものは一切削がれた演出は本当にドキュメンタリーを観ているかのよう。終始続く緊迫感、人物のドラマは極力省かれ、感情移入する余地はない。巨大な“事実”は観客を圧倒し、疲弊させる。ただ1点、ジェシカ・チャステインの魅力をどう捉えるか。主人公のCIA女性分析官が若く、聡明で、あまりに美しい。彼女のキャラクターが物語を牽引する、そして、彼女の存在だけが唯一、エンターテインメントを感じさせてくれる。これは“映画”だと。世界一有名なテロリストの最期を目撃し、ふと感じる、怖ろしさ。人が人を殺し合うという、ごく単純な悲劇の構図。鑑賞後のこれほどの虚無感は、力のある作品だからこそ。