6月はプライド月間。LGBTQ+の人々の“リプレゼンテーション”が年々高まっている中、配信サービスや劇場で観ることのできる映画やシリーズの中から、いま観たい作品をピックアップ。
“リプレゼンテーション”とは、映画やテレビのメディアなどにおいて、LGBTQ+(性的マイノリティ)や人種的マイノリティなども含め、社会を構成する人々の多様性が公正に描かれていること。現実には当たり前が当たり前ではなかったり、存在意義や居場所を見つけられなかったりと、まだまだアンフェアであるからこそ、リプレゼンテーションやリスペクトがうかがえる作品に注目した。
アカデミー賞最多7冠『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
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第95回アカデミー賞作品賞をはじめ主演女優賞(ミシェル・ヨー)、助演男優賞(キー・ホイ・クァン)、助演女優賞(ジェイミー・リー・カーティス)、監督賞、脚本賞、編集賞の最多7冠。A24作品最大のヒットとなった今作では、ミシェル・ヨー演じるコインランドリーの経営者エヴリンが無数に広がるマルチバースを行き来しながら、全宇宙を破壊しようとする“巨大な悪”と対峙する。
そのエヴリンが夫ウェイモンドとともにアメリカに移住して誕生した娘が、“喜び(Joy)”と名づけられたジョイで、レズビアン。エヴリンはジョイのガールフレンド、ベッキーとの交際を認めず、中国から呼び寄せた父ゴンゴンにも紹介させない。ジョイの話にも耳をかたむけようとせず、久しぶりに娘に会っても辛辣になりがちで、「だらしがない」「食事に気をつけなさい」と小言ばかり。そんなアジア系移民の母娘の諍いが、なんとマルチバースの命運を握ることになる。
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また、エヴリンと天敵のはずの国税局のディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)は、人類の手の指がソーセージになっているバースでは同棲中の恋人同士として描かれている。そんなバースがあるのなら、わだかまりもフッと消えてしまうのだ。
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なお、ジェイミーは娘がトランスジェンダーであり、獲得したオスカー像をジェンダーニュートラルな代名詞「They/Them」と呼んでいることを明かしている。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はU-NEXT(レンタル)にて配信中。9月6日(水)より4K ULTRA HD&Blu-ray&DVD発売。
¥6,952
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ロングランヒット継続中!『エゴイスト』
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「アジアのアカデミー賞」と呼ばれる第16回アジア・フィルム・アワードにて、主演男優賞(鈴木亮平)、助演男優賞(宮沢氷魚)、衣裳デザイン賞にノミネートされ、宮沢氷魚が最優秀助演男優賞を受賞。さらに香港国際映画祭、イタリアのウディネ・ファー・イースト映画祭などで上映され、アメリカのLGBTQ+をテーマとした最も歴史あるフレームライン映画祭、LGBTQ+映画を多数上映するプロビンスタウン映画祭での上映ほか、今秋には北米公開も決定している話題作。
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14歳で母を失い、故郷を飛び出して、高級ブランドを鎧のように身に纏い生きてきたファッション誌編集者・浩輔と、病気がちなシングルマザーを支えるパーソナルトレーナー・龍太の親密な恋愛と、エゴとも呼べる“愛のあり方”を描いた。ドキュメンタリーのように手持ちカメラで人物たちを傍らから追うことで、表情は見えなくても心情まで感じ取れる息づく人間たちが映し出されている。
ドリアン・ロロブリジーダをはじめ、浩輔の友人たちはいずれもゲイ当事者であり、LGBTQ+の登場人物のセリフや所作などを監修するLGBTQ+インクルーシブ・ディレクターのミヤタ廉や、性的シーンでの所作や細かい部分を監修するインティマシー・コレオグラファーのSeigoを迎えている。
「こういうサポートがあるというのは日本映画において大きな一歩」と宮沢さんも日本外国特派員協会記者会見で語るなど、ゲイカップルを演じた鈴木さん、宮沢さんが度々発するメッセージからもプライドがうかがえる1作。
『エゴイスト』はU-NEXT(レンタル)にて配信中。8月25日(金)より4K ULTRA HD&Blu-ray&DVD発売。
結婚か、破局か…
Netflixリアリティ「最後通牒 ~クィア・ラブ~」
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『エゴイスト』には、同性婚が法的に認められていないゲイ当事者がカップルで婚姻届を取りに行って書いてみた、と会話するシーンがあった。本番組には、長く交際してきたが結婚するかしないかという最後通牒を突きつけられたアメリカのクィア女性カップル5組が登場。交際は解消され、新たな恋が始まりカップルになった相手と3週間同棲した後、元恋人と3週間同棲して、最終的に結婚か、破局かを決断することになる。
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男女のカップルが参加する「最後通牒~結婚、それともさようなら?~」のクィア版スピンオフで、今シーズンの最終話では、番組での試練多き体験と最終決断をした後の近況報告を語る“再会”までが描かれ、注目を集めている。
ホストは「ゴシップガール」「ワンス・アポン・ア・タイム」の俳優ジョアンナ・ガルシア・スウィッシャーが担当。
Netflixリアリティシリーズ「最後通牒 ~クィア・ラブ~」はNetflixにて配信中。
『好きだった君へのラブレター』の妹が韓国へ
「愛を込めて、キティより」
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ヒット映画シリーズ『好きだった君へのラブレター』のスピンオフ。これまで姉のララ・ジーンをはじめ、さまざまな迷える恋を成就させてきた末っ子のキティ・ソン・コヴィー(アナ・キャスカート)が、今度は自身が遠距離恋愛をしているデイに会うため韓国・ソウルのインターナショナルスクールに転入する。
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「セックス・エデュケーション」「ハートブレイク・ハイ」「ハートストッパー」など、Netflix発の世界的ヒットとなったティーンドラマではクィアのキャラクターが主体的で、流動的な性的指向・性自認もごく当たり前に描かれてきた。今作では韓国を舞台にして、キティはカムアウトしているゲイの同級生Q(キュー)の縁結びをしたり、校長の娘で人気インフルエンサーであり、レズビアンであることを公にしていないユリと恋人デイの偽装カップルに悩まされたりしながら、自分でも思いがけない“揺らぎ”に直面していく。
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そんなキティの学校生活を彩るのは、「BTS」「SEVENTEEN」「BLACKPINK」「TWICE」「Stray Kids」「(G)I-DLE」、チョン・ソミなどのK-POPのヒットソング。国際的に活躍する韓国俳優やカメオでK-POPアイドルも出演している。
Netflixシリーズ「愛を込めて、キティより」はNetflixにて配信中。
王子たちのお受験競争だけじゃない
Netflix韓国ドラマ「シュルプ」
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世界を席巻するKコンテンツでは、キム・ヘスが架空の朝鮮王朝時代の王妃を熱演した韓国時代劇「シュルプ」にも着目。キム・ヘス演じる王妃イム・ファリョンは王座を巡ってライバルがひしめく宮廷で、王の母である大妃の策略や側室たちの牽制にも屈することなく、子どもたちの内の1人を次の王にするために奮闘する。
実はその1人、ケソン大君は性別違和を抱えていた。ときどき姿を消しては自分に正直になる時間を持つケソン大君だが、その秘密を利用して母子の失脚を目論む者が現れる。
タイトルの「シュルプ」とは朝鮮古語で「傘」のこと。子どもたちを貶め尊厳を傷つけようとする者を、王妃ファリョンの「傘」は絶対に寄せつけない。悲劇の主人公にもさせない。現代社会を揶揄するような宮廷での受験競争や権力闘争、そして社会的弱者差別に、ファリョンは着物をたくし上げて全力疾走で立ち向かう。
Netflixシリーズ「シュルプ」はNetflixにて配信中。
フィンランドから届いた新時代の青春映画
『ガール・ピクチャー』
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韓国映画『はちどり』でも描写された、思春期の主人公の性的指向の揺らぎ。一方、フィンランドのZ世代を描いた『ガール・ピクチャー』には、“普通”に恋愛してみたいのに「男の人と一緒にいても何も感じない。私はみんなと違う」と悩み、男子といい雰囲気になる度にドン引かれて落ち込むロンコが登場する。
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また、再婚した母親への複雑な感情を抱え、怒りを抑えることができない自分自身にもイラつくミンミは、大好きだったはずのスケートから離れたくなったエマと運命的な恋に落ちる。だが、ふとしたきっかけから破壊衝動が現れてしまい…。
監督のアッリ・ハーパサロが、「今の時代を生きる女の子たちへのリスペクトであり、応援歌」と表現している本作。お互いを称え合い、鼓舞し合う“女の子”たちの痛みと輝きを感じてみてほしい。
『ガール・ピクチャー』は全国にて順次公開中。
このほかにも、前作『モロッコ、彼女たちの朝』で2人の女性の連帯と希望を描いたマリヤム・トゥザニ監督の最新作『青いカフタンの仕立て屋』(6月16日公開)は、伝統衣装を手縫いで績ぐ仕事と本来の自分の狭間で苦悩する夫とその妻、若い職人の姿を描いている。第75回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞した。
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さらに、少年2人の繊細な親密さに無自覚な悪意ともいえるレッテルが貼られることで、2人が運命を違えることになるフランス映画『CLOSE/クロース』が7月14日(金)より公開される。
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同作と是枝裕和監督の『怪物』(公開中)には、揺らぐ少年たちの葛藤や周囲の視線などクィア映画として驚くほどの相似点がある。
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昨年、カンヌ国際映画祭グランプリを獲得したルーカス・ドン監督による今作があったからこそ、『怪物』が今年の第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞に選ばれたのかもしれない。
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この『CLOSE/クロース』や『ガール・ピクチャー』『青いカフタンの仕立て屋』が、いずれもアカデミー賞国際長編映画賞の各国の代表作品となっているのは偶然ではないはずだ。
そして、『CLOSE/クロース』の全米配給や『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『ムーンライト』などで知られる気鋭の映画会社A24が手がけた『インスペクション ここで生きる』(8月4日公開)も控えている。親に捨てられ社会からも除外され、“透明だと思っていた”自分を癒すために映画を撮ろうとした新鋭監督エレガンス・ブラットンが自身の半生を映画化、新たな傑作となりそうだ。
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