日本でもスマッシュヒットを記録した『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のA24が贈る、現在公開中の映画『X エックス』。音楽は、21世紀で最も売れたサントラの1枚となった『300スリーハンドレッド』のサウンドトラックを手掛け、近年では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ジョン・ウィック』シリーズなど数々の話題作に音楽を提供し注目を集める、タイラー・ベイツが担当している。
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舞台は1979年、テキサス。“芸術的価値を持たせた背徳的でエロティックな”ポルノ映画を製作し、アメリカンドリームを夢見る3組のカップルは、『悪魔のいけにえ』さながらワゴン車に乗って、撮影のために借りたとある古びた農場を訪れる。
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その道中でかかっているのが「マンゴ・ジェリー」の「イン・ザ・サマータイム」。1970年にリリースされるや世界中で大ヒットし一世を風靡した同曲は、「天気のいい日は気になる女を誘い出せ/“人生を楽しめ”が俺たちの哲学」という軽快な歌詞と陽気なメロディラインが、鼻息荒く意気揚々と映画撮影に挑む彼らの心情にぴったり。さらに、若き映画クルーたちを乗せた恐怖のアトラクションが徐々に加速していくかのようなオープニングにはおあつらえ向きな楽曲になっている。
また、キッド・カディ名義で世界的ラッパー、歌手として活躍し『X エックス』の製作総指揮にも名を連ねるスコット・メスカディがギターを弾き、『ピッチ・パーフェクト』シリーズのブリタニー・スノウが「フリートウッド・マック」の「ランドスライド」をアコースティックバージョンで歌い上げる、劇中で披露されるこのなんとも贅沢なミュージックシーンは本作の大きな見どころのひとつと言える。
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もともと同曲は1975年にリリースされ、成長し大人になった子どもたちに巣立っていかれる母親の心情を歌ったものだが、同時に年を重ねることへの哀愁を含んだ歌でもある。本編では、まさにいま若さの真っただ中にいる映画クルーたちがそれを噛み締めるように歌を楽しむ一方で、彼らの輝き溢れる若さと美に執着する史上最高齢の殺人鬼・パールのせつない心模様も重ね、ふたつを対比するようにスプリットスクリーン(分割画面)を使うなど、見せ方にも技巧を凝らしている。
ほかにも、X-FACTOR(未知の才能)を持ったヒロイン・マキシーンが撮影で素晴らしい演技をみせ得意げに振る舞うシーンで、アメリカを代表するカントリー歌手のロレッタ・リンがカバーした「アクト・ナチュラリー」が流れるなど、映画の場面と音楽がリンクするこだわりよう。
タイ・ウェスト監督は、「映画の中のすべての歌は、映画の中で起きていることと関連するように事前に選ばれたんだ。だから、歌のトーンであれ歌詞であれ、すべては映画のテーマに沿ったものなんだ。適切な歌を見つけて、それらの権利を得るのにはとても時間がかかったけど、みんながイエスと言ってくれてとても幸運だったよ」と語る。
早くも、本作の続編『Pearl(原題)』が来月から開催される第79回ヴェネチア国際映画祭にて上映されることが発表されている。史上最高齢の殺人鬼・パールの若かりし頃を描いた前日譚となることが明らかにされている次回作だけに、『X エックス』は見逃し厳禁だ。
『X エックス』はTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開中。