本作は、黒人の青年、刑事、雑貨経営者、鍵屋、ある2組の夫婦……一見、何も繋がりのない人々に、実は接点が! という『ラブ・アクチュアリー』や『大停電の夜に』に共通する"人はどこかで繋がっている"をテーマにした作品です。ただ、この『クラッシュ』は、些細なきっかけで生まれる悲しい暴力の連鎖を全面に出している点で、他の作品とは一線を画しています。様々な人種が溢れる街、ロサンゼルスの36時間に起きる出来事──そこに詰まった痛みと愛にグッときます。同タイトルということもあって、つい、クローネンバーグ監督のちょっぴり(?)異常な『クラッシュ』を思い出してしまったけれど(笑)、本作は現代人の叫び声を描いたヒューマン・ドラマ。ぶつかり合いながらも人は触れ合いを求めているんだなと考えさせられました。
今年は、日本時間の3月6日に発表となる第78回アカデミー賞。2月1日には、待望のノミネート発表が行われました。
1972年、ミュンヘン五輪で起きたテロ事件をテーマに、暴力の連鎖が生む悲劇と、誰の心にも宿る郷愁を描いた社会派映画『ミュンヘン』。監督のスティーブン・スピルバーグ自身が「自分のために作った作品」と呼ぶ本作で、主役を務めたエリック・バナが、1月20日、都内のホテルで行われた記者会見に出席した。
今年は、日本時間の3月6日に発表となる第78回アカデミー賞。去る1月31日、すでにノミネート発表が行われましたが、詳しくは来週お伝えするとして、今週は気になる授賞式ファッションを予測します。
2005-2006年は日本におけるドイツ年ということもあり、ドイツ映画が盛り上がっています。2003年の『グッバイ、レーニン!』あたりから現代ドイツ映画が勢いを取り戻し始め、ドイツ国内で作られた作品やドイツ史を描いた作品にも注目が集まるようになりました。昨年はドイツ人監督が初めてナチスを扱った『ヒトラー〜最期の12日間〜』が公開され、2月にはスティーヴン・スピルバーグ監督の問題作『ミュンヘン』も控えています。中でもこの『白バラの祈り』は、若い女性が主人公だけに、より感情移入しやすいかもしれません。ゾフィーだけが特別だったのではなく、誰でもゾフィーになり得たかもしれないのです。歴史にとって個人とは何か、また個人にとって歴史とは何なのか。そんなことを考えました。
打倒ヒトラーを市民に呼びかけた実在のグループ“白バラ”の女性メンバーであったゾフィー・ショル。捕まれば確実に死刑が待ち受けていることを知りながらも行動する彼女のどこからその勇気が湧いてくるのでしょうか? 同じ女性として、彼女の強さに圧倒されてしまうところもありましたが、ゾフィーは決して極端に他の女性よりも強靱であったわけではありません。淡々と、静かに、良心を信じて政府に立ち向かう彼女は、同時に音楽を聴き、恋をし、普通の女子学生であったことに気づかされます。政府に対する怒りや悲しみも、単なる正義感だけではなく、犬死している大勢の兵士の中に彼女の婚約者も送り込まれているからこそ感じるものなのでしょう。戦争をテーマにした映画ではなく、ひとりの女性の物語として観て欲しい作品です。
日本では、空前のペットブームが続いていて、TVや雑誌、新聞などで、可愛い動物の登場を目にすることが多い今日この頃。日本だけのことかと思いきや、世界的にその傾向がある様子。映画界では、昨年から今年にかけて、動物系のものが続々。『皇帝ペンギン』『いぬのえいが』『トゥルーへの手紙』『マダガスカル』などなど。アニマル・ラヴァーな私として、頬もユルユルなのではありますが、登場する動物たちが可愛いからといって、映画の質もばっちりかといえば、そう世の中は甘くないもの。それはそれ、これはこれ。とはいえ、動物好きにしてみれば、ついつい評価が甘くなりがち。(上記の作品は、玉石混交の作品群の中でも、いい味を出しているものです。念のため)
世界で大ヒットした痛快アクション映画『マスク・オブ・ゾロ』の公開から7年。あのスーパーヒーローとともに、妖艶なヒロインが戻ってきた! そのヒロインとはもちろん、続編『レジェンド・オブ・ゾロ』でも引き続きゾロの最愛の人エレナを演じるキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。スピルバーグが放つアクションエンタテインメントの決定版について、そしてプライベートについても、笑顔を絶やさずたっぷりと語ってくれた。
1980年代、中南米エルサルバドルは激しい内戦に包まれていた。少年時代をこの内戦下で過ごし、14歳の時にアメリカに亡命した新人俳優、オスカー・トレスはこの体験をひとつの脚本としてまとめ、ハリウッドで活躍する、同じく中南米出身の監督、ルイス・マンドーキに自ら売り込んだ。こうして『イノセント・ボイス 12歳の戦場』が誕生した。公開を控えて来日をしたルイス・マンドーキ監督、そしてオースカー・トレスに映画について伺った。
新作『輪廻』が世界40カ国で公開されるという『呪怨』の清水崇監督。自作のリメイクでハリウッドデビューを果たした『リング2』の中田秀夫監督。ホラー映画とその作り手たちが世界でメジャー級の注目を集める邦画界。益々、若手や中堅クリエイターたちに期待が集まる中で、近頃は「さすがはベテラン!」という凄みを見せつけてくれる監督たちの活躍にも注目が集まっています。
女優の中には偏って異性に人気がある人もいますが、同性からの指示がバツグンに高い女優のひとりが深津絵里だと思います。本作では博士の家で働く家政婦・杏子を演じていますが、今回は初の母親役に挑戦。いつ見ても清々しく、凛とした姿は女性としてあこがれます。ストーリーは昨年の話題作『50回目のファースト・キス』や『私の頭の中の消しゴム』などと同じ“記憶”をテーマにしたもの。突然“忘れる”という恐怖は否めませんが、何を忘れたくないか、すなわち自分にとって何が大切なのかを前向きに考えさせられます。原作者の小川洋子さんもうならせた本作、もちろん原作を読んでいなくても同じくらい心動かすものを感じるはずです。
原作を読んで、筆者・小川洋子が紡ぎ出す、淡々としながらも的確で温かな人物描写に惚れ込んだ私。そのせいか、小説よりもややドラマティックに演出された映画には、「あれ、イメージと違うな」と思う部分も。ただ、“佇まいだけで泣かせる俳優”寺尾聰はハマリ役! 『半落ち』を思い出したりして…。それから、“博士が愛した数式たち”を丁寧に説明してくれているのが有難かった。数学アレルギーの私でも良く理解できたので、数字ギライの方もご心配なく。浅丘ルリ子、深津絵里、吉岡秀隆という日本映画界を代表する芸達者たちが魅せる演技のアンサンブルも魅力です。
記憶が80分しか持たない数学の博士と、お手伝いさんとその息子“ルート”。素朴で微笑ましいその心の交流が、数学の不思議ワールドに引っ掛けて語られた途端、なぜかロマンティックな深遠さが漂わせ始める。博士を傷つけても博士はすぐに忘れてしまうが、それでも二人は決して博士を傷つけまいと心を配る。底抜けのカップに暖かい飲み物をそっと注ぎ続けるようなその無益な行為は“これって愛かも”と感じさせる。もちろん飲み物はたまらないが、それ以前のようにカップが冷え切ってしまうこともない。