そんな筋書きの映画『詩人の恋』で主演を務めるのは、韓国の名優ヤン・イクチュン。日本をはじめ世界の映画祭・映画賞で高い評価を得た初長編監督作『息もできない』、菅田将暉とW主演した『あゝ、荒野』で知られる、あのヤン・イクチュンだ。本作では、これまでの彼のイメージを覆す詩人のテッキが、観光客のいない、どこか侘しい冬の済州島を舞台に“繊細で切ない”物語を繰り広げていく。
いまだかつて見たことがないヤン・イクチュンがここに
彼が『あゝ、荒野』の撮影中にキム・ヤンヒ監督からテッキ役のオファーを受け、脚本を読んで、すぐに出演を決めたという本作。『あゝ、荒野』のクライマックスのために減量し、鍛え上げたボクサー体型から一転、約8キロも増量し、ぽっこりとふくらんだお腹で詩人テッキを演じている。
詩人とはいえ、日々、“美”に寄りそうだけの詩を書いては詩人仲間の前で発表するだけで、小学校の作文教室で講師を務めてはいるが、全くうだつがあがらないテッキ。生活費は妊活を始めた妻に任せきりで、家に帰ればサッカーゲーム。近所にドーナツ店ができたと知れば、早速、甘くてフワフワの触感のとりこになる。
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このテッキがとにかく、可愛らしくてたまらない。妻に向かってお腹を突き出してみたり、ドーナツを口いっぱいに頬張った上に寝落ちしてしまったりと、いまだ鮮烈な『息もできない』の粗暴な主人公と同一人物とは思えないほど。さらに、ドーナツ店で働く美青年セユンを想って書いた詩を朗読する際の、思わず聞き入る優しい声と切ない表情、彼と衝突して酔ってくだを巻く姿なども、これまでに見たことがないヤン・イクチュンの姿だ。
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テッキの書く詩は、青年セユンに出会うまで、人生の何気ない瞬間に“美”を見出すことはできても現実味のある悲哀が感じられない、と詩人仲間から厳しい指摘を受けるものだった。それまで夢見心地で生きてきた無垢な詩人は、セユンとの出会いによって初めて日陰で生きる者の悲しみを知ることになる。
切ない三角関係の行方は?
新星チョン・ガラムにも注目
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心をかき乱され、初めての感情に戸惑いながらも孤独を抱えた青年セユンのことを想わずにはいられない詩人テッキ。詩作の原動力にもなっていくセユンを演じたのは、オーディションから大抜擢されたチョン・ガラム。本作(2017年製作)の後、映画『感染家族』のゾンビ役で熱演を見せ、Netflixシリーズ「恋するアプリ LOVE ALARM」では主人公に片思いする高校生を演じてブレイクした、今もっとも目が離せない俳優のひとりだ。
精悍な顔つきや立派な体躯からは思いも寄らない、繊細で情感込めた演技が持ち味。彼が演じるセユンは、父が病床にあり、母はギャンブル好き。元手もなく、済州島の小さなコミュニティから抜け出せない。学業や恋愛、夢、何もかもを諦め手放した「N放世代」といわれる韓国の若者の象徴のようでもある。そんな彼を守りたい、そばにいたいと想うテッキの存在は、セユンにとっても心のよりどころとなっていく。
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だが、テッキの胸の内などお見通し、「私はあなたの友達でも母親でもなく、妻だ」と毅然とした態度をとる妻・ガンスンだって黙ってはいない。
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演じるのは、話題のドラマ「恋愛ワードを入力してください~Search WWW~」に出演し、プライベートでは『パラサイト 半地下の家族』パク社長役のイ・ソンギュンとおしどり夫婦として知られるチョン・ヘジン。ソル・ギョング×イム・シワンの映画『名もなき野良犬の輪舞』では非情なまでに捜査に徹するチーム長役が絶賛された彼女が、本作では威勢がいいだけではない、テッキというヒモ状態の夢想人を一途に愛する妻役に徹している。
中年の哀愁醸し出すヤン・イクチュンに絶賛の声
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公開に先立ち行われたオンライン試写会では、浮世離れした詩人テッキがセユンに寄せる想いや関係性について「恋といえば恋のような、詩人の淡い想いが折り重なった世界が優しく、時に切なくもあった」「恋というより、繊細な信頼を積み重ねていくような関係」「とても丁寧に、どこへも行けない人の閉塞感と恋の身勝手さが描かれている。タイトルに納得」とのコメントが上がる。
そんな詩人を演じたヤン・イクチュンに対しても、「可愛らしさと切なさ!すべて好き」「中年の哀愁みたいなの醸し出す雰囲気が良かった」「ヤン・イクチュンが演じると何故物語が生き生きとするのだろう」と絶賛の声が続々。
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シビアな現実が突きつけられる2人には、「ドランの映画みたいに男性役者が繊細で美しく 詩の一節一節が、同じく繊細で美しかった」「特にチョンガラムくんの表情は美しくもあり痛々しくもあり」印象的との声も。
そして「ラストシーンで心が震えた」「切ない余韻」「鑑賞後にじわじわと沁みてくる」「優しい語り口で迎えるラストの切なさはかなり好み」と、40テイク以上撮ったというラストの繊細な描写に心を寄せる人も多く、「韓国映画やっぱいい!」という声も上がっている。
『詩人の恋』劇場を調べる
『詩人の恋』は2020年11月13日より新宿武蔵野館ほか全国にて公開。
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<提供:エスパース・サロウ>