映画公開を実現させた“人との繋がり”
――その後、映画の日本公開に向けて、どのような仕事があり、どうやって進めていったのかを教えてください。
『ストールンプリンセス』の配給権は自分で買って、会社も設立したんですけど、日本で公開をするとなるとP&A費(プリント代と広告費用)がかかるんですね。広く日本で観ていただくには、吹替版であることはマストだと思ったので、日本語吹替版の制作費用も必要でした。
最初は融資を受けることを考えて、計画書を持って銀行を回ったりもしたんですが、なかなか難しく…。そこでクラウドファンディングをすることを決めました。2022年の9月から11月にかけて、約2か月で目標金額は1,700万円だったんですけど、最初の1か月くらいは40万円くらいしか集まらず「これは終わったな…」と思いました(苦笑)。
それでも、あきらめきれず、地方も含めていろんな媒体のお問い合わせフォームにニュースとして取り上げてほしいと連絡を入れて、そこから少しずつ取り上げていただけるようになり、最終的に950万円が集まりました。
それでも足りなかったので、製作委員会を組むことにして、朝日新聞さん、KADOKAWAさん、ねこじゃらしさん(※『ドライブ・マイ・カー』の製作などにも参加している映画・映像コンテンツ製作会社)、ユナイテッドシネマさんの協力を得られることになりました。当初、1700万円で小規模での公開を考えていたんですが、5社のご協力によって、予算を増やして、日本全国で公開しようということになりました。
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――劇場公開の見込みが立ったわけですね。それ以外の日本語吹替版の制作についてはどのように進めていったのでしょうか?
今回、ありがたかったのは、製作委員会方式を取ってはいるんですけど、日本語吹替のキャストなどに関して、委員会の意向などが入ってくることが全くなくて、こちらから相談したいことがあれば、アドバイスをいただくという形で、すごく自由にやらせてもらえたんですね。なので、日本語吹替版の制作は基本的に私が中心に進めさせていただきました。
日本語版を制作する上で、まずは制作会社に当たって見積もりを取ってみたんですが、これがかなり高くて…(苦笑)。そんな時、クラウドファンディングに参加してくださった方で東北新社にお勤めされている方がいて、ある日、ご連絡をいただいて「東北新社で、できる限り値段を抑えて日本語版を制作できます」と言っていただけたんです。
打ち合わせに伺うと「こういうやりかたをすれば、予算を抑えられるんじゃないか?」といろいろご提案をいただきまして、本当にありがたかったです。
日本語版の台本に関しても、ウクライナの大使館のイベントのブースにクラウドファンディングのチラシを置かせていただいたんですが、それを見た方で翻訳を仕事にされている方が「もし協力できることがあれば」とご連絡をくださったんです。最初「タダでいいです」とおっしゃってくださったんですが、プロの方に仕事としてお願いするわけですから、ささやかではあるんですが報酬はお支払いしたんです。そうしたら、その額をそのままクラウドファンディングに出資してくださって…。
キャスティングに関しては、日本語版の制作にあたっては、声優の方だけでなく、いろんな人に参加してもらって、より多くの人に興味を持ってもらえるような作品にしたいと思い、アイドル、芸人さん、YouTuberやVTuberなど、いろいろリサーチしました。
東北新社さんからも「この役はこの方はどうでしょう?」などといったご提案をいただいて、進めていきました。
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――劇場回りのことや宣伝業務はどのように?
劇場公開の規模に関しては、私が希望を出した上で、KADOKAWAさんが全国の劇場に営業をしてくださいまして、ユナイテッドシネマをはじめ、全国の劇場で公開されることになりました。
宣伝は「紙・電波」と「WEB」でそれぞれ、フリーランスのパブリシスとの方にひとりずつ入っていただいてます。
――予告編はどうやって制作されたんですか?
予告編は大学時代の同級生にお願いしました。大学時代の友人たちは、制作の現場で働いている人が圧倒的に多いんですね。なので「映画をつくるなら手伝うよ!」と言ってくれる友人は多いんですが、映画完成後の仕事に関しては、残念ながら、あまり手伝ってもらえる人が少なくて…(笑)。そんな中でも、その友人は、テレビや映画の編集を仕事にしていて、助けてもらいました。
――いろいろな人のつながりが…。
本当に今回、多くの方に助けていただきました。どうしても少人数なので手が回らない部分も多いんですが、映画のポスターやチラシの配布についても、SNSでサポーターを募集して、ご厚意で配っていただいたり。本当にありがたいです。
「軽い気持ちで(映画業界に)入ってきちゃえばいい」
――ちなみに今後『ストールンプリンセス』以外の新たな作品の展開なども考えられているんでしょうか?
めちゃくちゃ考えてます。既に2作目の配給は決まっていて、決して映画制作が盛んとは言えないシンガポールで、日本のコンテンツにも影響を受けたという監督が11年の歳月をかけてつくった映画がありまして、その配給と宣伝の委託を受けています。
他にも韓国のアニメーション映画を交渉中で、今後は映画配給を中心に展開しつつ、他のエンタメ事業も色々考えています。
銀行の融資を受けようとしたというお話をしましたが、どうしても映画って水モノで波があるものなんですよね。担当の方からは「低くてもいいから、安定した収入があれば…」みたいなことを言われて、その時はすごく腹が立ったんですよ。「それがあれば苦労しないし、そんなこと言う人がいるから映画という文化が…!」って(笑)。でも、冷静に考えたら、本当にその通りなんですよね。
映画は好きなので、映画配給は継続的にやっていきたいけど、そのためにも一定の安定した収入がなくてはいけないなと。
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――最後に映画業界で働くことを志す人たちにメッセージをお願いします。
私は映画にそこまで詳しいわけではなく、例えばゴダールをちゃんと見てるかというと全部見てないし、そんな自分に自信がなかったんですよね。でもここまでやってきて、感じたのは、私が楽しければ、きっとみんなも楽しいし、それでいいんだなということなんですよね(笑)。
映画ってたくさん見てないと「映画好き」と名乗ってはいけないし、映画業界で生きてはいけないと思う人もいるかもしれませんが、そんなことは決してありませんし、映画だけでなく「エンタメが好き」という人がどんどんこの世界に入ってきてほしいなと思っています。
――中途入社されたチームジョイでの仕事も、単に“映画好き”という視点ではできなかったことが多かったでしょうね。
本当にそうで、チームジョイって良い意味で「お金好き」の人が集まった会社なんですよね(笑)。普通、そんなことしないでしょ? ってことをどんどんやってるし、「いままで、やったことのない仕事をどんどんやりなさい」という教えをいただきました。とりあえず、軽い気持ちで(映画業界に)入ってきちゃえばいいと思っています。