凛とした表情、あふれるような透明感に憧れを抱く人も多いだろう。女優・江角マキコの最新出演作は、稀代のクリエイター・大友克洋が人気コミックを映画化した『蟲師』だ。目に見えない蟲と人間との関わりを描くファンタジックな世界。もともと江角さんは『AKIRA』や『スチームボーイ STEAMBOY』など、監督の大ファンだったという。「実際にお会いしたら、凄くはっきりとしたビジョンをお持ちだったので、あまり頭で考えないで、身も心も委ねようと思いました。今までの作品は、時代設定の前後があったとしても“自分自身のこと”として置き換えられたんですね。しかし今回は、想像を絶する状況と、現実では有り得ないことの連続だったので大変でした(笑)」「私は監督の美意識が好きなんですね。映像はもちろん、全てを言わない美意識というか。ちょっとシニカルに、人間に対して“これでいいのか?”と斜に構えて投げかけている。でもそれを言わないところが大友さんの凄いところなんです。だから観る人によってそれぞれ感じることが違うんでしょうね」今回演じたぬいという役は、蟲師・ギンコと同じような運命を背負ったひとりの女性。江角さん自身、実は出産という大きな経験をした直後の撮影だった。「ロケ場所には連れて行けませんでしたが、宿泊しているホテルには子どもがいました。あえて母性を意識しなくても自分自身がそういう状況にいて…。自然に、たまたま自分の母性がみなぎっているときにこの役に出会えたので、多分表情も今と全然ちがうと思います」そんな愛情たっぷりのエピソードとは裏腹に、ぬいは実子を失うというショッキングな過去を抱えている。「自分の子どもを亡くしたからこそ、その影を他人に見るという気持ちは私もよく分かって、面影を探すというか、姿を探すというか…女の執念ってそういうところにある。いなくなってもずっと探し求めているんです。たとえそれが幻でも離したくない。それは母親独特の強さであり、怖さでもありますね」今からおよそ100年前の日本。ぬいたちが移動する深い山々、その大自然も見どころのひとつだ。「冬眠しているヘビを見たり、サルの群れにも遭遇したし、私たちは何やってるんだという感じでした(笑)。不思議なもので、大自然って映像で見る方が小さく見えがち。でも今回は実際よりも感動的に映像に収められていたんです。そこに出てくる人物以上にやっぱり自然が主役で、ある意味、自然の中に自分が身を置かせてもらっている。きっとオダギリさんもそう感じたと思うんですよね。人間が立ち入ってはいけないところに来ているような、畏れ多い気持ちになりました」3月の国内公開前にもかかわらず、すでに海外からも多くのオファーが寄せられている。「目に見えないものを感じるとか、“心で見る”ような部分って、日本独特の思想だと思いますが、それが受け入れられてきたっていうことでしょうか。今、世界中の関心が色々な意味で地球に向かっているというか、今までとは違う“直感”で、気候とか雲の動きとかに敏感になっているのかな、と。便利な世の中になって、本能的にみんなが危機を感じているのかもしれない。自然を壊してまで得ているものって何だろうと思うし、でもきっとこういう成長は、政治や経済が絡んで止められない。そこで生きていく私たち人間はやっぱり動物だし、そこで直感的に危機を感じているんだと思います」自然の尊さや人間への警鐘。様々な要素を含んでいるという『蟲師』の世界。単なるコミックの枠を飛び越えた、監督や出演者からの大きなメッセージとしてもぜひ受け止めてほしい。