中村倫也はどこまで行くのだろうか――。畏怖の感情すら抱いてしまうほど、活躍ぶりが止まらない中村さん。映画『ファーストラヴ』にドラマ「珈琲いかがでしょう」「コントが始まる」、そして劇団☆新感線による舞台「狐晴明九尾狩」――。様々な形態でファンを楽しませてくれた彼の勢いは、2022年も止むことがない。映画『ウェディング・ハイ』『ハケンアニメ!』、配信ドラマ「仮面ライダーBLACK SUN」と現在発表されている作品だけでもバラエティに富み、さらなる覚醒の年になることだろう。
その皮切りとなる『ウェディング・ハイ』(3月12日公開)は、2019年の映画『美人が婚活してみたら』『私をくいとめて』の大九明子監督との再タッグ作。『地獄の花園』『架空OL日記』等、書き手としても活躍するバカリズムが脚本を手掛けた結婚式コメディだ。篠原涼子、関水渚、岩田剛典、向井理ほか豪華キャストが勢ぞろいした本作で、中村さんが演じたのは自分の意見をなかなか言えないお人よしの新郎・石川彰人。式の準備から余興、スピーチ…周囲の熱と圧に押されて彰人が流されてしまうさまには、笑わされつつも激しく共感してしまうことだろう。
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そして、おとなしい人柄と饒舌な心の声(モノローグ)とのギャップを見事に成立させた部分に、中村さんの職人芸を感じずにはいられない。つまり、『ウェディング・ハイ』は名優・中村倫也の「受け」と「攻め」の演技を堪能できる作品でもあるわけだ。今回はその部分をテーマに、中村さんの表現術を紐解いていく。
なお、本取材が行われたのは、「狐晴明九尾狩」が大千穐楽を迎え、ほどなくしたタイミング。主役の陰陽師・安倍晴明を任された中村さんは、激しいアクションと独特のセリフ回し、高い熱量が持ち味の劇団☆新感線で、約2か月に及んだハードな公演を走り切った。ならばこそ、彼の現在地から『ウェディング・ハイ』に通じる演技論を掘り下げてゆきたい――。
撮影中は「リアリズムな芝居を意識」
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「ご無沙汰です」と柔らかな表情を浮かべ、こちらの緊張を和らげてくれた中村さんに感謝しつつ、「受け」と「攻め」、声の表現に脚本の読解術…ディープな質問をぶつけてみた。
――まずは「狐晴明九尾狩」、お疲れさまでした。「中村倫也のボルケーノラジオ」(ファンクラブ会員限定コンテンツ)でも終演直後の想いを語っていらっしゃいましたが、今現在の状態はいかがですか?
ボルケーノラジオ、聴かれたんですね(笑)。今はまだ疲労が残っていて、喉もちゃんとは治っていないかな。ちょっと時間をかけて、年内(2021年)には完全に戻すという感じです。
――公演期間中、氷風呂に浸かって筋肉の炎症を防いでいたと伺いました。中村さんは演劇経験が本当に豊富ですが、それでも満身創痍になるほどだったんですね。
運動量が結構多かったですし、和ものでちょっと特殊な立ち回りもありましたから。
――確かに。着物の丈も長いなか、舞台上を縦横無尽に駆ける姿、凄かったです。その「狐晴明九尾狩」、配信ドラマ「No Activity/本日も異状なし」に続いて映画『ウェディング・ハイ』が公開。大九監督とは『私をくいとめて』に続くタッグですね。
大九さんとは4回目かな? 2015年のドラマ「想ひそめし~恋歌百人一首」が最初でしたね。そのあと『美人が婚活してみたら』『私をくいとめて』があって、『ウェディング・ハイ』です。
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――大九監督や白石和彌監督然り、同じ監督と継続して組むのは、信頼の証だと思います。
知り合いだから気は楽ですよね(笑)。好きなものも知っているから、こんなニュアンスかな?というのを汲み取りやすくはなっていく気はします。まぁでも、そんなに変わらないかも(笑)。
――(笑)。大九監督とのこれまでのコラボレーションの中では、本作が一番規模感が大きかったのではないでしょうか。これまでとの違いはありましたか?
あぁ、なるほど。あんまり何にも考えてなかったかなぁ(笑)。そういう意味でいうと、はじめましての自分より先輩の俳優さんがいっぱいいたから、その人の性格を探りながらディレクションしている大九監督を見られましたね。
規模としては大きいのかもしれませんが、結婚式という限定空間の中でリアクションを撮っていくスタイル、ミニマムな空間での会話という構造自体はいつも通りかもしれません。
――なるほど。著書「やんごとなき雑談」のなかで「誰かの笑顔」というワードを象徴的に使っていらっしゃいましたが、本作を拝見してまさに「誰かを笑顔にする作品だ」と感じました。喜劇の効能が詰まった作品ですよね。
そうですね。この映画を観て、誰も不幸にならないでしょうし。面白いか/面白くないかの感想は人それぞれでしょうが、間違いなく楽しい映画ではありますよね。バカリズムさんの脚本を読んでいる間も、楽しくてしょうがなかったです。
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――細かい部分にまで結婚式の“あるある”が詰まっていて、自分が式を挙げた時を思い出してニヤニヤしてしまいました。
ああ、よかった。僕は結婚の経験がないし、結婚式にいたるまでの段取りやカタログなんかを見たのもこの現場が初めてでした。「これは新郎あるあるだな」と思いながら読んでいたけど、その“あるある感”を自分が知らないから出せない、だから現場でやるしかないという感じでした。
――拝見するまでは勝手に式の当日のお話かな?と思っていたら、新郎と新婦の出会いからきっちり描かれていて、しかも出席者それぞれの過去編も入り…伏線回収などもあり、それぞれのピースが結婚式という場で一枚の絵になっていくのは快感でした。
一番面白いところだけを切り取るのではなく、そこに至るまでのストロークがあるのが凄く映画っぽいですよね。まさに喜劇映画という感じ。
――それぞれの人物に共感できるのも印象的でした。
みんなちゃんとハッピーですよね。うまくいかなくて滑稽な笑いもあるけど、不幸になる人が全然いない。岩ちゃん(岩田剛典)の役(新婦の元カレ)なんて、一番ハイな人かもしれないし(笑)。
――中村さんが演じられた彰人が、式の準備の際に内心では他のことを考えているシーンを観て、中村さんが以前「演技をするときは他のことを考えているくらいがちょうどいい」とおっしゃっていたのを思い出しました。
そういう意味では、すごくリアリズムな芝居は意識していましたね。モノローグがあるからというのもありますが、口では「そうだよね」と言いながら、本当は面倒くさいなと思っていて、その言葉がモノローグで入る。いわばモノローグで担保してくれるので、撮影中はより対面のリアリズムに重きを置いていました。
僕たち自身もそうですが、別のことを考えながら生きているものじゃないですか。そういう意味でも、今回はリアルっぽいものを追求しました。
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――モノローグを“声の演技”とすると『私をくいとめて』にも通じますし、アニメ映画『100日間生きたワニ』や『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』でのナレーション、「バンクシーって誰?展」の音声ガイド等々、声の表現がより拡大している印象です。声の演技に関して、どのようなお考えをお持ちなのでしょうか。
作風というか、求められるものによって渡すものを変えるという感じですね。ナレーションであれば映像を観ながらやりますが、音声ガイドは声の情報がちゃんと入るのはもちろん、展示の物語を構成に沿って出せるように心がけます。
モノローグは半分肉声・半分心の声のようなものだと思うので、またちょっと違いますね。まぁでも、最終的にはなんかノリでやっています(笑)。
――今回のモノローグ録りの際は、どんな演出があったのでしょう?
いや、覚えていないですね。(考え込んで)覚えてないなぁ…。
――ということは、すごくスムーズに録り終えたんですね、きっと。
あっ、でもそれはいつもそうなんです。大体、予定されていた時間の半分くらいの時間で録り終わっちゃいますね。天才かもしれない…(笑)。
いやでも、声の仕事は楽しいです。セリフ覚えなくていいし(笑)。
――舞台のセリフ量は凄まじいですもんね…。
そうそう(笑)。