昨年、アメリカのコメディアン、ミシェル・ウルフはNetflixオリジナル番組の中で「映画でよく描かれる強い女性像」を風刺。強い女性は汗をかかないし、緊張しないし、寝ないし、化粧もし続けている…視聴者の女性たちのリアルな生活とリンクしない女性像に疑問の声も上がってくるようになった。
ミシェル・ウルフの動画は風刺コメディなので誇張している部分ももちろんあるが、決して間違ってはいないように思う。確かに以前に比べると女性が描かれるようになったが、そこには視聴者が期待している女性像がまだまだ足りないと感じることも。そのような時流の中で、5月3日に全世界同時配信スタートした異色のNetflixオリジナルコメディアニメ「トゥカ&バーティ」が海外テレビシリーズファンの間で、“30代女性のリアルを率直に描いている新しい作品”として注目を浴びている。
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一見子ども向けハイテンションアニメ…
実は完全に大人向けの内容!
絵柄を見ると分かる通り、ポップでテンション高めな絵本のようなアニメーションだ。文字だけでなく時折実写映像も差し込まれるため、ハイテンションな子ども向けギャグコメディと錯覚してしまうが、完全に大人向けの内容なのだ。この絵のテンションで、30代女性の仕事、恋、人間関係、社会問題を「リアル」に伝える異色のコメディアニメは唯一無二ではないだろうか。
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登場人物ならぬ、
どこか自分とリンクする登場“動物”たち
自信家で自由奔放なオオハシのトゥカと、繊細で実直なウタツグミのバーティは2人とも30代の“鳥類”女性。2人はシェアメイトとして一緒に住んでいるくらいの大親友だったが、バーティが彼氏のスペックルと同居するためシェアメイトを解消。とはいえ、トゥカはバーティの部屋の真上に住んでこれまで通りバーティの家に入り浸る。
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一見トゥカの行動はウザいが、自分の部屋でひとり過ごすトゥカの描写は、彼氏や子どもができてライフステージが変わり、仲が良かった友達と疎遠になった時の自分自身と重なり無下にできない苦い気持ちが湧いてくる。
自分だけ何となく世間から置いていかれているような感覚と、何か新しいことを始めようと試してみるが、ぽっかり心に穴が開いてしまったような寂しさ。努めてポップにテンポよく描かれるので、辛気臭さはないが、それでもどこか自分の心の奥底にあった経験をサクっと表に出されてしまったようなリアルさがある。
30代の女性クリエイターが描く女性像
「トゥカ&バーティ」はNetflixオリジナルアニメ「ボージャック・ホースマン」でプロデューサー兼プロダクションデザインを務めたリサ・ハナウォルトがクリエイターとして手掛ける1話30分弱、全10話のコメディアニメ。
「ボージャック・ホースマン」といえば、50代セレブ俳優の悲哀を描いた作品。シーズン5まで現在配信され、人生の苦みを切実に描いた作風は、Netflixオリジナルアニメの中でトップクラスの人気を誇っている。そんな人気シリーズから今回あえて独立し作品を制作した背景には、人気シリーズでも描かれていない「あること」がきっかけだった。
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「ボージャック・ホースマン」は、視聴者が自分の人生の苦い経験と重ねてしまう描写が数多く存在するが、それでもジャンルとしてはコメディ。多くのギャグシーンが登場する。
その制作の過程でリサ自身、シーンとシーンの間に挟むギャグがいつも男性であることに違和感を覚えたとNetflixが企画した女性ショーランナー座談会の中で語っている。物語としてさして重要ではないシーンだが「女性だってキモいし、面白おかしいのになぜ男性ばかりなのか」と。
大人向けアニメで共感できる女性像がまだまだ描かれていないことから、今回自らメガホンを撮りクリエイターとして、30代の女性が自ら30代女性のリアルを描いた大人向けコメディが生まれた。このような経緯から、トゥカもバーティも作中ではガニ股でドカドカ歩くし、自意識過剰になって妄想にふけったりするし、相手のことを考えずに大失敗する姿が率直に描かれているのだ。
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あるべき論ではなく、いまを生きる女性のリアル
劇中では女性が社会で生きる中で直面する課題も“リアル”に描かれている。職場で横行するハラスメントに対して、女性に相談するけれど「相手がイケメンならむしろ喜ぶべき」と言われたり、フェミニズムについて勉強したけれど実際問題に直面したときに行動できなかったり。
「#MeToo」運動以後、女性への理解を世の中が進める中で、もちろん女性自身が声を上げていくことも必要だが、全員がそうできなくても良い、だれかに助けを求めてもよいという寛容さもこの作品では描かれている。それは、クリエーターのリサ自身が、作中で伝えたかったことでもあると「NowThis Her」のインタビューで話している。
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トゥカもバーティも、リサ自身のパーソナリティをキャラクター化したもので、キャラクターを通して、リサ自身が日々生きる中で出会う“女性だからこその課題”を代弁しているとのこと。
決して作品を通して、何か課題を提起し教えようとするのではなく、課題を課題のまま表に出す素直な作風も、多くの女性たちの心を掴んでいるのではないか。答えを見つけるのは、いまをリアルに生きる視聴者。メインのキャラクターを鳥類に据えることで、同じ鳥でも様々な種類がいるように、同じ人間でも十人十色。いろいろな考えや価値観を持った人たちの中で、よりお互いが心地よく生きていくためには、まず課題を課題として捉えることが大事だとこのアニメを見ると感じる。
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あえてコメディタッチで描くことで、深刻さを適度に排除し課題を冷静に捉えることができるし、周りの友人に気軽に話しやすくなることもコメディだからこその効能だと思う。
SNSが普及し、ストーリーの面白さだけでなく、その作品を「体験」し、「共感」し、だれかと「共有」したくなるかどうかがより重要になっている中で、SNSど真ん中世代である30代に寄り添ったリアルな作風は、いまの時代の最先端をとらえたいま見るべき作品のひとつではないかと感じる。