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■ARLってなに?
ARLはアニメーションの作品にまつわるアートワークやドローイング、またはアニメーションの製作にあたり作られた彫刻作品などを1点1点大切にコレクションするとともに、新たな作品を制作する際に、ディズニー・アニメーションのアニメーターたちがそれらを参照し活用できることを目的とされた、いわば、ディズニー・アニメーションの歴史に触れることができる場所。ちなみに現在日本で開催されている「ディズニー・アート展」で展示されている原画たちもこのARLから持ち運ばれたものである。
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フォックス氏いわく、ディズニー・アニメーション作品にまつわるものであれば“レストランで紙ナプキンに書いたメモ”までもコレクションするという徹底ぶり。さらに、現在ARLには総計6,500万もの数の資料が保管されており、1日に1,000単位という数のものがデジタル化され、オンラインでも閲覧できるようになっている。ちなみに著者・作品名が不明の場合は、敬意を込めて「ディズニー・スタジオ・アート」と表記される。
■活用される資料館
資料館ではスタッフがコレクションチーム、カタログチームなど計6チームに分かれ、徹底した管理が行われている。例えばコレクションチームは、それぞれの作品に適した温度・湿度が管理された部屋で作品をコレクトするなど、作品のケアや保存に最善を尽くす。一方、カタログチームはアニメーターが見たいものにすぐアクセスできるように、収蔵されたコレクションをデジタル化してリストアップしていく。現時点で100万点の作品はオンラインのカタログから検索ワードを入れて見られるようになっている。(ディズニー・アニメーション関係者のみ)こうして、作品を“最高の状態に保つ”ことと、アニメーターのインスピレーションの場として“作品が活用されること”ことが両立しており、ディズニー・アニメーションの遺産として、またアニメーターの育成の場として、またクリエイティビティの手助けとしてなど多義的な利益を生んでいる場であることが分かった。
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■クリエイティブを“リチャージ”できる場所へ
取材の最後に、フォックス氏にインタビューを敢行。ウォルト・ディズニーがプロデュースした映画『ジャングル・ブック』を幼少期に観て感銘を受け、自然とディズニー・アニメーションの仕事に携わるようになったとフォックス氏は語ってくれた。本人は絵を描くことが得意ではないらしいのだが、この場所でフォックス氏は製作者たちへ“クリエイティビティ”のI.手助けとII.再提供をしているという。それはどんなことだろうか?
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「クリエイティビティというものはあります。誰もがとてもクリエイティブで、問題を乗り越えて仕事をすることが出来る。彼らは、一緒に仕事をし、協力しながら、映画を作るのです。ここは、ある意味、仕事をよりやりやすく出来るように、手助けするんです」「それからまた、(製作中の)彼らの映画から離れる手助けをします。誰かほかの人のアートを見て、心を明晰にするんです」。
つまり、製作に必要なアイディアを、それに近い形で提案するだけでなく、思いもよらぬところでアイディアを思いついてしまうような“発見”の機会も与えているのだ。こうして生まれた作品には無形ではあるが、この資料館から得た何層にも重なったクリエイティビティが詰まっている。それについてフォックス氏は、「なんてこった。彼らは全てのアートを保管している。僕らはもっと良い仕事をしないといけない!」と作品のつながりとともに、次に生まれてくる作品のためにも、作品のプロセスにクリエイティブを与えられるように丁寧な管理を行っているのだ。
ディズニー・アニメーションが実践している、「魅力的で心を惹きつけられるキャラクターを使って、信憑性のある世界で、説得力のあるストーリーを語ること」を常に“新鮮に”やり続けるために、想像力を常に育むことができるこの資料館というのは、今後も重要な役割を担っていくだろう。
『モアナと伝説の海』は先行デジタル配信開始中、7月5日(水)よりMovieNEX発売。
協力:ウォルト・ディズニー・ジャパン