22歳のときに原作漫画に出会い、連続ドラマの形を成したのは昨年4月。そして、まもなく映画の公開を迎える『宮本から君へ』を、池松壮亮はたっぷりの愛情を滲ませながら「非常に振り回された作品(笑)」と表現する。
「(映画の)完成という形で、僕の中でも決着がついた気がしていて。正直に言って、ほっとしました。細かい経緯を語るつもりはこの先もありませんが、苦労しましたから。あらゆる人たちが映像化しようとして、何度も駄目だったのが『宮本から君へ』。きっと、人間が触れちゃいけない領域に触れた漫画だったからでしょうね」。
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作品は「新しい時代に向けての精一杯のギフト」
作品タイトルにもなっている“宮本”は、文具メーカーで働く営業マン。不器用過ぎるほど不器用で愚直な彼を、池松さんは全身全霊などという言葉が空回りして聞こえるほどの熱で演じた。その宮本がサラリーマンとして這いつくばり、あがいていたのが連続ドラマ。映画では、生半可な気持ちであがくことすら許されない“壁”が彼に迫ってくる。
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「ドラマのときの宮本には挑むべきものが明確にあったし、自ら困難に向かう節すらあった。困難への体当たりを繰り返すたびに、自分自身の傲慢さや行き過ぎた気持ちと葛藤している部分もあったと思います。でも、映画ではそんなことを言っていられない。決して乗り越えられない大きな壁が、向こうからやって来るんです。自分がどうとか、“俺は何者なんだ?”なんて考えていられない状況になってしまう」。
物語の中心には宮本と、ドラマにも登場した女性・靖子(蒼井優)がいる。仕事仲間を通して出会い、やがて惹かれ合い、人生を交錯させる2人の物語が展開していくのだが、映画の宮本を演じるうえでは「ざっくり言うと、覚悟みたいなもの」が必要だったという。その「覚悟」は劇中で精神的、肉体的痛みに晒されてなお立ち上がろうとする宮本の姿と重なり、「苦し紛れのギフト」となって観客に届けられた。
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「作品に携わった全員から、新しい時代に向けての精一杯のギフト。そんな気でいます。7年かかったからには、この時期に完成して世に出る必然を願う気持ちで。ただ、22歳のときも29歳のいまも、宮本に対する思いはあまり変わらない。当時のイケイケだった池松が彼をヒーローとして見ていたときより、振り回された分だけいまは愛憎が入り混じっていますけど(笑)」。
「でも、22歳で演じられたとして、そのときにはないものが、いまの僕が演じた宮本にはあると信じたい。余計なことまで知ったうえでやったほうがよかったのか、知識量がない状態でやったほうがよかったのか。それは分からない。いまは宮本をやると体が痛いけど、当時なら平気だったかもしれない(笑)。それも分かりませんけど」。
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