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最優秀作品賞は異例のサプライズ、初受賞が目立った第48回日本アカデミー賞

第48回日本アカデミー賞授賞式が、3月14日に都内で開催。安田淳一監督の『侍タイムスリッパー』が最優秀作品賞に輝き(最優秀編集賞も受賞。計2冠)、最多12部門13の優秀賞に輝いた『正体』が最優秀主演男優賞(横浜流星)・最優秀助演女優賞(吉岡里帆)・監督賞(藤井道人)の3冠を達成した。

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©日本アカデミー賞協会
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第48回日本アカデミー賞授賞式が、3月14日(金)に都内で開催。安田淳一監督の『侍タイムスリッパー』が最優秀作品賞に輝き(最優秀編集賞も受賞。計2冠)、最多12部門13の優秀賞に輝いた『正体』が最優秀主演男優賞(横浜流星)・最優秀助演女優賞(吉岡里帆)・監督賞(藤井道人)の3冠を達成した。

2024年の日本映画界においてトピックの一つだった『侍タイムスリッパー』は、現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてしまった幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた自主制作映画。米農家兼映画監督という異例の肩書を持つ安田淳一が私財を投げうち、脚本・撮影・照明・編集・整音・VFX・車両など10役以上を務めて作り上げた。

『侍タイムスリッパー』©2024 Samurai Time Slipper. All Rights Reserved.

同年8月に池袋シネマ・ロサの一館のみで封切られるも上映直後から熱狂的な口コミが後を絶たず、リピーターも続出。9月からはギャガが共同配給に入り、全国300館以上で拡大公開された。ロサ発の大ヒットインディーズ映画といえば上田慎一郎監督の出世作にして2019年・第42回日本アカデミー賞の優秀作品賞を受賞した『カメラを止めるな!』(17)が挙げられるが、最優秀作品賞の戴冠は異例のサプライズ。まさに歴史的快挙といえるだろう。

『侍タイムスリッパー』©2024未来映画社

2020年(第43回)には『新聞記者』、2021年(第44回)には『ミッドナイトスワン』が最優秀作品賞を受賞するなど、現象化した作品にも門戸を開いている感のある日本アカデミー賞だが、今回の受賞はそれ以上にインパクトのある結果といえそうだ。

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『正体』の藤井道人監督は、『新聞記者』での優秀監督賞に続き、本作で最優秀監督賞を初受賞。38歳での達成となり、2014年・第37回日本アカデミー賞最優秀監督賞を史上最年少(30歳)で受賞した石井裕也監督(『舟を編む』)に続く形となる。

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11月にはNetflixジャパン初の時代劇シリーズとなる大型作品「イクサガミ」の配信、今冬には撮影監督・木村大作との初タッグ作の劇場公開を控えており、次代の日本映画界をけん引する騎手として今後ますます存在感を強めていくことだろう。

その藤井監督と『全員、片思い』(16)の打ち上げの場で出会い、約10年にわたって映画・ドラマ・CM・MVといった幾多のタッグを組んできた盟友・横浜流星も最優秀主演男優賞を初受賞。

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『正体』は藤井監督&横浜にとって約4年越しで実現させた念願の企画であり、作家性に振り切った『ヴィレッジ』(23)を経て作品強度とエンターテインメント性の両立を追究。横浜は「5つの顔を持つ逃亡犯」という難役を並々ならぬ覚悟を持って演じ切り、複雑な感情表現や生々しいアクションに果敢に挑戦した。その熱意と完成度に打たれたリピーターの後押しで、約4ヶ月に及ぶロングラン興行に(横浜の主演映画としては最大のヒットを記録)。2025年2月にはNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の撮影の合間を縫って自ら舞台挨拶の登壇を買って出るなど、作品愛を胸に精力的に動き続けた。

『正体』©2024 映画「正体」製作委員会

『正体』では第49回報知映画賞主演男優賞・第79回毎日映画コンクール主演俳優賞にも輝いており、今後の出演作には「べらぼう」のほか、『片思い世界』(4月4日公開)、『国宝』(6月6日)といった話題作が控える。本人は今回の受賞スピーチでも「若輩者」「自分は芝居はうまくないですし、人間としても遊びがなく頑固でつまらない」と謙虚な姿勢を貫くが、その不断の努力と献身性は折り紙付き。名実ともに名刺となる作品を携え、さらに目が離せない輝きを放っていくことだろう。

横浜が演じる逃亡犯・鏑木が潜伏中に出会う会社員・沙耶香に扮した吉岡里帆も、最優秀助演女優賞の受賞は初となる。舞台公演中のため能登からの中継での参加となり本人も受賞を驚いている様子だったが、『正体』では作品テーマである「他者を信じる」を体現。

藤井監督をして「吉岡さんじゃなかったら悪い意味でもっと違う作品になっていた」(劇場パンフレットより)と言わしめる熱演をみせ、撮影3日目に行われた焼き鳥屋での重要シーンでは感情があふれて落涙するシーンの演技に苦労する横浜を支え続けたという(余談だが、筆者が撮影現場に同行した裁判所のシーンでは、セットチェンジの間にも現場から離れずに集中を続けていた)。吉岡は現在大ヒット中の映画『ファーストキス 1ST KISS』や現在放送中のテレビドラマ「御上先生」をはじめ、ディズニープラス「ガンニバル」シーズン2(3月19日配信)、『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』(秋公開)、『九龍ジェネリックロマンス』(夏公開)、2026年放送のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」ほか待機作が目白押しだ。

最優秀主演女優賞に輝いたのは、『あんのこと』の河合優実。本作では幼少期から母親に売春を強要され、薬物常習者になってしまった女性が“生き直す”ために奮闘する姿を熱演。企画者の國實瑞惠が入江悠監督と開発段階から河合の名を挙げており、期待を一身に背負った状態で全身全霊の演技を披露した。

『あんのこと』©2023『あんのこと』製作委員会

第77回カンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞に輝いた主演映画『ナミビアの砂漠』での好演も相まって、第79回毎日映画コンクール主演俳優賞や第67回ブルーリボン賞主演女優賞ほか、名だたる映画賞を総なめ状態。最優秀アニメーション作品賞を受賞した『ルックバック』では声優を務め、一大ブームとなったテレビドラマ「不適切にもほどがある!」でも話題をかっさらうなど、凄まじい勢いを見せている。

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2025年も『悪い夏』(3月20日公開)、『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(4月25日公開)、『ルノワール』(6月20日公開)、NHK連続テレビ小説「あんぱん」と独走し続ける24歳。その勢いは未だ衰えを知らない。

満を持して――という言葉がふさわしいのは、『キングダム 大将軍の帰還』の大沢たかお。長いキャリアを持つ彼だが、意外にも初の最優秀賞受賞となる。

©日本アカデミー賞協会

シリーズ第4弾となる本作は、タイトルの通り大沢演じる王騎将軍が陰の主役といっていいだろう。大沢は約8年にも及ぶ期間をこの役と過ごし、過酷な肉体改造で20キロ近く増量したほか、大規模なバトルシーンも己が身ひとつで具現化した。

『キングダム 大将軍の帰還』(C) 原泰久/集英社 (C) 2024映画「キングダム」製作委員会

近年は『沈黙の艦隊』シリーズで主演・プロデュースを兼任するなどより多角的な活動を展開。最新作『沈黙の艦隊 北極海大海戦』が9月26日(金)の公開を控えており、この先も映画人として八面六臂の活躍を見せてくれることだろう。なお、『キングダム 大将軍の帰還』は撮影賞・照明賞・録音賞ほか技術賞の最優秀賞も席巻し、最多となる4冠を成し遂げた。そのほか、興収50億円の大ヒットとなった『ラストマイル』の野木亜紀子が、『罪の声』(20)に続く自身二度目の最優秀脚本賞を受賞。

全体的に初受賞が目立った第48回日本アカデミー賞。2025年・第49回はどのような顔ぶれがそろうのか、予想しながら新作映画と向き合うのも一興だ。

《SYO》

物書き SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説・漫画・音楽・ゲームなどエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。並行して個人の創作活動も行う。

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