「第48回日本アカデミー賞授賞式」が3月14日(金)に開催され、『侍タイムスリッパー』が最優秀作品賞を受賞した。7部門7賞を受賞していた本作だが、最優秀賞は編集賞のみの受賞にとどまっていたこともあり、作品名が呼ばれると、驚いた安田淳一監督は主演の山口馬木也と抱き合い思わず涙を流していた。
『侍タイムスリッパー』は本作が自主映画の長編3本目となる安田監督が、私財も投げうって製作し、脚本・撮影・照明・編集・整音・VFX・車両など10役以上を務めたオリジナル作品。幕末を生きる会津藩士・高坂新左衛門が、雷に打たれ現代の京都太秦の撮影所にタイムスリップし、現代劇の斬られ役の仕事にのめり込んでいく物語。当初は1館のみでの公開が、評判を呼び、やがて全国300館以上に拡大されるなど一大旋風を巻き起こした。
監督賞でのスピーチの際、安田監督は「京都からやってきました。お米を作りながら映画も作っています。この映画は本当にキャストの皆さん、スタッフの皆さん、京都撮影所の皆さん、映画人の心意気と矜持でここまできました。8月17日に1館から始まった上映が今もなお150館程度の劇場がまだ上映してくれている幸運に感謝したいです」と多くの人への感謝を伝えていた。

さらに、最優秀作品受賞のスピーチで、安田監督は涙を浮かべながら「驚いております。最後まで物事を諦めずにやることを教えてくれた昨年死んだ父と、そして頑張っていれば誰かがどこかで見てくれているとおっしゃっていた福本清三さんにみせてあげたいです」と声を絞り出す。安田監督と二人三脚歩んできた主演を務めた山口馬木也も、「心臓が飛び出るかと思いました。この映画に何度も足を運んでくださったお客様がいます。聞いたら“映画館にキャラクターたちに会いに来る気分だ”と。こんなうれしいことはありません。この映画が与えてくれたすべてのことが、折に触れ今後自分の帰る場所になると思います。そのきっかけを与えてくれた監督、本当にありがとうございます」と涙声でスピーチした。

なお、最優秀監督賞は藤井道人(『正体』)が受賞した。藤井監督は「今日皆さまのコメントが素敵だなと、みんなが“楽しい”と言っていたことがすごく心の中に刺さりました。映画現場は楽しくないといけないし、その場を作るのは自分の責任だなと思いました。これからもインディーズスピリッツで映画を作り続けたいです」と語った。

そのほか、最優秀アニメーション作品賞は『ルックバック』が受賞。原作者・藤本タツキが「少年ジャンプ+」で公開した読み切り漫画を58分の中編として劇場アニメ化。クリエイターの喜びや葛藤を子供の感情や友情も交えて繊細に描いた物語と、巧みな作画技術により国内外で高い評価を受けた。口コミで好評が広まり、119館から拡大公開し、興行収入20.4億円の大ヒットを記録した。声優を務めた河合優実は、「声を演じる前、アニメーションが送られてきたときから本当に素晴らしい作品で、心を奪われて。こういう日を迎えられてすごくうれしく思うと同時に、“やっぱり”の気持ちもあって。関わった皆さんに敬意を表したいと思います」とコメントを寄せていた。
