2019年の釜山国際映画祭クロージング作品として上映されてから、日本のファン待望の公開となった韓国クィア映画『ユンヒへ』。いまSNS上でも熱い感想が飛び交っている本作の日本公開を記念し、韓国ソウル生まれの映画研究者ファン・ギュンミンと、ジェンダーやクィア関連のオンライン書店「loneliness books」オーナーの潟見陽を迎えたスペシャルトークイベントがオンラインで開催された。
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韓国映画史や韓国インディペンデント映画に詳しいファンさんは、チョン・ジュリ監督の『私の少女』(2014)やパク・チャヌク監督の『お嬢さん』(2016)、日本未公開作の『罪深き少女』(2017)、日本でもヒットした『はちどり』(2018)といった作品から「異性愛優位のジェンダー差別がある中で、女性に強いられている苦しみと問題を本当に真面目に取り扱う」流れを受け継いできたのが本作『ユンヒへ』だという。
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「『ユンヒへ』はそこから一歩進んで、韓国のクィア映画では滅多に観られない中年のレズビアンを登場させています」とファンさん。「韓国には年を重ねた女性に対する社会的な美徳というのか、40代・50代の女性は一般的には“誰かの母親”というイメージがあります。母親に対する保守的な価値判断があるというか」と言うと、韓国のクィアパレードに何度も参加してきた潟見さんも、その参加者が主に20代・30代だったことから「(それ以上の年代は)家父長制のキツい中で生きてきて、結婚とかも強いられている世代なのかという印象があった」と明かす。
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本作を観たことで、「レズビアンとして生きてきたことへの抑圧が真摯に描かれた映画が出てきたんだなと。こういう映画が作られたんだという感動や興奮がありました」(潟見さん)、「ユンヒ(キム・ヒエ)を苦しめる異性愛で成り立っている結婚や家族制度などがいかに性差別的なものかを示すと同時に、『ユンヒへ』ならではの特徴で、その家族によって女性たちがどういうふうに連帯していくのかもうまく提示することで、家族の意味まで考えさせている」(ファンさん)と感じたという。
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「その意味で『ユンヒへ』という作品は、クィア映画であると同時にフェミニズム映画としても、女性でありレズビアンであるユンヒを囲んだいろいろな問題を織り交ぜている」(ファンさん)、「セクシャルマイノリティーであり、日韓2つのルーツがあり、そして女性であるという3つの抑圧を背負って生きているジュン(中村優子)はユンヒ以上にこじらせているというか、彼女に“あのセリフ”を言わせる社会って何?と突きつけられた気がする」(潟見さん)と、女性たちを取り巻くこの社会への問題提起も2人は指摘。
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さらに、物語のそもそもの始まりとなる手紙を投函するジュンのおば・マサコ(木野花)について持論を語ったファンさんに、潟見さんも、司会進行の奥浜レイラも「同じことを思っていた!」と賛同し、盛り上がるひと幕もあった。
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『ユンヒへ』はシネマート新宿ほか全国にて公開中。