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シネマカフェライターが選ぶ2022年の映画No.1をご紹介します。
人間食べ食べカエル:『20世紀のキミ』
ネトフリで何気なく観たら、あまりの眩しさに完全ノックアウトされた作品です。90年代の学園生活。4人の少年少女が織り成す恋模様。その淡いこと甘いこと!!それを気を衒わず、真っ直ぐドストレートで投げ込む。球速200kmくらいの威力があります。全体的に少年漫画系のラブコメなノリなのも良い。修学旅行編もちゃんとありますからね。そこでちょっとしたハプニングがあって、恋心に気付いたりなんかしちゃったりしちゃって!!あまりにも自分の人生に無さすぎて、気が狂いそうになりました。途中からずっと泣きながら観てました。
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黒豆直樹:『私ときどきレッサーパンダ』
短編『Bao』で小籠包を主人公に“母親”を描いたドミー・シーが、初の長編監督作で今度は過干渉な母親を持つ思春期の少女の心をまさかレッサーパンダを通じて描くとは…! 子どもと一緒に笑いながら楽しみつつ「どっちの気持ちもわかるわぁ…」としみじみ。劇中のボーイズグループ「4★TOWN」がダサカッコよくて面白い(ビリー・アイリッシュ&フィニアスによる劇中歌も好き)。母親のツッコミ(「なんなの、このヒップホッパー」「どうして5人いるのに4★TOWN?」)最高!
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赤山恭子:『冬薔薇』
伊藤健太郎さん、久々の主演作。しかも、阪本順治監督のオリジナル作品で。気が小さく行き当たりばったりでどうしようもない、周囲に甘えまくる主人公のどんづまりを健太郎さんが、大きな体をときに小さく縮めながら体現。ラストにかけて、うつろいゆく弱い人間の在りように胸が痛み、そんなやるせなさを丁寧に演じていて、スクリーンから目が離せなかった。一皮むけた彼の次なる作品がとにかく楽しみ。
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上原礼子:『NOPE/ノープ』
青々とした高い空に浮かぶ動かない雲、乾いて茶色に広がる山と大地、あのUAP(未確認空中現象)の影。何度「ホイテマ!」と撮影監督の名を心の中で叫んだことか。劇場体験として、池袋のIMAXレイザーでの鑑賞は大正解(IMAX再映求む!)。ハリウッドの内幕ものとしても面白く恐ろしく、アジア人元子役とチンパンジー、もはやUAPそのものが直視してはいけないエンタメによる搾取や暴力のメタファー? そんな勘ぐりをキキ・パーマーが“金田バイク”で蹴散らします。脇に追いやられ、存在しない者とされてきた人々へのジョーダン・ピール流の賛歌でもありました。
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キャサリン:『ナワリヌイ』
アカデミー賞受賞作『イカロス』に匹敵する珠玉のドキュメンタリー。プーチン大統領最大の敵である大統領候補アレクセイ・ナワリヌイの毒殺未遂を誰がどうやって実行したのか、その裏側が明らかになる決定的瞬間を捉えた映像は言葉を失う。事実は小説より奇なりとはまさにこのこと。不謹慎にも「マジかよ…」と少し笑ってしてしまうレベルの衝撃展開をCNNは良くぞ追っていたなと拍手を送りたい。日本に住む我々にとっても対岸の火事ではないことも観ていて痛感する必見の作品だ。
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内田涼:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
常に最先端の映像技術を追求するストイックな姿勢はもちろん、『エイリアン2』『ターミネーター2』で発揮された“前作を超越するパワー”、『タイタニック』『アリータ:バトル・エンジェル』で描かれた「ロミオとジュリエット」的純愛、そして長年にわたる海洋調査の経験から得た知見。ジェームズ・キャメロン監督が、それらすべてを3時間12分のドラマに注ぎ込んだ、文字通りの集大成にして金字塔。ちなみに先日来日した監督に「オススメの鑑賞フォーマットは?」と聞いたら、「ドルビービジョン、IMAX レーザーだね」とのことでした。ご参考までに。
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牧口じゅん:『ザ・メニュー』
悪趣味と言えばそうだし、グロテスクといえばその通り。でも、創作しすぎた料理を食した後にもやもやを抱えがちな私にとって、痛快の極みとも言える作品。現代社会に新しいスタイルで斬り込んだ、傑作風刺映画です。レイフ・ファインズ演じるシェフの狂気と、彼を崇めるスタッフたちの不気味さ、ア二ャ・テーラー=ジョイ演じる場違いな女の空気を読まない強さ、個性派俳優が魅せた都会人のズレ感など、すべてが見事なマリアージュに。ラストに訪れるとんでもないサプライズを含め、刺激強めな表現が満載ですが、現代人(自分も含め)がいかに滑稽であるかを、ここまでスタイリッシュに見せられてしまうと、もう脱帽なのです。
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冨永由紀:『ケイコ 目を澄ませて』
『ロッキー』でも『ミリオンダラー・ベイビー』でもない、ボクサーのケイコの物語。こちらも目を澄ませたら、音が見えてくるようだ。でも、簡単にケイコのことをわかった気にはさせない三宅唱監督のセンスと、とにかく岸井ゆきのが素晴らしすぎて。スクリーン上の彼女を追ううちに、自分自身が映画の中に溶けていった感覚はこれが初めての経験だ。耳に聞こえる音の1つ1つが沁みわたり、粒子の荒い16ミリフィルムが映す世界はやわらかく、どこかおとぎ話のようでいて、ケイコの周囲の小さな物語は確実に私たちが生きる今をとらえている。
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渡邉ひかる:『声もなく』
青年の運ぶ死体の血が1滴だけ地面にポトッと落ち、その血の丸いしみを花の中央部に見立て、少女がマーガレットのようなお花を描く。彼らが自転車で二人乗りする姿を、赤よりも温かく柔らかいピンクの夕焼けが包む。社会の根底に生きる青年と家族に見放された少女の疑似家族ドラマはとことん過酷だが、どこかほのぼのとしていて優しい。韓国一の名優なのではないかと思わされるユ・アインの熱演も、可愛らしい美術、小物、衣装に皮肉と願いを込めたホン・ウィジョン監督のセンスもまるごと愛おしく、と同時に本年度最も心をえぐり取られた。
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鴇田崇:『ナイル殺人事件』
アガサ・クリスティ原作の物語はもちろんのこと、本作は密室殺人の舞台となった超巨大な豪華客船“カルナック号”も大いに見ものでした。全長約72メートル、総重量225トンという圧巻の規模で建造され、実際に船として機能するという同船は、ガル・ガドットたちキャストも驚く超ゴージャスな内装も誇り、極上のミステリーを豪華に演出。愛憎渦巻く危険な香りが漂う殺人クルーズへと、我々を一気に誘ってくれました。コロナ禍で海外渡航が今よりも大変だった時期、2月の公開(&航海)ということもあり、その意味でも2022年、印象に残った一作と言えましょう。
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新田理恵:『わたしは最悪。』
今年一番「痛っ」と思った作品がこれ。いつか自分にふさわしい何か(それは人であったり仕事であったり)が現れると根拠もなく考えていて、何事も成せず、何者にもなれないまま、悶々と年を重ねる主人公がとてもリアルでした。あとから振り返れば、そんな時期も、それはそれで楽しいもの。効率化、近道、コスパやタイパのよさが求められがちな世の中で、寄り道や回り道をするのもいいと思わせてくれる映画です。「自分ブレまくってるな」と思う時に見ると妙に安心できそう。オスロの風景にも旅に出たい欲を刺激されました。
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編集部:『カモン カモン』
マイク・ミルズが監督・脚本を担当し、『20センチュリー・ウーマン』続く2度目のタッグとなる「A24」が製作を行っている本作。モノクロ映像が美しいのと、音楽・環境音も心地が良い。随所に出てくる子供たちへのインタビューはセリフではなく本物の子供たちの声なので、ドキュメンタリー映画を観ているような感覚にもなります。なんといってもホアキン・フェニックスとウディ・ノーマンの演技が素晴らしい! 時にはぶつかり合い、歩み寄ろうとする2人をずっと見ていたかった。2022年一番愛おしい作品でした。
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