これまで、古代ローマ時代の浴場設計師や人が良すぎる天才物理学者、東大行きを約束する熱血教師から人情派の刑事などまで、幅広い役柄を演じてきた阿部寛。
実に多彩なジャンルの映画・ドラマで活躍を見せてきた阿部さんが、Disney+(ディズニープラス)の「スター」日本オリジナル作品となる『すべて忘れてしまうから』では、5年間も交際してきた恋人がある日突然行方知れずになってしまう、しがないミステリー作家・“M”を好演している。
「まだ結婚できない男」以来久しぶりのラブストーリー。しかも周囲には、尾野真千子、Chara、宮藤官九郎、酒井美紀、大島優子ら個性豊かな面々が揃っている。
尾野さんが演じる恋人・“F”は、なぜ姿を消してしまったのか。タイトルどおりに“すべて忘れてしまう”ような、あまりにもささやか過ぎる、けれども覚えていなければならなかったことを詳らかにしていく、ミステリアスでビタースウィートな大人の恋はハマらずにはいられない。
※2話までの内容に触れています。ご注意ください。
阿部寛とChara、宮藤官九郎ら…
絶妙なキャラ設定とケミストリー
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「ボクたちはみんな大人になれなかった」「あなたに聴かせたい歌があるんだ」も映像化された作家・燃え殻の同名エッセイを基に、『あのこは貴族』岨手由貴子をはじめ、『さかなのこ』沖田修一、『ドライブ・マイ・カー』大江崇允が監督・脚本を務め、“消えた彼女”を巡るミステリアスなラブストーリーとして新たな物語を紡ぎだす本作。
それはハロウィンの夜、“M”の恋人・“F”が姿を消してしまうところから始まる。阿部さんが演じる“M”は、大した賞も受賞せず大ヒット作もないミステリー作家。書斎代わりに「Bar灯台」で執筆し、ネタにつまると周囲を見渡しては客を観察したり、聞き耳を立てたりしてヒントをもらっており、オーナーのカオルやBarの常連客からは「先生」と呼ばれている。
「先生っていっても学校の先生じゃないよ」「作家先生」「まあ、あだ名みたいなもんですよ」という、常連客と“M”本人による自己&他己紹介がちょっとした定番のやりとりとなっている。阿部さんが「結婚できない男」「まだ結婚できない男」で演じた悠々自適に独身生活を送る建築家で、同じように「先生」と呼ばれることを嫌がっていた主人公・桑原を思い起こさせるが、ヘリクツをこねてばかりの偏屈男とは違い、“M”はかなり周囲に流されるタイプのよう。“Fの姉”と名乗る女性(酒井さん)から、“F”の内縁の夫に相当するのだからと催促されれば財布まで差し出してしまう。
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“F”と暮らしていた部屋は本が所狭しと積み上げられ、机の回りは乱雑でメモなどがぎっしり。“F”が湯船に浸かりながら文庫のミステリー小説を読んでいる、そのすぐ脇の洗面所で“M”は歯を磨く、というように生活感もたっぷり。すっかりふやけてしまった文庫本について“M”は何か言いたげであるものの、決して声を荒げたりはしない。あるときは、もう1つの“書斎”代わり「喫茶マーメイド」でメニューや雑誌の上にノートパソコンを載せて作業しており、やや無頓着なところも見受けられる。そんな、ある種の不甲斐なさの体現は自身初の配信ドラマ出演となった阿部さんにとっても新境地となっている
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「Bar灯台」のオーナー・カオルを演じるCharaさんの存在感も格別だ。岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』(96)や劇中から派生した「YEN TOWN BAND」に心酔したファンも、同作以来26年ぶりの俳優活動でドラマシリーズに初出演というCharaさんが、小さなライブスペースのあるBarのオーナー役を演じていることにはときめくだろう。
また、カオルは、阿部さん演じる“M”が担当編集者・澤田(渡辺大知)から依頼されたエッセイを“朗読”する役目も担っている。その程よいけだるさと鋭い感性は健在で、Charaさんの変わらぬ魅力を堪能できるはずだ。
そして、「Bar灯台」の料理人・フクオを演じる宮藤さんは、阿部さんとは映画『大帝の剣』(07)以来15年ぶりの共演となる。
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チャーハンを頼んだのにオムライスを作ってくれるフクオに対しても、“M”はまずそうに食べるのもののやはり何も言わない。実は美味しく食べているのにまずそうに見えるのも、“M”のキャラクターをよく表している。何より、カウンターの中に宮藤さんがいるからかもしれないが、「Bar灯台」の賑わいやお節介は朝ドラ「あまちゃん」の喫茶&スナック「リアス」の雰囲気とよく似ている。
大切な人のことを本当に知っている?
観る者にも問いかける
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ハロウィンの夜に突然、「渋谷駅がすごい人なので遅れます」というメッセージを残して行方知れずになってしまった“F”。彼女の姉によれば、祖母の多額の遺産を1人で相続するはずだったという。姉やBarの常連客たちに促されるように、3週間もたってようやく彼女のことを探し始める“M”だったが、“F”について何も知らなかったことに気づいていく。
幼稚園の先生をしていた“F”。だが、“M”は彼女の仲の良い友達も、好きな食べ物すら知らない。彼女の同僚と話して初めて、園の先生たちが待遇をめぐってストライキをしたことも耳にする。「ちゃんと質問してます?」とその同僚は、“M”に問いかける。別に関心がなかったわけじゃない、と“M”は口では言いながらも、自分は普段から“F”の日常や社会生活に関心を持って接していたのか、“F”が何か肝心なことを言っていたかもしれないのに聞き流して、忘れてしまったことはないだろうか、そう自問することになる。
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“M”と“F”。Male(男性)とFemale(女性)と、この主人公たちに名前を持たせずに抽象化することで、この不可思議な物語は普遍性を帯びていく。あなたは大切な人のことをどれだけ知っていますか? その人にとって、そしてお互いにとって大切なことを、もしや忘れてしまってはいませんか? そんなふうに心をノックされるような感覚だ。
まるで、“M”がふり返る曖昧で不確かな記憶のように、映像も終始ザラついていておぼろげ。『ドライブ・マイ・カー』『マイスモールランド』『きみの鳥はうたえる』など、近年の日本映画の秀作でその名を見かける四宮秀俊が手掛ける撮影は、岨手監督が「チャレンジ」と語ったスーパー16mmフィルムによるものとなっている。
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また、制作陣のもう1つの大きなチャレンジであり、毎回の楽しみとなりそうなのが「Bar灯台」で披露されるエンディング楽曲のライブパフォーマンス。1話は劇伴も担当するTENDRE、2話では『ドライブ・マイ・カー』をはじめ役者としても注目を集める三浦透子の歌声を聴くことができる。その回の“M”の心情や出来事をすくい取り、総括するようでいて、これからの物語を暗示するようでもある、謎めいた曲の余韻がなぜか妙に心地良い。
今後、“F”を演じる尾野さんはどのエピソードで登場し、物語をどう動かすのか…この先の展開が楽しみだ。
『すべて忘れてしまうから』は毎週水曜日、ディズニープラス「スター」にて独占配信中(全10話)。
ディズニープラスで『すべて忘れてしまうから』を視聴する
(C) Moegara, FUSOSHA 2020
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<提供:ウォルト・ディズニー・ジャパン>