『リトル・ミス・サンシャイン』では空軍パイロットになるために“沈黙の誓い”を立てた少年、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』では狂信的カリスマ牧師役など、さまざまな作品で超絶な存在感を発揮する、個性派俳優ポール・ダノ。この春、いまやハリウッドに欠かせない俳優となったポールが、ブラッド・ピットやベネディクト・カンバーバッチ、さらにヒュー・ジャックマンやジェイク・ギレンホールといった豪華キャスト出演の話題作に続けて登場する。1984年にニューヨークで生まれたポールは、現在29歳。12歳でブロードウェイの舞台に立ち、17歳のときに『L.I.E.』で映画デビューを果たした。その後、トム・クルーズ主演の『ナイト&デイ』ではオタクな天才科学者、ブルース・ウィリス共演の『LOOPER/ルーパー』では未来の自分に抹殺される暗殺者、ダニエル・クレイグとハリソン・フォード出演の『カウボーイ&エイリアン』では町の有力者のダメ息子、そして実生活での恋人ゾーイ・カザン(エリア・カザンの孫)と共演した『ルビー・スパークス』では、妄想から飛び出した女の子に振り回される小説家と、どれもこれも癖のある役ばかりを演じてきた。ナイーヴな好青年から、ちょっとキモいオタク、はたまたキレまくりのイカれ野郎まで、作品ごとにまったく違う顔を見せる芸達者ぶりが、引っ張りだこの理由だろう。そして新たに、ポール・ダノ“七変化リスト”に加わるのは、この春公開の2作品。賞レースを席巻中の『それでも夜は明ける』は、幸せな日々を送っていた男が、ある日突然誘拐され、見知らぬ土地へ奴隷として売り飛ばされた12年間を回想する物語だ。本作では、ブラッド・ピット、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチと、映画界の“最旬”キャストとの共演を果たしているが、ポール演じる奴隷主フォードの農園を監督する職人ティビッツは、無知で、短気で、意地悪で、誰にも尊敬されないサイテー中のサイテー男なのだ。さすがのポールも、この役に感情移入するのは難しかったようで「いつも新しい役にはワクワクするんだ。でも今回ばかりは、脚本を読んで正直気が遠くなった。まったく共感できない男を演じるために、できる限り一面的に捉えず、なぜそんな人間になってしまったのかと監督と分析していったんだ。その結果、彼は父親から虐待されて育った男だと想像することにしたんだ」と話す。そしてもう1作は、ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホール主演の『プリズナーズ』。有力な目撃情報も物証も一切ない少女失踪事件を描き、“もし最愛のわが子を奪われたら、あなたはどうするか?”という強い問いかけと、怒りと焦燥に駆られる父親が法律とモラルの一線を踏み越えていく姿から、共感と恐怖の狭間で激しく揺り動かされる物語となっている。ポールは、事件のキーパーソンとなる容疑者アレックスを演じた。うつろな目つきで挙動不審なアレックス役は、ポール・ダノにハマったファンにはたまらないキャラクター。この役はポール自身も気に入ったらしく、「アレックスは複雑な男だ。悪者であると同時に犠牲者であり、謎めいている。役者から見れば、おおいに掘り下げ甲斐のある人物だよ」と難役を楽しんで演じた。実は本作の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴも、脚本を読みながらポールを思い浮かべていたと言う。「ポールは大好きな役者なんだ。この役には存在感の強い役者が必要だった。スクリーンに映っていないときでさえ、観客に存在感を感じさせられるような役者がいい。ポールはこのキャラクターに無垢な人格を吹き込んだ。成長が止まったような、あるいはある時にそのまま留まっている子どもみたいなね」。ハリウッドもその才能を認める若手実力派ポール・ダノは、まさに噛めば噛むほど味が出る(?)役者。すでにファンの人も、まだファンでない人も、この2作で彼の魅力を堪能してみてほしい。『それでも夜は明ける』は3月7日(金)よりTOHOシネマズ みゆき座ほか全国にて公開。『プリズナーズ』は5月3日(土)より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国にて公開。
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