『横道世之介』鑑賞。世之介と祥子。どこか浮世離れした主人公なのに、この二人の恋に気持ちが乗った。可笑しく、懐かしく、切なくて。前作『キツツキと雨』もそう、この監督はユーモアと間のセンスが良い。たわいもない会話から生まれる空気感は時代の匂いを伝え、人の感情の機微を伝える。初めて名前を呼び合う時の愛らしい笑顔、初めてキスをする場面の俯瞰。寄り引きどちらのショットにも心を揺さぶられた。『ライブテープ』『桐島、部活やめるってよ』『横道世之介』近年のベスト級すべて、撮影は近藤龍人。登場人物たちの人生の多くは語られず、十数年の空白を想像させる脚本。この余白を自分の記憶で埋め合わせながら、世之介と祥子の人生を振り返る。ふたりの人生はこの後どうなったんだろうと。幸せな余韻に浸る、傑作。映画が進むにつれて、映画を観終わってからもなお、世之介と祥子の存在が自分の中でどんどん大きくなっている。