どうしてこうも特に女性はいまだに“30歳”という年齢に縛られてしまうのだろう。例え本人がそれを気にしていなくとも、なんとなく周囲から素通りすることを許されないような暗黙の圧を感じてしまうのはなぜなのだろう。
何の資格もなく“30歳”には勝手に自動的になれてしまうのに、“29歳”と“30歳”では何かが決定的に違うように感じてしまう見えない境界線はどこから来るのだろう。
そんな悩める令和のアラサーのバイブル的作品が最終回を迎えた。「ABEMA」オリジナルドラマ「30までにとうるさくて」だ。筆者の周囲でも、正直なところこれまではABEMAドラマに親和性がなかったような層にまで、このドラマが届いているのをひしひしと感じる。本作に登場する29歳独身女性4人の悩みや葛藤は、特に東京で働く女性には誰しも心当たりのあるものだろう。
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まずは、バリキャリ女子・美山遥(さとうほなみ)が抱える秘密は、婚約者との間のセックスレス、そして自身の性欲を外部で発散させていることだ。これまでも婚約者との間に微妙な価値観のズレを抱える主人公や、それがために婚約破棄したりされたりするキャラクターは描かれてきたが、その最たる理由をセックスレスだとし、ここまで赤裸々に切り込んだ作品はなかったのではないだろうか。女性視点で描かれる性事情はなぜかいままでは「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ系)筆頭に人妻視点の不倫ものか、あるいは年下男子との恋愛ものに閉じられていたように思える。本作では、セックスレスのカウンセリングを受ける様子まできちんと盛り込まれている。さらに彼女はその後会社でも理不尽な人事異動を受け、心のバランスを崩してメンタルヘルスケアのためのカウンセリングにも通うようになる。
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事象や悩みだけを描きっぱなしにするのではなく、それに対する現実的な解決策もセットで提示してくれるのが、この作品にある“真摯さ”であり“救い”でもあるだろう。そして、ここにも本作が女性の悩みに寄り添うだけでなく、そっと応援し背中を押してくれるエールのようなものが込められているように思える。
それから、恋愛にも結婚にも一切興味がない敏腕女社長・三浦恭子(山崎紘菜)。前述の要素だけであれば他作品にも既出の存在だが、彼女はそのステータスのまま「子を持ちたい」「母親になりたい」という想いを「選択的シングルマザー」になることで叶えようとする。法整備が全く進んでいない今日の日本において「精子ドナー」を見つけることの難しさが浮き彫りになるだけでなく、従来の「子育て」の枠組みに対しても一石を投じているのが痛快だ。
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女性の社会進出が進めば進むほど避けては通れない“妊娠・出産”の身体的・年齢的リミットとの兼ね合い。この切実な問題に当事者として直面するのは悲しいかな女性だけであり、よくぞここまで踏み込んでくれたと心の中で拍手を送った。また、彼女の葛藤を解決するのが、女性パートナーと同棲を開始する佐倉詩(石橋菜津美)の悩みが引き寄せたご縁であることにも勇気づけられる。
4人共にそれぞれ全く違うことに傷つき悩んでいるようでいて、実は同じところに縛られており、その痛みが全くの他人事ではないところもまたリアルだし、直接的ではない連帯感に励まされる。傷つかないように、これ以上もう迷ってしまわぬようにと“こんなもんでしょ、仕方ない”とどこかで本心を諦めてしまったり、自分の心の声に耳を傾けないように予防線を張ってしまう姿は全員に共通して見られたことだ。
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そして、どんなにどん底に思えても詰まるところ“ただただ幸せになるために”悩み葛藤していることは全員同じで、そこらじゅうに戦士が、同士がいるように思えて心強く頼もしい心持ちにもなった。女子会の風景を単なる傷の舐め合い、馴れ合いや仲良しごっこのように決して見せず、女性同士の対立を描かないのも本作が他の作品と一線を画す大きな要因だと言える。彼女らが常連として通うカフェオーナーのみちる(菊池亜希子)の離婚式で再会するいままさに“それぞれの選択肢”の途中にいる4人の清々しい表情が忘れられない。
ちなみに最終回放送直後に配信されたスピンオフ「結婚してとうるさくて」では、本編にも登場していた広告クリエイターの鎌田知也(柳俊太郎)目線で“まだ結婚したくない男性”の本音がありありと描かれる。複数の女性からの結婚アピールをどうにかはぐらかそうと画策する知也VS何としてでも結婚したい女性のあの手この手を使っての攻防戦は非常に生々しく、どちらも一歩も譲らぬ必死ぶりは滑稽で笑える。こちらもまた男性側のリアルとして覗いてみることをおすすめしたい。
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