みなさんは、制服に何か思い出はあるでしょうか。私は、幼稚園から高校まで同じデザインの制服(しかもセーラー服)を着続けていた経験を持つ者。はっきり言って、小学校の終り頃から、早く脱ぎ捨ててしまいたいと思うばかりで、良い思い出はほとんどありません。しかも、規則が厳しくアレンジはほぼ不可。「皆同じ服装なんてキモい」と思い続けていました。でも、高校卒業から早○○年。すっかり大人になった今では、制服が持っていた意味のようなものに気づくようになりました。そんな流れでの『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』です。本作は、愛を知らなかった少年が、合唱との出会いを通して成長していく物語。よくある少年の成長物語かと思いきや、少年合唱団の内部というかなり特殊な世界を描いた作品は、成長の描写も興味深いものになっているのです。逮捕歴があり、やや荒れた生活を送る母親と暮らす12歳のステットが主人公。ある日、校長に類い稀なるボーイ・ソプラノを高く評価され、その才能を活かせる学校への転校を勧められます。新しい学校とは、全米一の国立少年合唱団の付属という名門校。母のことが心配な上、礼儀知らずのステットは、初めは無礼にも大人たちの提案を一蹴し拒否するのですが、やがてそうもしていられないのっぴきならない事情により付属校へ移ることになります。そこには、厳しい規律と盛りだくさんの勉学が待っていました。とまといながらも、変化を余儀なくされるステット。はじめは無理やり、やがて自分の意志で成長していくことになるのです。そんな彼の微妙な変化を映し出していくのが、彼が途中から着ることになる制服。子どもの身なりというものは、やはり親によるものが多く、どうしても生活環境や親の価値観を表してしまうのなのでしょう。転校前は、ちょっとだらしない格好をしていた彼でしたが、厳しい校風の学校では、常に制服を着ることを求められます。新しい生活に馴染めないうちは、借りてきた衣裳をいやいや着ているかのようなステットでしたが、やがて才能に目覚めてやる気を出してきた頃には、かなり様になっていき、ついには選ばれたメンバーのために用意されたツアー用制服に目を輝かせるようにさえなるのです。実力重視の才能の世界と言えど、才能を見出されたり、誰かと手を取り合って才能を活かしたりしていくためにも礼儀は必要。ということで、合唱団付属校が規律を重んじるのはそのせいなのでしょう。制服は、そのひとつの象徴。仲間たちとひとつになろうとすればするほど、合唱という世界が自分の暮らす場所だと自覚すればするほど、制服は彼にとって大きな意味を持ち始めるのです。ただ、学校の制服ともなると、やがてそれを脱ぐ日が必ずやってきます。驚くほどあっさりと。その日に見せる態度にこそ、ステットの確かな成長を感じさせるあたりが、本作の憎いところ。卒業しても、あえて制服を着て皆で遊びに行くというのが一時流行したようですね。仲間とのつながりを大事にしたい、楽しい学生時代を今一度、という気持ちもわからなくはありません。でも本作を観ていると、自分の成長をしっかりと受け止め、潔く子ども時代から脱皮する決心をしたステットの姿に、1票入れたくなるのです。