サミュエル・L・ジャクソンがクリスティナ・リッチを鎖に縛って監禁する…。となると、ド変態の香りが漂ってきそうだが、その予想は的外れ。『ブラック・スネーク・モーン』は極めてシリアスなヒューマンドラマだ。サミュエル・L・ジャクソン扮する初老の男・ラザラスは、南部の敬虔なクリスチャン。彼は自分の弟と妻が不義の関係に陥ったのに絶望し、孤独な日々を送っている。一方、クリスティナ・リッチが演じるのは、幼い頃の虐待が原因でセックス依存症の問題を抱える少女・レイ。身持ちが悪いと評判の彼女があられもない姿で道端に倒れているのを、ラザラスが自宅に連れ帰るところから物語は展開していく。信心深いラザラスは病んだレイの魂を更生させようと試みるが、この過程が衝撃的でありながらも真摯でドラマチック。ラザラスによって徐々に変わりゆくレイは、ギリギリのところで内面と向き合わざるを得ない状態にあり、その姿に胸が締めつけられる。もちろん、レイを導くことで自らも再生していくラザラスの心の旅にも揺さぶられるものがある。レイの恋人で、寄り添うように生きてきた彼女を残して軍に入隊した青年・ロニーをジャスティン・ティンバーレイクが好演。彼ならではの戸惑える子犬のような表情で、それぞれ傷を抱え、ヒリヒリとした痛みを伴いながらも新しい局面を迎える恋人たちの片割れを演じている。