10代でデビューしてから17年、着実にキャリアを積み重ねてきた田中さんに、演技について、女性観について聞いた。
――本作は映画化発表後、昨夏にドラマも放送されました。ドラマは脚本家の矢崎莉桜(木村文乃)視点、映画は伊藤くん(岡田将生)と彼女の関係が中心になっていますね。
田中:ドラマは3人の監督が撮って、それぞれの違いもあるし、僕も含めていろいろな俳優が“伊藤くん”を演じていました。映画は、廣木監督の演出ワンカットが多いこともあって、テンポといい、全然違いましたね。5人の女性が殻を脱ぎ捨てて、ちゃんと変わっていこうとするというか、開放されていくのがすごく丁寧に描かれていたので、いい映画だなと思いました。
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――撮影はドラマと映画とほぼ同時期でしたか?
田中:ほぼ同じですね。前半はドラマだけで、2、3か月後にもう一回撮るような形でした。ドラマでやったことと同じシーンを映画用に全部撮り直してるから、映画の台本を読んだときに、「え? ドラマと一緒やん」とまず思うんですよ。でも、シーンは同じでも、監督が違うから、毎回段取りしたり、芝居を変えたり、セリフも微妙に違ったり。
――いままでになかった経験だと思いますが。
田中:ないですね。
――ある種のやりにくさを感じたりは?
田中:それが意味をなしていれば、やりにくかったとしても、やる必要性はあると思うし、そういう意味ではしんどかったですけど、楽しかったし。それぞれの監督のやりたいことが分かるから、楽しめたのもあります。
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――廣木監督とのお仕事は今回が初めてですが、いかがでしたか?
田中:僕はワンカットの芝居が大好きなので、撮影はすごく楽しかったです。一連のお芝居ができるのは、緊張感はもちろんあるけど、やっぱり好きなので。長いシーンでも一連でいくのは潔いなって思うし。
――今回演じた田村は、伊藤くんと5人の女性たちの織りなすドラマをちょっと引いた立場から見ています。彼について、どう思いますか?
田中:演じてるときから思っていたのは、なんで莉桜と結婚しなかったのかなということ。莉桜との恋を終わらせて、違う人と結婚したのか。いまはプロデューサーとして莉桜を見てるけど、たぶんそれだけじゃない、特別な感情は絶対的にあって、応援もしていて、信頼関係もあって。でも違う女性と結婚してる。逆に、なぜだろう? とずっと思いながら演じていました。
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――恋を終わらせても、プロフェッショナルな意識で接するという田村の心理には共感できますか?
田中:ちょっと違うかもしれないですけど、プロフェッショナルとして、というと、僕ら俳優なんて擬似恋愛ばかりですから。本編中で演じるには、恋愛ものなら特に、絶対に相手を好きになったほうがいい。ただ、実際ほんとに好きになるわけじゃない。そこの気持ちの整理のつけ方とかは、たぶん、通じるところがきっとあるんだろうなと思います。
――ほとんどのシーンが莉桜役の木村文乃さんと2人でのお芝居ですが、一緒に共演していかがでしたか。
田中:文乃は事務所の後輩なんです。共演も何回かしてましたが、こんなにがっつりお芝居で絡むのは初めてだったのかな。だから、文乃ってこういう台本の読み方をするのか、とか、こういう現場のいかたするんだとか、見てましたね。
――事務所の先輩、後輩という関係性は田村と矢崎莉桜に重なるように思えます。
田中:それは絶対的にあると思います。役柄ともリンクしやすい部分でもある関係性なので。
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――そんな2人に関わってくるのが、岡田将生さん演じる伊藤くんです。容姿端麗だけど自意識過剰で無神経。モンスター的なキャラですが、伊藤くんという人物どう思われます?
田中:僕は嫌いですね。伊藤くんの良さは、イケメンだっていうとこくらいじゃないすか(笑)? イケメンじゃなかったら、たぶん、誰も彼を好きにならないんじゃないかな。ああいう人が実際いたら単純に嫌ですけどね、僕は。
――その伊藤くんについての田村の見解は「なんだかんだ言って、彼女たちを開放してますよね」というものですが。
田中:彼女たちが恋とか嫉妬とか、自分だけじゃない、相手がいる状況での感情に対して葛藤していた中で、伊藤を通して自分と向き合い始めて成長していく話だと僕は思っているんです。ある意味、反面教師だったり、自分自身を映し出しているのが伊藤という存在なんですけど、それも彼女たちが自分で気づいていくこと。伊藤が気づかせてるとかそういうことじゃ一切ないですよね。
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――田村はドラマのプロデューサーですが、田中さんがこれまでのキャリアを通じて見知った経験を参考にされましたか?
田中:ここでの田村の仕事はドラマ作りのごく最初の部分を矢崎先生とやってるので。僕が知ってるドラマのプロデューサーたちの仕事の段階とは違いますね。
――むしろ小説家と編集者に近いような雰囲気に見えました。
田中:どっちかというと僕もそのイメージですね。田村はまだ若いですよね。それで大ヒットしたドラマプロデューサーなら、もっとブイブイいわせてもいい気がするんですけど、全然そうじゃなくて、すごく丁寧で真摯。ただ、矢崎先生と2人でドラマをヒットさせた以降の彼の仕事については描かれないから、矢崎先生との関係性だけを考えて演じました。
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――確かに田村についての背景はほとんど描かれませんが、それでも本当に頼りになる存在として描かれています。女性中心のストーリーで鍵になるキャラクターを演じられることが多いですが、そういう作品で描かれる女性像も含めて、いまの若い女性について、どう思われますか?
田中:この作品の女の子たちはみんなすごい一生懸命。でも、どこをどう一生懸命になればいいか分からない。でも、それは年齢に関係なくみんなそうだと思うんです。僕もそうだし。本当はもっとこうしたいとか、いろいろ悩むけど、学校の勉強のように明確な答えはないし、いい俳優になるためのテキストみたいなものも一切ないから。じゃあどうするんだ、というと自分と向き合うしかないと思う。そういう意味で『伊藤くんA to E』の5人の女性に共感できるんです。
完成披露試写会の舞台挨拶で『登場人物全員クズだとほっとします』と言いましたが、ほんとにクズだけが出て、クズのまま終わってたら、全然ほっとしない。でも、それぞれ違った駄目なやつらでもやっぱり生きてるし、変われるし。すごく駄目なやつでも誰かに気づかせてあげたり、ふとしたときに誰かを救ってたりする。そういうものがこの作品のテーマだと思っています。
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――30代になって、出演作での役どころも、渦中であがく若者たちを見守るようなポジションになってきたように思います。
田中:いや、俺全然、渦中入りたいですけどね(笑)。でも、現場によって立場が違うし、役によって作品における割合も当然違うし。ただ、あんまり落ち着きたくはないなとは思います。俳優としても、イメージとしても。『こいつがいると、まとめてくれるよ』みたいな、安心感キャラを求められるのはすごく光栄に思っているし、このままずっといまのポジションでいられたら、たぶん死ぬまで食べていけるだろうなとは分かってる。ただ、自分自身はそこで落ち着きたくはないという思いがあるから。新しいことがきたら迷わずやりたいです。