ロバート・パティンソンが出演したクリストファー・ノーラン監督『TENET テネット』はコロナ禍ながらあくまでもスクリーンでの公開にこだわり、“一人勝ち”的な世界的大ヒット。さらに、全米公開が2022年3月4日まで延期となってしまったが、マット・リーヴス監督『The Batman』(原題)ではブルース・ウェイン/バットマンという大役を任されている。
また、Netflixで配信中の映画『悪魔はいつもそこに』ではこれまでにない“ゲス牧師”役で熱演を見せ、各映画賞で絶賛された「A24」作品『The Lighthouse』(原題)も日本公開が待ち望まれている。
映画界が先行き読めない状況でも、いま俳優として最高に乗った状態である最旬俳優ロバート・パティンソン、愛称ロブ。作品を重ねるごとにどんどん好きになっていく、そんなロブのキャリアを“逆行”してみることで、単なるアイドル俳優からの脱却だけではない、進化と成長を感じることができるだろう。
『トワイライト』での大ブレイクは本望じゃなかった!?
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1986年5月13日生まれ、英・ロンドン出身。今年30歳になったロブ。地元のアマチュア劇団で演技を始め、リース・ウィザースプーン主演の『悪女』(2004)で端役を得るが、彼の出演シーンは最終的に全カット。その件をプレミアまで知らなかったロブに申し訳なく思ったキャスティングディレクターが持ちかけたオーディションが、大ヒットシリーズ第4作目『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)のセドリック・ディゴリー役というのだから、人生はどう転ぶか分からない。
セドリックといえば、『炎のゴブレット』で描かれる三大魔法学校対抗試合のホグワーツ代表選手に抜擢された文武両道の好青年で、ハリーの恋のライバル。この重要な役柄を任され、本格的なスクリーンデビューを飾った。
その後、『トワイライト』シリーズ(2008~2012)でヴァンパイアのエドワード・カレン役に起用されて大ブレイク。キャサリン・ハードウィック監督による1作目をインディーズ映画かと思い違いをして出演を承諾したといわれるが、世界的人気となった同作はシリーズ化されてティーンを中心に熱狂的ファンを生み、クリステン・スチュワートとの交際もパパラッチに追いかけられた。プライベートでは役柄の儚げな王子様キャラのイメージを払拭するかのように、ボサボサの手入れをしない髪や無精ひげ姿、シニカルなユーモアなどでその困惑ぶりを表現していた。
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同シリーズの進行中やその後の作品選びを見てみても、ロブは時代を創った2つの著名なヤングアダルト向けファンタジーシリーズに抗うかのようにキャリアを積み重ねてきたともいえる。
現在大ヒット中『TENET』はニールがいなければ成り立たない
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奇しくも『ハリー・ポッター』俳優が出演している『TENET テネット』。共演シーンはなかったものの、おそらく知人だったと思われる研究員のバーバラを演じているのは、『炎のゴブレット』フラー・デラクール役のクレマンス・ポエジーで、名もなき男(ジョン・デイヴィッド・ワシントン)と共に立ち向かう敵役セイターを演じているのは『ハリー・ポッターと秘密の部屋』のギルデロイ・ロックハート先生だったケネス・ブラナー、という縁。
そんな『TENET テネット』で描かれる、いわゆる挟み撃ち作戦はロブが演じるニールがいなければ絶対に成立しなかったミッション。ラスト近く、全てが繋がるシーンで名もなき男に向けられた彼の笑顔に魅了される人は後を絶たず、順行・逆行が入り組んだ時間軸に頭をフル回転させた鑑賞後に温かな余韻を残してくれるのはニールを演じたロブの存在が大きい。

大予算をかけて独自の映画手法と世界観を貫き通すノーラン監督との出会いは、まるで水を得た魚のようにロブを輝かせることになった。ノーラン監督は後述する『グッド・タイム』と『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』を観て、ニール役をオファーしたという。
想像の上ゆく“外道”牧師
Netflix『悪魔はいつもそこに』(2020)
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『TENET』でニールが大好きになった方にはかなりの試練かもしれない本作。トム・ホランドが主人公アーヴィン、その父で戦争のトラウマを負った帰還兵にビル・スカルスガルド、汚職保安官にセバスチャン・スタン、ヒッチハイカーを襲う猟奇カップルにライリー・キーオとジェイソン・クラークら主役級キャスト、製作にはジェイク・ギレンホールも揃い、50~60年代、信仰篤いアメリカの田舎町で渦巻く“悪魔”たちを描き出す。
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ロブが演じたのは、立場を利用して女性信者たちを辱める神の使いとは名ばかりの“外道”牧師プレストン。トム演じるアーヴィンは兄妹同然に育ったレノーラ(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のエリザ・スカンレン)まで被害に遭ったことから、一線を越えてしまう…。
監督はエズラ・ミラーの初主演作『アフタースクール』(2008)でメガホンをとり、Netflix「The Sinner -隠された理由-」の製作総指揮のひとりであるアントニオ・カンポス。
一瞬でシーンを掌握 Netflix『キング』(2019)

ティモシー・シャラメが新境地といえる歴史劇で、英国王ヘンリー5世の若き日ハル役に挑み話題となったNetflix映画。ジョエル・エジャトンがジョン・フォルスタッフ卿兼脚本をつとめ、フランスとの泥沼な戦争にカタをつけ、放蕩王子が一皮むけて英国王となるまでが描かれた。
ティモシーのハルと対峙するフランス王太子を演じたのがロブ。フランス訛りの英語を駆使し、どこかつかみどころのないキャラクターはジョークすれすれの怪演。監督は『アニマル・キングダム』で注目されたオーストラリア出身のデヴィッド・ミショッドで、タランティーノ監督も絶賛した『奪還者』(2013)にもロブを起用している。
漆黒の宇宙で慈愛と絶望を表現 『ハイ・ライフ』(2018)

『ショコラ』で知られるクレール・ドゥニ監督が果てなき宇宙を舞台に撮った異色SF。宇宙船「7」内でたったひとり、まだ幼い娘を育てているロブ。なぜこの顛末になってしまったのか、時間軸が前後しながら次第に明らかにされていく。
漆黒の中に浮ぶ、あえて先進的ではない宇宙船は、前進していながら後退しているように錯覚するほどの虚無が支配。そんな宇宙と、目の前の小さき者を慈しみながら絶望の眼差しをたたえるロブという新鮮な組み合わせを堪能できるが、宇宙空間での生殖実験に取りつかれたジュリエット・ビノシュには要注意。気鋭の映画製作会社「A24」が全米配給した。
絶賛を受けたやさぐれ役 『グッド・タイム』(2017)
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『神様なんかくそくらえ』(2014)、『アンカット・ダイヤモンド』(2019)のジョシュ・サフディ&ベニー・サフディ兄弟監督のもとで主演、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された。ニューヨークに暮らすホワイトトラッシュの青年コニーは、銀行強盗に失敗し、収監されてしまった知的障がいのある弟(演じたのはベニー監督)を救おうとするが、どんどん深みにはまっていく。
クローズアップの切羽詰まった表情はもちろん、その佇まいのやさぐれ具合は米インディペンデント・スピリット・アワード主演男優賞にノミートされるなど各方面から絶賛され、それまで彼にあまり関心のなかった批評家やシネフィルたちをも唸らせた。
伝説を信じる探検家の相棒に 『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016)
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ブラッド・ピット率いる「プランB」と、ホアキン・フェニックスとも多数組んできたジェームズ・グレイが監督・脚本という『アド・アストラ』チームによるアドベンチャードラマ。
アマゾン奥地に古代都市“Z”が存在すると信じ続けた実在の探検家パーシー・フォーセット(チャーリー・ハナム)の“相棒”ヘンリー・コスティンに扮した。王立地理学会のお偉方に信じてもらえず、夢追い人のように思われていたフォーセットのアマゾン旅に2度同行、“運命共同体”でありながらどこか斜に構えているリアリストな一面がある酒浸り。フォーセットの最後の旅の同行者となった息子役はトム・ホランドが演じた。
アラビアのロレンスに 『アラビアの女王 愛と宿命の日々』(2015)

ニコール・キッドマンが砂漠の地に魅せられた実在の女性ガートルード・ベル役に。ロブは不朽の名作『アラビアのロレンス』のモデルとして知られるトーマス・エドワード・ロレンス役に起用された。
オックスフォード大学初の女性卒業生で勇敢な探検家にして作家、大英帝国の情報員でもあったガートルード。ロレンスとの関係は、大使館の書記官(ジェームズ・フランコ)やトルコ副領事官(ダミアン・ルイス)との悲恋とは異なり、お互い広がる未知の世界でしか生きられない同志のようだった点に注目。監督はドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク。
デイン・デハーンとバディに 『ディーン、君がいた瞬間』(2015)
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『クロニクル』などでレオナルド・ディカプリオを彷彿とさせると注目を浴びたデイン・デハーンと、ディカプリオに憧れるロブが初共演。それぞれ、24歳の若さで事故死したスター俳優ジェームズ・ディーンと、NY・タイムズスクエアで彼の印象的なショットを撮ったカメラマン、デニス・ストックを演じた。
パパラッチに散々追われたロブが、デイン演じる新進俳優ジェームズ・ディーンに密着するうちに故郷での素朴な姿までも捉えるようになっていく。たった2週間の交流の後、一方は夭逝し、他方は世界を驚かせる写真家になるという運命のすれ違いは『TENET』で名もなき男とニールの関係性にしびれた方必見。監督は『コントロール』のアントン・コービン。
ハリウッドで成功を夢見る男に 『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)

鬼才デヴィッド・クローネンバーグのもとジュリアン・ムーア、ミア・ワシコウスカ、ジョン・キューザックらが集結、“あるある”を散りばめながら強烈に、シニカルにハリウッドのセレブ一家を描いた。
ロブが演じたのは駆け出しの脚本家で俳優、リムジン運転手として働きながらチャンスを伺うジェロームで、彼が一家の娘(ミア)と出会ったことが全ての始まり。『TENET』や『ロスト・シティZ』でも示したように、脇役としての引き算を心得ながらも、なおかつ十分に輝くのがロブ。キャリー・フィッシャーが本人役でカメオ出演しているのも貴重。
転落する大富豪役で新境地へ 『コズモポリス』(2012)
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クローネンバーグ監督が『トワイライト』で大ブレイク中のロブを主演に抜擢、監督の大ファンだったという彼もイメージ脱却を試みるべく俳優人生第2幕の1作として選び、異色のタッグといわれた怪作。
ニューヨークの若き大富豪は、動くVIPルームのようなリムジンの中で外貨の暴落に直面し、愛人と交わり、医者の検診まで受けるが、常にSPに監視・警護され、衆人環視にさらされる若者の姿が自然と彼に重なってしまう。近未来感のあるリムジン内と外で繰り広げられる暴動との対比も、まるで今日の世界のよう。退廃的な色気ダダ漏れでセックスシーンにも挑み、その中には『ハイ・ライフ』のジュリエット・ビノシュも…。自らの美貌で年上を魅了する役柄としては『ベラミ 愛を弄ぶ男』もある。
恋愛映画もひと筋縄じゃない 『リメンバー・ミー』(2010)
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あえて、ラブストーリーを避けているかのようなロブ。本作では心に傷を抱えた2人が恋に落ちていく過程がナチュラルであるものの、演じるのは、父との確執を抱え、22歳で自死した兄と同じ年になろうとしている青年タイラー。「LOST」「ワンス・アポン・ア・タイム」のエミリー・デ・レイヴィンが演じる恋人アリーもまた、かつて目の前で母親を銃殺された過去があった。
ロブが脚本に惚れ込んで製作総指揮を買って出た本作では、確かに等身大の恋する姿を目にできるが、賛否両論を呼んだ衝撃的な結末が待ち受ける。
また、2011年に出演した、リース・ウィザースプーン演じるサーカス団長の妻との恋を描いた『恋人たちのパレード』もひと筋縄ではいかないラブストーリー。
晩年に語られた詩人への激情 『天才画家ダリ 愛と激情の青春』(2008)
スクリーン映えするカリスマ性ある彼のキャラクターは、天才画家サルバドール・ダリの若き日を演じた本作から群を抜いていた。20世紀はじめ、スペインの王立美術学校に当時の最先端ファッション(これがまた奇抜)で入学したダリは詩人のフェデリコ・ガルシア・ロルカ、映画監督志望のルイス・ブニュエルと出会う。フェデリコは友情以上の感情をダリに抱いていくが、ダリは彼のもとを去る。その作風に大きな影響を与えたとして描かれるフェデリコとの愛と激情は、ロブの知名度がなければ日本上陸もしていなかった皮肉さがある。
本格デビューから15年あまり、伝記物からSFまで、作品ごとに強烈な個性を放ち続けているロブは、いま『TENET』に続いて『The Batman』で次なるステップに進もうとしている。予告映像からうかがえるように、彼が演じるバットマンは危うく脆い正義感と狂気とを漂わせ、ホアキンにとっての『ジョーカー』のようにエポックメイキングな代表作となるはず。これまでにないロブ、そしてバットマンの姿がいまからも楽しみで仕方がない。
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