『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』鑑賞。どんなにつらくても、どんなに厳しくても、ただ生きていくこと、このすばらしさ。メッセージはシンプル、だが映画は非常に野生的かつ独創的。少女に突きつけられる、あまりにつらすぎる現実。南極の氷が溶け水位が上昇、さらに大嵐が襲ってきて海面に浮かぶ小さなバスタブ島は水に浸かってしまう。同時に唯一の家族である父親が病に倒れる。それでも彼女は父親譲りの勇気ととびっきりの想像力を武器に力強く生きていく。様々な生き物たち、仲間たちと手を取り合って。自然の脅威、温暖化、貧富の格差、さまざまな地球の問題を背景に置きながらも映画の本筋は父と娘の物語である。幾度と登場する幻想的な野獣。これは少女自身であり、父親でもあり、自然の象徴でもあり、解釈は観客に委ねられている。原題は『BEASTS OF THE SOUTHERN WILD』父娘の強い絆のドラマに獰猛だけど憎めない、どこか愛らしい野獣の佇まいが絡み合う。この映画的演出が深い感動を呼ぶ。泣けるとかぐっとくるとも違う、ただただ涙がこぼれ落ちると同時にエンドロールを迎えた。大きな世界の小さなカケラにすぎない生命たち。荒々しく瑞々しい不思議な力が溢れる稀有な映画。