1960年代にアメリカを震撼させたボストン絞殺魔に迫る2人の女性新聞記者を描いたオリジナル映画『ボストン・キラー:消えた絞殺魔』が、Disney+(ディズニープラス)の「スター」にて配信中。2度のアカデミー賞ノミネート経験を誇るキーラ・ナイトレイと「FARGO/ファーゴ」シーズン3でエミー賞にノミネートされたキャリー・クーンが、コンビを組む実在の新聞記者を演じている。
当時の女性たちの脅威となった事件の糸口を2人の新聞記者がたぐり寄せるクライム・サスペンスであり、いわゆる“良妻賢母”が求められた時代に性差別と闘ったシスターフッドの物語でもあり、警察や司法など権威の傲慢さにも鋭く斬り込んだ、いま見逃せない作品となっている。
ディズニープラスで『ボストン・キラー:消えた絞殺魔』を視聴する
悪名高いボストン絞殺魔を新たな視点で描く
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1962年から1964年にかけ、ボストンを中心に起きた女性を狙った連続絞殺事件。最初はひとり暮らしの年配女性をターゲットに「家主の依頼で来た」と配管工やペンキ職人を装って白昼堂々、残忍な性暴行と絞殺におよび、合計で13人もの女性たちが犠牲となった。
かつては、ジェイミー・リー・カーティスの父であるトニー・カーティス(絞殺魔役)とジェーン・フォンダの父であるヘンリー・フォンダ(検事役)が共演した『絞殺魔』(68)でも描かれ、10年ほど前にはボストン出身のケイシー・アフレック主演で映画化の構想もあったようだ(おそらく立ち消えになった)。
それが今作では、被害者の女性たちや犯行手口にいち早く共通点を見つけ、世に知らしめた新聞記者のロレッタ・マクラフリン(キーラ)とジーン・コール(キャリー)の視点から事件が紡ぎ直されていく。
製作は『最後の決闘裁判』『ハウス・オブ・グッチ』のリドリー・スコット監督のScott Free Productionと、マーゴット・ロビーが夫トム・アッカーリーらと設立したLuckyChap Entertainment。今回マーゴットの参加はないものの、アッカリーと同社のアカデミー賞脚本賞受賞作『プロミシング・ヤング・ウーマン』を手がけたジョシー・マクナマラがプロデューサーとして参加している。
1961年に創刊された「ボストン・レコード・アメリカン」社で、ロレッタが担当していたのは主婦向けの生活欄。新商品のトースターのレビューがとりあえずの仕事だったが、日頃から凶悪事件に関心を持つ彼女は新聞記事のスクラップを欠かさなかった。
あるとき、普通に生活を送っていた女性が突然、凄惨で許しがたい暴力に晒され命を落とす事件が立て続けに起きる。切り抜いていた記事からボストン警察も把握していない共通点に気づいたロレッタは、上司のジャック(クリス・クーパー)に記事を書かせてほしいと願い出て、やがて彼女独自の調べで“連続絞殺事件”であることをつかむ。
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『スポットライト 世紀のスクープ』に登場したボストン・グローブ紙ほどの大手でもない、この小さな新聞のスクープは世間を大きく揺るがした。ボストン警察の本部長(ビル・キャンプ)からは抗議も来た。その言い草がまた酷いもので、ロレッタは現場の状況を知る警官に新聞記者であることを名乗った上で話を聞いたにも関わらず、「バーでたぶらかされた」と言い放つ。しかも、警察は一連の事件に関連性はない、というのだ。
だが、連続絞殺事件は終わらない。ロレッタ1人では“力不足”と判断した「レコード・アメリカン」社の上層部は犯罪報道に経験豊富なジーンと彼女を組ませ、2人は連続殺人犯を「ボストン絞殺魔」(Boston Strangler)と名づけて事件の真相に迫っていく。
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こうした彼女たちの活躍はやがて、あらゆる点で歪みを浮き彫りにしていった。ロレッタの子どもたちのシッターをしている夫の妹は多忙になった彼女を非難し、当初は「お手柄」と称えた夫も自身の仕事に影響しそうになると手のひらを返した。
また、「レコード・アメリカン」社は“新聞を売る”ためにロレッタとジーンの顔写真を紙面に載せた。それぞれに家庭があり、ロレッタは3人、ジーンは2人の子をもつ母親であるというのに、署名入り記事の見出しにされるのは「ガールズ」という言葉…。犯罪現場を取材する2人の姿までも紙面に使用され、さらに情報共有や重大な証言を軽視する警察の無能さを指摘する記事を書くと、身の危険を感じるほどの脅迫が待ち受けていた。
これが男性記者ならば、事件現場や警察で訝しげな視線を送られることも、わざわざ顔写真や取材風景を掲載することもなかったはず。60年代に先駆者だった彼女たちが経験した偏見や差別は、例えば“美しすぎる○○”(警官だったり、議員だったり)と女性たちを表現する思考と何ら変わりない。
キーラ・ナイトレイ×キャリー・クーンの
凛とした姿勢に注目
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ロレッタ・マクラフリンを演じたキーラは、「この映画は、女性調査報道ジャーナリストへのラブソング」とインタビューで語っている。「この事件は、男性の権力者たちによってほとんど無視されてきたものでした。そして、その重要性を理解し、ボストンに住む他の女性たちを守るために、それを暴くために戦う2人の女性が必要だったのです」とキーラ。
「だから、この2人の素晴らしい記者にスポットを当てることは、とても名誉なことだと思いました。なぜなら、私は間違いなく、2人の名前を聞いたことがなかったから。この物語を伝えることができるのは、とても幸運なことだと感じました」と誇りを持って話す。
『彼女たちの革命前夜』でミス・ワールド世界大会に抗議する女性解放活動家を演じたことも記憶に新しく、俳優業とチャリティーへの貢献で大英帝国勲章(OBE)を受章した“働く母親”の1人でもあるキーラに、子どもたちを愛しながら信念を貫くことを諦めない、不屈の母でありジャーナリストであるロレッタはハマり役となった。
また、自身のノウハウをロレッタに伝授することを惜しまないジーン・コール役のキャリーは、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、海外ドラマ「LEFTOVERS/残された世界」などでも知られる。
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彼女の落ち着いた演技には、キャリーの言う「あらゆる場面で過小評価された」先人としての葛藤や苦悩が凝縮されているかのよう。「この映画を観た多くの女性が、男性優位の業界で軽視されながら、仕事と生活のバランスを取ろうとする彼女たちの状況に共感すると思います」とキャリーはコメントする。
そして監督・脚本を手がけ、『ゾディアック』を思わせる緊迫感を保ちつつボストン絞殺魔事件に新たな見解をもたらしたのは、実際の冤罪事件を当事者と友人たちの目線から描いた『無実の投獄』(2017)のマット・ラスキン。キャリーが「ハリウッドレポーター」に語ったところによれば、ラスキン監督は「モラルを持った映画制作者でフェミニスト」。ジーンの娘と知り合いで、彼女の家族との対話を含めた膨大な調査資料をもとに今作の脚本を執筆したことから2人とも厚い信頼を寄せていたそうだ。キーラが演じたロレッタの息子と孫も撮影現場を訪れていたという。
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最近では『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』でも女性記者2人が主人公になったばかりだが、ロレッタが女性の未来を守るために命がけで書いた新聞記事を娘が切り抜いていたシーンが差し込まれているのは、そんな背景があったからこそだろう。
『ボストン・キラー:消えた絞殺魔』はディズニープラスのスターにて配信中。
ディズニープラスで『ボストン・キラー:消えた絞殺魔』を視聴する
<提供:ウォルト・ディズニー・ジャパン>