そん中、「ハリーのその後が知りたい」という“ハリポタ・ロス”真っ只中のファンに朗報だ。原作本ならびに映画の完結編と言われていた『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1&PART2』の続編が大きな動きを見せている。“あれ”から19年後の世界を描いた最新作「ハリー・ポッターと呪いの子」がいま、アジア・パシフィックエリアでは唯一、オーストラリアのメルボルンのみで観られるのだ。
「新章の始まりを目撃しにメルボルンへ」
2019年2月23日、オーストラリアはメルボルンの由緒正しいプリンセスシアターで、世界的に注目を集めるエンターテインメントの大興行が始まった。ハリー・ポッター・シリーズの最新作「ハリー・ポッターと呪いの子」の幕が切って落とされたのだ。当日は制作陣やオーストラリアのセレブリティがレッドカーペットを歩き、メルボルン有数の文化イベントを盛り上げた。
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ファンならもちろんご存じだろう。映画化された原作全7編(4巻以降は全て上下巻に分かれているので本としては全11冊)は、全て映画化されている。最終章のラストシーンでは、ハリーが父親となった姿で登場。“あれ”から19年後の世界が描かれ、これで完結と思われていたが、2016年7月31日に、シリーズの正式な後日談を描いた第8巻「ハリー・ポッターと呪いの子」が発売され話題を集めた。
そしてそれが小説ではなく、舞台脚本の書籍化ということも注目された理由のひとつだった。新しい章の幕開けを知ったこともさることながら、初めての公式な演劇版ハリー・ポッターが誕生すると知ったファンの興奮はいったいどれほどのものだっただろう。
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物語は、原作者J.K.ローリング、舞台監督ジョン・ティファニー、脚本家ジャック・ソーンによるオリジナルストーリー。父となり魔法省の役人となったハリーが様々な葛藤を抱える様子を描きつつ、有名人の息子としてのプレッシャーに苦悩する次男アルバスとの関りを見つめていく。これはハリーの子どもたちの世代、いわば新世代の物語でもある。ハリー、ハーマイオニー、ロン、そしてドラコらお馴染みの面々も加わって、新たな章が紡がれるのだ。
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運命的な話だが、ティファニーは約20年前にエジンバラのカフェで物語を書いていたローリングを覚えていて、言葉を交わしたこともあるという。それだけに、シリーズへの思い入れが強い。
「CGIで描くよりもエモーショナルな物語を心がけた。観客たちの“経験”に重きを置いたんだ。子どもたちが家でも真似できる演出もね」。
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実は8巻発売のたった1日前、2016年7月30日にロンドンのウエストエンドはパレスシアターで舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は初演されている。それが実質的な、物語のワールドプレミアだ。その日を迎えるまで、制作者や俳優陣はもちろん、マスコミ関係者には厳しい緘口令が敷かれた。全ては、作品に初めて触れる人の喜びや驚きを奪わないため。
実際のところ、約束を守るべき人は日々増え続けている。すでに脚本を読んだ人や舞台を観た人にも、“KEEP THE SECRET”という合言葉とともに秘密同盟の輪は広がり続け、J.K.ローリングもネットでその大切さを訴えている。
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舞台監督のティファニーは、こう話す。「これはクリスマスプレゼントのようなもの。包みを開ける楽しみを誰かから奪ってはいけないんだ。物語をリスペクトし、守り、経験を台無しにしない。これをすべての人に守ってもらいたいね」。
その後、2018年4月にリリックシアターで上演されたニューヨーク公演でも、3都市目となるメルボルン公演でもその約束は同様だ。“KEEP THE SECRET”。これは、物語を知る者だけが味わえる共犯意識とでも言おうか。
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というわけで、すでにメルボルンで舞台を観てきた私も、詳しい内容をお伝えすることはできない。だが、実際に観るまでは読まないと決めたファンには待っただけの特別なご褒美が用意されているということだけは断言できる。
もちろん、すでにストーリーを知っているファンでさえ、大興奮することは間違いない。舞台演出には、イリュージョンがたっぷり取り入れられているし、何しろハリー・ポッターの世界がライブで、しかも目の前で展開するなんて夢のようだ。あの呪文、この魔法、そしてあの人々――。全てが肌で感じられるのだから。
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キャストは新たにオーストラリア、ニュージーランドの舞台俳優たちが配された。魔法界の伝説的英雄ハリーの息子アルバス・ポッターを演じるショーン・リース-ウィームスは、「とてもフィジカルな演技が求められる作品だ。リハーサルは4か月に及んだけれど、全く大変だなんて思わなかったよ。オーディションは半年近く何度か行われたんだ。そしてある日、エージェントから電話をもらった。“今、1人?”と確認され、YESと答えると、オーディションに合格したと知らされた。耳を疑ったよ。そして、本当だと理解できたときには膝からくずれ、そして泣いた。それから半年は大変だった。プロダクションについて公表されるまですべてを秘密にしなければならなかったからね」と明かす。
ロンとハーマイオニーの子どもローズを演じるマナリ・ダタールも「まさかハリー・ポッター・ワールドの一員になれるなんて信じられなかった」と話す。キャストの誰もが口を揃えるのは、自らが伝説の一部となることが夢のようだということだ。
舞台版ハリー・ポッターの楽しみ方
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舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、Part1とPart2に分かれている。同じ日の昼2pmと夜7:30pmに観て1日で一気に体験するか、別日に観るか選ぶことができる。おすすめは2日連続で夜に観劇すること。
まず第一夜を楽しんだら、Part1の衝撃的なエンディングとPart2への期待にドキドキしながら、同行者と興奮を分かち合う。美食の町でもあるメルボルンには味自慢のレストランがいっぱいあるので、観劇後の食事を楽しみながら、感想や予想を論じ合うのもいいだろう。
そして眠れぬ夜を過ごすもよし、一時も早く続きを観るために早めにベッドに入るもよし。いずれにしても、違う日に分けて観ることで、興奮をたっぷり堪能できるというわけだ。
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ただ、忘れてはいけないのは、Part1の鑑賞前後に劇場内のショップに立ち寄ること。販売されているオリジナルグッズには、魔法の杖から、ぬいぐるみ、Tシャツやバッグはもちろん、グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンらの寮生たちが身に着けるマフラーやエンブレムなどのアイテムが所狭しと並んでいる。グッズを身に着けて出かけると、沢山の仲間と交流できる。劇場内には仲間しかいないので、恥ずかしがる必要もない。
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実は、寮関連のアイテムならグリフィンドールが人気と思いきや、舞台で存在感を増すスリザリンや、『ファンタスティック・ビースト』のニュートが所属していたハッフルパフも注目されている。
一緒になった海外メディアの記者が「H」のバッジをしていたので、理由を尋ねたところ、「ぼくはハッフルパフだから」と言われた。良く聞いてみると、海外ではホグワーツ魔法魔術学校の組分けサイトが人気とか。(ちなみに私は、複数のサイトで試したところ、いずれもレイブンクローだった。)
ところで、演劇ならではの興奮といえば、その時、その場にいる全ての人で作る空気感だ。舞台に最終的なピースをはめ込むのは、同じ空気を吸っている観客だ。舞台は観客が作ると言っても過言ではない。だから、毎回違うのだ。今日のメルボルン公演はどの日のメルボルン公演とも違うし、ロンドン公演ともニューヨーク公演とも違うのだ。
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舞台監督ジョン・ティファニーもこう話す。「毎回、反応が違う。観客によっても、街によっても変わってくる。そこが演劇の面白さだ。そして、舞台版ハリー・ポッターの凄いところは、いままで演劇を観たことのない観客がほとんどだということ。新しいオーディエンスは、“演劇って騒いでいいの? “舞台が面白いってありなんだ!”と最初はとまどいながらも、とても楽しんでくれたよ」。
まさにティファニーが言うように、ファンの盛り上がりは凄い。重大な局面にさしかかったとこでお預けを食わされたPart1終了後には、誰もが童心に帰ったかのようで、満面の笑顔を隠さない。Part2を観るため劇場に向かうと、スタッフたちから“Welcome back!”と声を掛けられるのもたまらないし、周囲には前夜と同じ観客が座っていることがほとんどなので、仲間意識が自然と湧いてくる。
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Part1終了後には劇場出口で、片翼が描かれた缶バッジがもらえる。Part2終了後にはやはり同様に、反対側の翼が描かれたバッジが配られるので、2公演をコンプリートした証を揃えることもお忘れなく。
チケット代は、1公演で65~175オーストラリアドル。現在、2019年末までの予約が可能。ロングランは必至だ。
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やはり、小説とも映画とも違った楽しみが、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」にはある。いま、アジア・パシフィックでこれを体験できるのは、メルボルンだけ。現在、カンタス航空が成田~メルボルン間直行便を運行している。約10時間の空の旅だ。ハリーとその家族、そして仲間たちの新しい冒険に参加できるなら、この距離は決して遠くないだろう。
次回は、メルボルンで見つかるハリー・ポッターの世界についてご紹介したい。
協力:オーストラリア政府観光局/ビクトリア州政府観光局
リンク
「ハリー・ポッターと呪いの子」チケット予約(英語) HarryPotterthePlay.com
オーストラリア政府観光局公式サイト www.australia.jp
ビクトリア州政府観光局 https://jp.visitmelbourne.com/