映画デビュー作以来、16年ぶり山下敦弘監督作品への出演
――映画デビュー作『天然コケッコー』以来、実に16年ぶりの山下敦弘監督の作品への出演となりました。
感慨深いです。本当に感慨深くて、あんなに緊張した現場もないですけど(笑)。巡り合わせでまた、しかも宮藤さんの脚本でやれるなんて、こんなに嬉しいことはないなと思いながら、その中で、成長した姿を見せるというわけではないですけど、ひとりの俳優として監督と真摯に向き合うことで、より緊張感を増すというか…。
ひとつひとつ言葉を自分の中で選択しながら、会話をしていったんですけど、やっぱりどこかで「がっかりされたくない」という思いもあって、それはすごく複雑な感じなんですけど…。でも、監督の演出の意図を感じながら映画を作るということに関しては、他の映画とは全然、思いが違うというのはありますね。
――山下監督とは今回、どんな会話をされたんでしょうか?
桜子役のオーディションがあって、そこに呼ばれて、ハジメくんとして相手役の方と演技する時間があったんですけど、最初の30分くらいはそこでハジメくんの演出を受けてました(笑)。
それはそれで初めての経験で山下監督に「オーディションに来てほしい」と言われて行ったものの、自分の中でまだキャラクターが固まっていなかったんですが、でも、その時間がすごくよくて、みなさんとお会いしてお芝居する時間が楽しかったですし、ハジメくんの新しい一面がどんどん出てきました。あの時間が今回の映画で活きた気がします。
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――改めて、当時10代で、映画の現場に足を踏み入れた『天然コケッコー』の現場は岡田さんにとってどういう経験だったんでしょうか?
たくさんの諸先輩方のお話を聞くと「デビューの頃の作品を超えることはできない」とみなさん、口を揃えておっしゃるんです。その意味がなんとなく、わかってきたところがあって、純粋な気持ちでカメラの前に立つことがなかなかできなくなってくるんですね。回数を重ねるたびによこしまな気持ちがわいてきて(苦笑)、見せ方とかを考えている時点で絶対的に(デビュー当時の気持ちに)勝てないんです。
僕は(『天然コケッコー』を)見返すことができてないんです。どこか構えてしまって、公開時に映画館で観て以来、観てないんです。ありがたいことに何回か、(リバイバルで)流してくださる劇場があったんですけど、行こう行こうと思いつつ、行けなかったんです。
山下監督とも「何かイベントがあればお声を掛けてほしいです」という話もしたんですけど、それくらい自分にとっては“原点”と言える作品で、ずっと超えられないもの、死ぬまで身体に残っていく作品のような気がしています。
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――当時、山下監督に言われて心に残っている言葉や忘れられない思い出があれば教えてください。
当時、まず“映画監督”という存在を僕は知らなかったんですが、山下監督はだいたい現場でカメラ横で、なぜか口を隠しながら芝居を見てるんですね(笑)。モニターではなく自分の目で僕らの芝居を見てくれていて、その安心感は今回の現場でも感じましたが、『天然コケッコー』の時もそうだったので、僕にとって “監督”というのは、そうやってカメラ横で見る人なんだと思っていたんですけど、他の現場に行ったら、そういう監督はあまりいなくて…(笑)。
もちろん、現場でモニターではなく、自分の目で芝居をジャッジする監督はいらっしゃいますけど。今回、この映画が始まった時、カメラ横にいる監督を見てなんだか嬉しくなりました。
当時はまだデジタルではなくフィルムだったので「お前、フィルムだぞ!」と言われても、何のことか僕はわからなくて…。「デジタルと違って何回もやり直しが利かない」という、一発、一発の重要性をあの現場で教えていただきました。
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その後、デジタルが増えて「フィルムで撮ったことある?」とよくいろんなスタッフさんに聞かれるんですけど「デビュー当時に、フィルムで撮っていただきました」と言うと、みなさん「そうか、よかったな」とおっしゃってくださるんです。そういう時代を知っていることがいまにも活きていると思います。その後も何度かフィルムで撮っていただいた作品はありましたが、やっぱり緊張感があるし「フィルムっていいなぁ」って思いますよね。
あの時は、季節が移り変わるのを待って、1か月空けて、また秋に撮影するということをやったんですけど、そういう撮影方法も、いまではいろんな事情でなかなかできないことだし、あんなに恵まれた環境で撮影をさせていただいてもらっていたことは、いまでも経験として良かったなと思いますね。
今回もやっぱり、山下監督とのお仕事は何にも替えがたいもので、やってよかったなと思いました。一瞬、迷ったんです。監督とこの作品をやること――果たしてこの作品でいいのか? この役でいいのか? など思うことがあって、でもこの作品とこの役でもう一度、山下監督と出会って、映画をつくることは、僕にとって今後に活きていく経験になったんじゃないかと思います。