『Knife + Heart』(仏/ヤン・ゴンザレス) フランスのヤン・ゴンザレス監督は短編を多く作ったのち、長編1作目の『You and the Night』(13)がカンヌの批評家週間の特別枠で上映され、独創的で官能的な世界観が次代のアルモドバルかフランソワ・オゾンと評されていたようです。日本では『真夜中過ぎの出会い』というタイトルでアンスティチュ・フランセにて上映されているのですが、僕はいずれの機会も逃しており、恥ずかしながら今回までヤン・ゴンザレスという名を意識していませんでした。「カイエ・デュ・シネマ」誌界隈ではとっくに話題になっている存在であり、僕としては不勉強を猛省するばかりです。
『Girls Of The Sun』 (仏/Eva Husson) フランスのEva Husson(あえて表記するならエヴァ・ユソンかな)は、本作が長編2本目。彼女も初カンヌがコンペで、競争率が超厳しいフランス映画界において、快挙と呼べるはずです。ハマグチ、ゴンザレス、ユソン。やはりカンヌ攻めてますね。
ユソン監督は長編1作目となる前作『Bang Gang (A Modern Love Story)』がトロント映画祭で上映され、激しいセックスを中心にした若者の恋愛模様を描いた内容が話題になっていました。新作はがらりと趣を変えているようで、クルディスタンを舞台に、支配からの開放を目指して戦う戦闘先頭「太陽の少女たち」を率いる女性リーダーと、彼女を取材するフランス人女性記者の姿を描く内容とのこと。ヒロインには西アジアを代表する女優のひとりとして引っ張りだこのゴルシフテ・ファラハニ、そして記者役にエマニュエル・ベルコ。
その後、『Where Do We Go Now?』(11)がカンヌ「ある視点」で上映され、レバノンにおけるデリケートな宗教問題をユーモアを交えて描いた内容が好評を博しています。女優としても活躍していて、例えば現代ノワールの逸品『友よ、さらばと言おう』(14)でヴァンサン・ランドンやジル・ルルーシュと共演していますね。
新作はロサンゼルスを舞台に、失踪した女性の行方の捜査にとりつかれていく33歳の男性を巡る物語とのこと。主演はアンドリュー・ガーフィールド。シュールで混とんとしたLAのダークサイドに導かれる…とのことで、ああ、これ以上は情報を入れるまい。『イット・フォローズ』の熱狂の記憶がまだ人々に新しいこともあり、『レザボア・ドッグズ』のあとのタランティーノを待った時のような、『Under the Silver Lake』はカンヌで最も注目される1本になる予感がします。
『Happy as Lazzaro』(伊/アリーチェ・ロルヴァケル) イタリアの新星が連続でカンヌコンペ入りを果たしています。アリーチェ・ロルヴァケル監督の長編デビュー作『天空のからだ』(11)はカンヌ「監督週間」でプレミアされ、少女を主人公にした「瑞々しい」という表現がぴったりの秀作は直ちに話題を呼びました。妹のアルバ・ロルヴァケルは演技派女優としての地位をいち早く確立していましたが、その姉が実力を備えた映画監督であるという発見に、僕を含むイタリア映画ファンは興奮したのでした。
そして、アリーチェは2作目の『夏をゆく人々』(14)で早くもカンヌコンペ入りを果たしています。自伝的要素を含む家族の物語を政治的背景も交えて美しく語った演出はもはや成熟の域に達しており、見事グランプリ(2等賞)に輝きました。そして4年振り3作目の本作『Happy as Lazzaro』もカンヌコンペ入りし、アリーチェはいよいよイタリアの若手監督の第一人者として揺るぎない存在となった感があります。
Abu Bakr Shawkyというのがフルネームのようですが、あまり情報が見つかりません。ニューヨークを拠点に仕事をしているエジプト系オーストリア人で、2012年に現代エジプト社会を描くドキュメンタリーを製作しています。バラエティ誌によれば、多分に政治的メッセージを含んだドキュメンタリー短編も作っているとのことで、2011年のエジプトの革命の模様も映画に収めているようです。