俳優の岸井ゆきのが、『ケイコ 目を澄ませて』で第46回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞。前哨戦の賞レースを席巻してきた岸井さんの受賞となったが、発表された瞬間、信じられないといった表情で岸井さんは顔を両手で抑え、涙のスピーチを行った。
優秀主演女優賞には、のん(『さかなのこ』)、倍賞千恵子(『PLAN 75』)、広瀬すず(『流浪の月』)、吉岡里帆(『ハケンアニメ!』)と、米手欄からフレッシュな俳優まで、様々な受賞者が揃っていた。
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『ケイコ 目を澄ませて』では、聴覚障害のある実在のプロボクサーの生き方に着想を得た三宅監督の先品で、主人公のケイコを演じた岸井さん。ケイコが再びリングに上がるまでの心の動きや葛藤を声ではなく手話や瞳、肉体で表現し、観客の目をくぎ付けにした。今なお(プライベートで)取り組んでいるというボクシングシーンも圧巻で、真っすぐなヒロインを体当たりで演じ、受賞となった。
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最優秀主演女優賞で名前を呼ばれた瞬間、自身の顔を驚きのあまり両手で覆った岸井さん。ブロンズ像を受け取った後も、壇上マイクの前で信じられないといったような表情で立っていた。言葉にならず、涙と岸井さんの息遣いだけがしばらく響いた。
岸井さんは「ありがとうございます。いや…身に余る賞をありがとうございます。本当にこの三宅組でなかったら、誰ひとりかけてもここに立っていなかったので、とても感謝しています。支えてくださった関係者の皆さまに感謝します」と感謝を語った。
そして「…私は映画が大好きなんです。映画を観ることが大好きで、観ているときは、なんか…何語でもしゃべれるし、どこへでもいけるし何者でもないと思えるからすごく好きで。演じることも常に役があって他者があって、他者を演じることでこう、自分を見ることができるというか」と映画愛をとうとうと語り続け、「30年も40年も前の映画を初めて観たとき、ああ、これを観るために今まであったんだなって思えることがあって。映画はずっとそこでずっと見つけてもらうのを待ってくれていて。そういう風にまだ出会う前の誰かのために生きることはできるのかなって思ったりして」と締めた。
最後に岸井さんは「本当にこの作品には私が見たことのない景色をたくさん見せてもらいました。劇場でまだやっているんです、上映中です! ぜひ劇場で観ていただきたいです。それだけが私の望みです。ありがとうございました」胸を打つ心の声でスピーチしていた。