2分半ほどの短い作品ながら、毎週意表を突く展開と、モルモットをベースにした可愛いデザインで多くの人の心をつかんでいる。フェルト素材をベースにした人形をひとコマずつ動かして撮影するストップモーション・アニメーションという手法を用いたこの作品、何が人々の心をつかんだのか、ひも解いていこう。
学生時代から世界に絶賛された新鋭、見里朝希監督
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本作の監督を務めたのは、見里朝希監督。見里監督は東京藝術大学大学院でアニメーションを専攻、卒業制作作品として制作した短編アニメーション『マイリトルゴート』が国内外の映画祭で高く評価され、大きな注目を集めた逸材だ。童話「狼と7匹の子ヤギ」をモチーフに、フェルト素材の可愛いデザインの人形とハードな内容の強烈なギャップが印象的なダークメルヘンで、肉親の暴力や狂気的な歪んだ愛情など、人間の残酷さを抉り出すような作風は驚きを持って迎えられた。
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「PUI PUI モルカー」はそんな見里監督の初めての商業作品だ。フェルト素材の人形のデザインの秀逸さはもちろん、人間のふるまいをシニカルに描いている点は、『マイリトルゴート』にも通じるものがあり、初の商業作品でも作家性を存分に発揮している。
大人も夢中になる、モルカーの魅力
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本作は、モルモットが車になり「モルカー」と呼ばれる世界が舞台。モルカーは人間を乗せて走るが、意思を持って自ら動くことも可能。クリっとした目とおちょぼ口が特徴的で、レタスが好きなどモルモットの習性と車の特徴を併せ持っている。物語は一話完結で、毎回色々なモルカーたちが騒動を巻き起こしたり、冒険を繰り広げたりする様をコミカルに描いている。
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本作の第一の魅力は、なんといってもモルカーのキュートなデザインだ。モルモットの特徴を見事に車と融合させており、ややとぼけた味わいの表情が癖になる。また、モルカーの「プイ、プイ」という独特の鳴き声は、本物のモルモットの声を用いている。
人間が絡むシーンでブラックなユーモアを盛り込んでいるのも特徴で、日常生活において他者に迷惑をかける行動をとってはいけないという教訓的なエピソードも多い。ちなみに、生身の人間をコマ落しで撮影しているシーンがいくつかのエピソードで用いられるが、第1話で渋滞の原因を作っている青年を演じているのは見里監督本人だ。
『AKIRA』から『BTTF』まで…映画ファンの心をくすぐるオマージュの数々
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また、本作には多数の名作映画のパロディネタが登場するのも人気を支えている要因だ。第2話の街中の背景には、「モルフォーマー」という、『トランスフォーマー』を思わせるポスターが登場し、5話では『AKIRA』のパロディポスターも出てくる。6話では、ホラー映画の定番、ゾンビを物語の軸に据え、さらに荒野を疾走するモルカーに『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を連想させる重装備をさせていた。
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シリーズ中盤のエピソードは映画ネタが満載で、7話では冒険に出たモルカーが『インディ・ジョーンズ』を想起させ、8話「モルミッション」では、サブタイトル通り、『ミッション:インポッシブル』のパロディ回でありつつ、B級サメ映画『メガ・シャークVSメカ・シャーク』に登場しそうな機械のサメまで登場。サメ映画の定番の構図である、飛び上がったサメが人物に食らいつこうとするのを真上から捉えたカットはマニアをも唸らせた。
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さらには、『ゴジラ』のオキシジェン・デストロイヤーによく似た兵器まで登場するし、モルカーで『AKIRA』の有名シーン、金田がバイクで急停止するシーンを再現している。このエピソードはパロディ満載で、それだけでも注目に値するが、爆発する煙の表現などが非常に巧みでストップモーションの技術的にも特筆すべきエピソードとなっている。
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10話では、『スーパーマン』のようなスーパーヒーローに憧れるモルカーが描かれ、11話では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンのようにタイムスリップする車に改造されたモルカーが登場する。
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惜しまれつつも最終回を迎えた「PUI PUI モルカー」だが、SNSには「ありがとう、モルカー」と、毎週朝に癒やしを提供してくれたことへの感謝や、「すでにモルカーロスがつらい」などのコメントにあふれている。グッズやDVDを買って楽しむと宣言する人も数多く、中には自作でモルカーを制作している者もおり、本作がいかに多くの人に愛されているかがよく分かる。
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