吉野監督にとってのndjcとは
――吉野監督は2014年度のndjcで『エンドローラーズ』を製作されましたが、どんなきっかけでプロジェクトに参加されたのでしょうか?
もともと5分程度の短編などを作っていたのですが、そこから長編に進みたいと思っても、なかなか上手く脚本を書くことができなかったんです。そんなとき、以前ぴあフィルムフェスティバルで入賞した際にお世話になった方からndjcを教えていただき、応募しました。
――どんな部分に惹かれて参加しようと?
実際にプロの現場で活躍している方々から、30分尺での脚本の書き方を含めて、いろいろな視点でアドバイスいただけることが大きな魅力でした。実は2回応募したのですがうまくいかず、3回目の挑戦だったんです。
――ワークショップに参加した人のなかから、セレクションを経て製作実地研修に進みますが、そこで意識したことはありましたか?
カメラを渡されて、1週間で5分の短編を撮ってくることが課題でした。僕はもともとCM業界にいたので協力してもらえる人を捕まえやすかったのですが、もしそれがなければ最初のスタッフィングで躓いていたと思います。その意味で、横の繋がりは大切だなと感じました。
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――脚本指導で印象に残っていることはありますか?
30分の尺と言っても、どのぐらいの話の長さが必要なのかわからない。最初にこんなものかなと書いても、全然収まらなかったり……。だからと言ってちゃんと長さを合わせようとすると、全然面白くないと言われたり(笑)。
また、自分一人で頭でっかちに考えていても、なかなか良いアイデアは生まれないということも痛感しました。僕が製作実地研修で作った『エンドローラーズ』も「君はアニメが好きなんだから、作品に入れてみたら?」との助言をもとに入れ込んでみたんです。
正直、人からいろいろ言われることは結構しんどいのですが、ご指導くださる方たちは百戦錬磨なので、いろいろな揺さぶりに対してしっかり対応していこうと思えたことで、一つ自分の殻が破れたような気がしました。
――長編映画を監督する中で、ndjcで学んで「これは活きているな」と感じることはありますか?
5分間の短編を作ったとき、CM制作の癖でとにかくいろいろなことを詰め込みすぎていたんです。そんなとき「セリフを犠牲にしても、割と長いカットを入れる方が伝わることもある」とアドバイスをいただきました。それはいま現場で長編を撮っているときにも、ふと思い出します。
もう一つは、自分で考えている以上に振り切らないと観客には伝わらないということも、ことあるごとに言われました。
――同じ目標に向かっている人たちとワークショップや製作実地研修を行うというのは、大きな刺激になるのでしょうか?
それはすごくあります。同じ予算、同じ期間で映画を撮ることはあまりないので、隣がなにを作っているのか気になりますし、自分と違う視点を持つ人からは「こういう戦い方があるんだ」と刺激を受けました。
――業界関係者向けの合評上映会は大きな出会いになりましたか?
僕はndjcのおかげで『ハケンアニメ!』の監督ができたと言っても過言ではないと思います。製作実地研修で作った『エンドローラーズ』が“お仕事もの”で、しかもアニメ表現が入っていたので、『ハケンアニメ!』のプロデューサーさんが「吉野ならできるかもしれない」とお声がけくださったようです。『エンドローラーズ』も『ハケンアニメ!』も、時間のないなかで作ったものを、戦った人たちが最後にその結末を見届ける、というのは同じ構図なんですよね。
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――ndjcに参加したとき、ここまでの未来は想像できましたか?
まったく想像していませんでした。30分ものを一人で作るとなると、予算や脚本など、かなりハードルが高いんです。それにチャレンジできる機会をありがたく感じていましたが、将来のことに関しては完成作品を持って次の展開に進めたらいいな、程度の気持ちでした。
――30分ものを作ると、その後は長編に進みやすいのでしょうか?
地続きになっていると思います。30分では描きたかったことをかなりそぎ落として作る必要があるので、これを膨らませると自然と長編になったりするんです。逆に15分だと、短編に求められる別の筋肉が必要になってくると思います。ndjcで30分ものを作ることは、長編制作に繋げるという点ですごく意味があると思います。
ndjcから繋がった『ハケンアニメ!』というメジャー映画
――5月20日には、いよいよ長編第2作目となる『ハケンアニメ!』が公開されますね。主人公の吉岡里帆さん演じる新人アニメ監督・斎藤瞳は、自身の境遇と被るところが多かったのではないでしょうか?
そうですね。僕もちょうど『水曜日が消えた』という長編映画を撮り終えて、しかもアニメも少しかじっているような立ち位置だったので、非常に似ている部分が多かったです。そういった状況を踏まえてこの作品を任せてもらえたのならば、しっかり自分の気持ちもキャラクターに込めた方がいいなと思いました。
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――劇中、斎藤監督は“ヒットさせる”という使命のもと、かなり追い込まれていきますが、こうした気持ちは理解しやすかったですか?
僕はCM業界で働いていたので、製作陣が監督をどう選んでいるのか、なんとなく知っていました。「あの人、昔はよかったけれど最近ちょっとね…」というようなことでバンバン切り捨てられていくのを見てきたので、リアリティは感じられました。
――ヒットさせなければというプレッシャーはありますか?
ヒットさせるというよりは、メジャー配給会社の作品を作るということにおいて、自分の名刺となる映画になり得るのかなという思いがあったので、とにかく見やすくて2時間飽きさせない作品にしようという思いが強かったです。
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――見やすく飽きさせないという意味で、プロデューサーさんから何か助言を受けたことはありましたか?
例えば衣装を選ぶとき、リアリティの視点だと普段我々が着ているようなものを選びがちなのですが、“ライティングや撮り方でより視覚的に映えるものはなにか”という発想があることを教えていただき、勉強になりました。
――ご自身の思い入れが強い斎藤瞳というキャラクター。演じた吉岡さんとはどんなやり取りを?
本読みの段階でいくつかのディスカッションを経て、吉岡さんから「ひたむきさ」というキーワードで役作りをしたいとご提案いただきました。あと、後半吹っ切れて明るい笑顔が見られるようになっていくところも、吉岡さんの考えが反映されています。
――吉野監督が本作でこだわったところは?
“トウケイ動画”というアニメスタジオのセットはこだわりました。いまはスタジオもどんどん新しく近代的になっているのですが、アニメの制作現場の長い歴史や熱量ができるだけ伝わるような「手触り感」を大事にして、映像として残しておきたかったんです。
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――ndjcでの経験を糧に活躍されている吉野監督から、本年度のndjcに応募を希望する方に向けてアドバイスをお願いします。
僕は最初、何となく受験みたいに傾向と対策を考えていたのですが、結果的に「そういうのはつまらないね」と助言を受けてアニメを入れ込んだ作品にしたら、『ハケンアニメ!』という大きな映画に繋がりました。ndjcではプロの方から様々な目線でアドバイスをいただけるので、最初はあまり映画という様式に捉われるのではなく、広い視野で発想した方がいいのかなと思います。
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