《text:キャサリン/Catherine》
遂に日本語字幕での配信が開始となった傑作ミュージカル「ハミルトン」。わざわざニューヨークまで行かないと観れないブロードウェイの人気ミュージカルをお茶の間で楽しめるまたとない機会です。今回はその見どころを3つに分けてご紹介します。
1.過去10年最大のヒットとなった歴史的作品
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アメリカ合衆国建国の父の一人であり、初代大統領ジョージ・ワシントンの右腕でもあるアレクサンダー・ハミルトンの生涯をラップやR&Bにのせて描いたミュージカル「ハミルトン」。トニー賞史上最多受賞、ピューリッツァー賞受賞、ブロードウェイで最も利益を挙げたミュージカルにランクインと華々しい記録の数々を誇り、オーディエンス評価も批評家評価も高い傑作と呼ばれています。
コロナ禍でブロードウェイが閉鎖されるその時まで、チケットは数百ドルに跳ね上がり、転売価格は数千ドル、アメリカに住んでいる人さえも実際の舞台を観ることが困難なほど。手掛けたのは今年公開のミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』の生みの親であるリン=マニュエル・ミランダ。彼が、2004年に出版されたアレクサンダー・ハミルトンの伝記に影響を受け、『イン・ザ・ハイツ』の仲間と共に創り上げたのが本作です。
2.構想から約10年の歳月をかけて完成した魂の傑作
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本作の冒頭は、彼の生涯を紹介するラップから始まります。アレクサンダー・ハミルトンはカリブ海に生まれ、幼くして親を失い孤児となり、そこから自力で稼ぎ片っ端から本を買いあさり、知識をつけニューヨークへ渡り革命へと身を投じていき…最後は政敵アーロン・バーに決闘で敗れるというまさに波乱万丈の一生。
ミランダの父親もハミルトンと同じくカリブ海出身、移民二世としてハミルトンに親和性を感じた彼は本作の基となった「ハミルトン ミックステープ」というヒップホップのコンセプトアルバムを制作します。その一部を2009年にホワイトハウスの行事でオバマ大統領夫妻前にして「ヒップホップでアレクサンダー・ハミルトンの生涯を…」と前置きした際には、笑いが起きてしまう一幕も。
Netflix番組「Song Exploderー音楽を紡ぐ者ー」でミランダは当時をふり返り、「僕は本気だった。“最後まで聴いて!”と言う感じだった」と語っています。当時の映像はYouTubeにも残っており、ミランダの目はまさに熱意に満ちているのが伝わってきます。おそらく彼は制作の初期段階で、色んな人に笑われようとも、決して信念を曲げず進んできたのだと思います。その姿はまさに、得たいものは必ず得ようと努力を重ねたアレクサンダー・ハミルトンのよう。
3.過去のアメリカを今のアメリカが描く
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ミランダが長い歳月をかけ一心に取り組んだ本作の最大の特徴は、過去のアメリカの歴史を多様性の富んだキャストで描いている点です。今のアメリカを支えている多種多様なバックグラウンドの人々が、建国の父やその家族を演じることで、観客は歴史を「自分たちの物語」として再度知るきっかけになっているのです。歴史の授業で聞くと少しつまらないと感じた内容でも、エンターテインメントを通して知ると興味がグッと湧いたりするもの。
Disney+で併せて配信中の「ハミルトン 歴史が君を見つめている」や「徹底取材!ハミルトン」でキャストたちが、劇場に来てくれる人たちが、本作で歴史を深く知るということよりも、まず歴史について改めて考えるきっかけになること願っていると口々に語っています。
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2015年の初演から約6年が経過し、ジョージ・フロイド事件を機に更に高まったブラック・ライブズ・マター運動を経て、奴隷制の基に成り立っていた建国の父への世の中の捉え方も変わりました。その点も含め、現在においての「ハミルトン」が果たす役割についてキャストたちが語っていますので、本編を観終わった後はぜひ「ハミルトン 歴史が君を見つめている」と「徹底取材!ハミルトン」も併せてご覧ください。