ブロンドのグラマラスな女性が、ハイレグの真っ赤な水着で浜辺を超スローモーションで駆け抜けるーー。
90年代に大ヒットし、2017年には映画でリメイクされたTVシリーズ「ベイウォッチ」といえば、ライフセイバーのC・J・パーカーを演じたパメラ・アンダーソンが象徴的だった。
同作で一気にスターダムにのし上がった彼女が1995年、出会ってからたった96時間で結婚を決めたのがヘヴィメタルバンド「モトリー・クルー」でカリスマ的な魅力を放っていたドラマー、トミー・リーだ。
「Disney+(ディズニープラス)」の「スター」にて配信が始まったオリジナルドラマシリーズ「パム&トミー」(R18+指定)は、このパメラ(パム)とトミーが新婚旅行中に撮影した極めてプライベートな動画、いわゆる“セックステープ”の流出から始まるスキャンダルと波乱だらけの2人の結婚生活を通して、インターネットとプライバシーの侵害、女性差別や性的搾取といった現在の私たちがまさに向き合わなければならない問題の“起源”を描いている。
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カナダ出身のパメラは、たまたま観戦していたフットボールの試合で“客席の美しい人”としてカメラに抜かれ、そのときに着ていたTシャツのビール会社にコマーシャルモデルとしてスカウトされた。その後、アメリカに渡り「プレイボーイ」誌のグラビアを飾るプレイメイトとして人気を集め、1992年から「ベイウォッチ」に抜擢される。ブロンドヘアと豊満なスタイル、細眉に派手なアイメイクのパメラ役に特殊メイクの力も借りて挑んだのは、英国貴族のドラマ「ダウントン・アビー」で注目を集め、『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』『イエスタデイ』などで芯が強く、快活な女性像を演じてきたリリー・ジェームズだ。これまでの役柄とはまた違う、華やいだ雰囲気をまとったリリーのパメラは思わず二度見してしまうほど本人によく似ている。
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また、パワフルな演奏スタイルで知られた全身タトゥーだらけのトミーを演じたのは、『アベンジャーズ』シリーズや「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」のバッキー/ウィンター・ソルジャー役で知られるセバスチャン・スタン。寡黙なヒーローから一転、彼もまた何をしでかすか分からない、ワイルドなメタルドラマーになりきった。
2人が演じる新婚のパメラとトミーは常にべったりだ。第1話では、改装中の大邸宅に内装業者が出入りしていてもまるで構わずに昼間から愛を交わす。トミーは愛妻と過ごす理想の“愛の豪邸”のアイデアを次々と出すが、すでに工事は進んでおり、反論した大工で便利屋のランド(セス・ローゲン)はクビを言い渡される。その腹いせでトミーの金庫を盗んだランドが、現金や高級時計、銃やライフルとともに見つけたのが1本のビデオテープだった…。
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当時少しずつ浸透してはいたが、まだ一般的ではなかったインターネットを通じて、パメラとトミーのセックステープを秘かに販売することを思いつくランド。2人の究極のプライベートは次々とVHSテープにダビングされ、各地に売られていく。ビデオデッキが複数台あれば、誰でもダビングができる。パソコンと電話回線(当時)があれば、どこにいてもネットを利用できる。無断複製、無断アップロードがさらに拍車をかけていった。
ランドが自分のしでかしたことの本当のヤバさに気づくのは、テープがすでに何百万人の目にさらされてしまった後だ。そしてもちろん、パメラとトミー本人も自分たちの性行為の動画が世界中にばらまかれているとすぐに知ることになる。行く先々で好奇の視線を浴びせられ、パパラッチに取り囲まれる2人。もしも、この時代にスマホやSNSがあったなら…そう考えると身震いがする“バズり”方だ。
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「ベイウォッチ」の次のステップを模索していたパメラのキャリアは、これで決定づけられてしまったと言っていい。それは彼女のせいなのだろうか? 彼女に対する制作陣や、パパラッチ、大衆の目線の気持ち悪さは、彼女のせいなのだろうか? 『王様と私』を覚えるくらい何度も観て、ロールモデルはジェーン・フォンダだと語る1人の女性パメラ・アンダーソンの姿を当時の人々は知るよしもない。
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そんなパメラを演じるリリーは、彼女自身も搾取されてきたに違いない、「ダウントン・アビー」のローズのような“イメージ”に抗うかのように役にのめり込み、リアリティと深みをもたらしている。ファッションやヘアメイク、「モトリー・クルー」はもとより「カーディガンズ」やアラニス・モリセットをはじめとした音楽などから当時の空気が感じられる一方で、本作にある問題の根深さは現在も変わっておらず、むしろテクノロジーが助長させていることも痛感する。さらに過激さと衝撃度が増す第2話以降の展開も要注目だ。
「パム&トミー」はディズニープラス「スター」にて独占配信中(全8話)。
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