※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

第97回アカデミー賞先取り 試練に挑む全ての人たちへ捧げる授賞式に

第97回アカデミー授賞式の準備たけなわだった1月にロサンゼルスを襲った山火事。未曾有の被害を被った前代未聞の状況下で、現地時間3月2日にアカデミー賞授賞式が行われる。

最新ニュース コラム
注目記事
『ANORA アノーラ』©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
『ANORA アノーラ』©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
  • 『ANORA アノーラ』©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
  • 『エミリア・ペレス』© 2024 PAGE 114 - WHY NOT PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA
  • 『あめだま』© Baek Heena, Toei Animation
  • 『ANORA アノーラ』©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures
  • 『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVES © Universal Pictures
  • 『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
  • 『アイム・スティル・ヒア』©2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma
  • 『ウィキッド ふたりの魔女』© Universal Studios. All Rights Reserved.

第97回アカデミー賞授賞式の準備たけなわだった1月にロサンゼルスを襲った山火事。未曾有の被害を被った前代未聞の状況下で、現地時間3月2日にアカデミー賞授賞式が行われる。

■2024年度オスカー候補作を読む

『エミリア・ペレス』© 2024 PAGE 114 - WHY NOT PRODUCTIONS - PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA

今年のアカデミー賞候補作品は、試練を課せられた主人公(そして主演俳優自身!)がテーマになっている作品が目立つ。

筆頭は、ジャック・オーディアール監督作品『エミリア・ペレス』。短い劇場公開のあとNetflixで公開された本作は、麻薬カルテルのボスが性別適合手術を受け、新たな人生を歩むという異色のミュージカル・スリラー。作品賞を含む12部門13ノミネートを受け、主演カルラ・ソフィア・ガスコンは、トランスジェンダー俳優として歴代初の主演女優賞候補に上がった。

しかし、ノミネーションの後で本作に試練が。カルラが過去に発信したツイートが差別的だとネットで大炎上したのだ。一部ではオスカー辞退を求める声も上がったが、本人は辞退しない意向を表明した。当初は賞レースの先頭を走っていた本作だが、カルラのSNSスキャンダルは本作にかなりのダメージを与えたと伝えられている。

『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVES © Universal Pictures

次の注目作品は、ホロコーストを生き延びた建築家の半生を描いたドラマ『ブルータリスト』だ。10部門でノミネートされ、主演のエイドリアン・ブロディが久々にオスカー候補として脚光を浴びている。『戦場のピアニスト』でオスカーを獲得したエイドリアンはその後、長らくヒット作に恵まれず、薬物依存の噂まで囁かれたが、この映画で見事な復活を遂げた。ホロコーストを扱っている本作は、ユダヤ系の多いハリウッドにおいて賞レースで有利に立たされている作品といえるかもしれない。

『ANORA アノーラ』©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures

さて、カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した『ANORA アノーラ』は、5部門でノミネートされており、独特のユーモアと社会風刺を織り混ぜた映画として話題だ。ロシア系アメリカ人の若きストリップダンサーとロシア新興財閥の御曹司が突発的に結婚することで起きる悲喜劇を描いた作品で、辛口『プリティウーマン』といったところか。監督ショーン・ベイカーはこれまでに『タンジェリン』(2017)や『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)などで、独特の映像美と心に刺さるストーリーを融合させた作品を送り出しており、『ANORA アノーラ』も期待の1作だ。

『ウィキッド ふたりの魔女』© Universal Studios. All Rights Reserved.

大ヒットの舞台ミュージカルを経て製作された映画『ウィキッド ふたりの魔女』は、候補作品のなかで一番の興行ヒットを記録した作品。シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの共演によるこの作品は、作曲部門でもノミネートされており、授賞式でのパフォーマンスも楽しみ。

■今年の注目部門はコレ!

『The Substance(原題)』(c)The Match Factory

今年の主演女優部門は一番の見どころと言っても過言ではない。前出の『エミリア・ペレス』主演女優カルラ・ソフィア・ガスコン、そしてオスカー前哨戦のゴールデン・グローブ賞で主演女優賞に輝いたデミ・ムーアの2名が他を引き離している。

62歳になる現在も眩いばかりの美しさを保つデミは、『ゴースト/ニューヨークの幻』で世界中を魅了し、80~90年代に栄華を極めたが、ここ十数年は年齢差別が横行するハリウッドでの苦しい状況が続いていた。しかし、候補作品となったサスペンス・スリラー作品『サブスタンス』が突破口となった。本作でデミは、かつての若さと美貌に固執するがゆえに危険なクスリに溺れていく50代のハリウッド女優を赤裸々に演じ、その勇気ある演技に賞賛が集まっている。

彼女のゴールデン・グローブ主演女優賞の受賞スピーチは、試練に立ち向かう人々への力強いメッセージとなり、大きな感動を呼んだ。人生のチャレンジに立ち向かってきたアーティストを評価する傾向のアカデミー賞だけに、女優賞の行方が楽しみだ。

■注目の日本作品

去年に引き続き、日本から複数の作品がノミネートされた。まずは短編アニメーション部門で、東映アニメーション制作『あめだま』だ。受賞の有無に関わらず、日本のアニメーション技術と表現力は、世界の映画業界で揺るぎのないステータスとなっていることは確か。

短編ドキュメンタリー部門では、山崎エマ監督が日本の小学校を1年にわたり取材したドキュメンタリー映画『小学校~それは小さな社会~』を基にした短編作品『Instruments of a Beating Heart』がノミネートされた。

『Black Box Diaries』(原題)

また長編ドキュメンタリー部門では、伊藤詩織監督の『Black Box Diaries』が候補に上がっている。性的暴行被害を告発したことで社会からバッシングを受けた監督自身の経験を追い、それでも勇気を持って不条理な社会に立ち向かい正義を追求していく姿を描いた作品だ。

『Black Box Diaries』の最大のライバルは、陶芸家たちの視点を通してウクライナ戦争を描いた『ポーセリン・ウォー/Porcelain War(原題)』だ。戦禍の中でも創作を続ける人々の姿が強く心に響き、批評家からの評価も高い。授賞式を目前に大規模なTVコマーシャル戦略を展開し、露出を大幅に増やしているが、『Black Box Diaries』がその影に埋もれず存在感を発揮すれば、十分にオスカー獲得の可能性はある。

■ハリウッドの元気を取り戻すショーに

Photo by Santi Visalli/Getty Images

ハリウッド映画関係者が多く住む地域で大きな被害が出た今回の大火災では、家を焼失したスターも多く、その中には9回に渡りオスカーの司会を果たした俳優ビリー・クリスタルの名前も上がっている。

ノミネーション発表も2回に渡る延期となり、投票期間が延長され、話題作数本のPR試写パーティーの中止や、毎年恒例の候補者ランチ・パーティーもキャンセルになるなど、異例ずくめの映画賞シーズンとなった。しかし、その中でアカデミーは敢えて、「映画の持つパワーを示す機会」として予定通り授賞式開催を決定した。

多種多様な作品がノミネートされている今年の授賞式だが、見る人たちに元気を与えるようなセレモニーであることを願う。

(文・取材:神津トスト明美/Akemi Kozu Tosto)

《Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

映画プロデューサー・監督|MPA(全米映画協会)公認映画ライター Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美

東京出身・ロサンゼルス在住・AKTピクチャーズ代表取締役。12歳で映画に魅せられハリウッド映画業界入りを独断で決定。日米欧のTV・映画製作に携わり、スピルバーグ、タランティーノといったハリウッド大物監督作品製作にも参加。自作のショート作品2本が全世界配給および全米TV放映を達成。現在は製作会社を立ち上げ、映画企画・製作に携わりつつ、暇をみては映画ライター業も継続中。

+ 続きを読む

関連記事

特集

【注目の記事】[PR]

特集

page top