『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのカレン・ギラン、「ゲーム・オブ・スローンズ」のレナ・ヘディ、『ナイト ミュージアム』のカーラ・グギーノ、『ブラックパンサー』のアンジェラ・バセット、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のミシェル・ヨー。錚々たる女優たちが顔を揃え、あのタランティーノ監督も絶賛した注目の気鋭監督ナヴォット・パプシャドが作り上げた『ガンパウダー・ミルクシェイク』。
主人公の殺し屋と少女が悪の組織に追われ、容赦のない銃撃戦を繰り広げるハードボイルド・アクションながら、まるでチェリーがのったふわふわのミルクシェイクのような甘さとキュートさ(そして少しのほろ苦さも)をまぶした女性たちの連帯と共闘のドラマが描かれている。
可愛さとド派手なアクションの共存に心躍る
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舞台となるのは、ネオンきらめく架空のクライム・シティ。“会社”(ファーム)と呼ばれる暗殺組織に雇われている腕利きの殺し屋サム(カレン・ギラン)は、ある仕事がきっかけとなり少女エミリー(クロエ・コールマン)を匿うことに。ピンチの彼女が向かったのは、3人の女性殺し屋たちが“司書”を務める図書館。実はその図書館は武器庫になっており、ジェーン・オースティンやヴァージニア・ウルフ、シャーロット・ブロンテといった作家たちの名作小説の中に秘かに銃や武器が収められ、彼女たちはそれを必要とする者のために貸し出しや交換を行っていたーー。
最近ではジェシカ・チャステイン製作・主演『355』、これまでも『チャーリーズ・エンジェル』から『アトミック・ブロンド』まで、女性たちが縦横無尽にアクションを披露する映画はいくつも登場してきたが、本作では女性殺し屋たちがショットガンをぶん回し、二丁拳銃で飛びかかり、マシンガンを乱れ打ちするため、至るところで血しぶきが舞い飛ぶ! スローモーションで魅せる接近戦や駐車場でのカーチェイスも手加減なし、野暮な色仕掛けも一切なし。ここまでハードボイルドに振りきった“女性たちが主人公”の映画であることに心が躍る。
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それだけじゃない。50年代のアメリカにタイムスリップしたようなポップなダイナーや『ドライヴ』を想起させるピンクや紫のネオンが配されたボーリング場のクールさの一方、エミリーの物と思しきパンダのキャリーケースが『ジョン・ウィック』ばりに重用され、サムは子虎のイラストが配されたオレンジのスカジャン姿で暴れ回る。
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瀟洒な図書館の建物にはスパイ映画の本場ヨーロッパの香りが漂い、その中での一大アクションシーンは女性ロックシンガーの元祖、ジャニス・ジョプリンの歌声がBGMに。まさにジャンル映画ファンをくすぐるテイストがごちゃ混ぜにホイップされた本作は、“ミルクシェイク”と“硝煙(ガンパウダー)”が斬新な共存を果たしている。
世代を超えた女性たちの連帯が熱い!
『レオン』で殺し屋レオンがマチルダに語ったように、「女と子ども」はハードボイルド・アクションにおいては「出る幕ではない」と活躍の機会さえ与えられなかった。むしろ犠牲者として利用されてきたのだ。ところが本作で大暴れするのは、1組の機能不全な母娘と、図書館司書である3人の守護者、さらに8歳9か月の少女だ。
母と同じ殺し屋になったサムを演じるカレン・ギレンは、180cmの長身とリーチの長さを生かしたダイナミックなアクションで男たちを次々になぎ倒していく。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ジュマンジ』シリーズに出演してきた彼女は絶妙なユーモアセンスも持ち合わせ、15年前に姿を消した母を恨みながら“ミルクシェイクは(ママと)一緒に飲みたい!”という複雑な心情をその佇まいに宿らせる。
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サムの母・スカーレット役は「ゲーム・オブ・スローンズ」で哀しき悪役に徹してきたレナ・ヘディだ。再会した娘と共闘する姿に、彼女はドラマ「ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ」では伝説的なアクションアイコン、サラ・コナーであったことを思い出す。
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さらに、男たちと闘う武器の宝庫になる図書館を護る3人の司書は、まるで『眠れる森の美女』の3妖精のようにキャラ分けされ、アンジェラ・バセット、カーラ・グギーノ、ミシェル・ヨーというキャスティングが心憎い。冷徹なまでに理知的なアナ・メイ役のアンジェラはブラック・パンサーの“母”としてお馴染み、『スパイキッズ』や『ウォッチメン』などにも出演してきたカーラは慈愛に溢れたマデリン役で、図書館は人生に迷ったときの助けとなる知の宝庫であることを伝えてくれる。
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ナイフのような鋭い直感を持つフローレンス役のミシェルは、もともとは80~90年代の香港アクション映画で活躍してきたアジア系のレジェンドだ。思わず両拳を上げたくなる見せ場がしっかりと用意されている。また、サムが自分自身を重ねるエミリー役のクロエ・コールマンは、ジェームズ・キャメロン監督『Avatar2』(原題)に抜擢されただけあり、か弱く無邪気な子どもではなく、本当に対決すべきは誰なのかを心得たキャラクターを存在感たっぷりに演じている。
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『キル・ビル』や香港映画…映画好き必見のオマージュも見どころ
冒頭、“仕事場”に現れる黒のマキシ丈コート+ツバ広ハットを被ったサムの姿は、タランティーノ監督がファンを公言する『女囚さそり』シリーズの“復讐者”梶芽衣子にインスピレーションを受けたに違いない。やがて、サムはエミリーを救うため、闇に紛れるようなコートを脱ぎ捨てる。そして選んだのが、眩しいほどの原色オレンジのスカジャンだ。男たちに囲まれてもまるで揺るがないその姿は、黄色ジャージで暴れまくった『キル・ビル』のユマ・サーマンにも重なる。
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ミシェル・ヨーの存在や二丁拳銃、スローモーションの多用などにはジョン・ウー監督をはじめとする香港ノワールの影響も色濃いが、サムは決して孤独な一匹狼ではない。エミリーも加わった“女と子ども”だけの戦いがここにはある。
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『キル・ビル』といえば、製作した「ミラマックス」の設立者は#MeTooで告発され、有罪判決を受けたハーヴェイ・ワインスタインだ。また、サムを捨て駒として葬ろうとする“会社”(ファーム)で直接手は下さず、安全な場所から高みの見物をする初老男性の理事たちの姿はあの「イカゲーム」が頭をよぎる。サムたちに理解を示そうと、口先だけフェミニストぶる者も現れる。いずれも「自分たちは無敵で、何をしても逃げ果せると思っている」者ばかり。懐かしさも感じさせるレトロキュートな要素に隠れた、こうした“いま”に向けたメッセージにも注目してほしい。
『ガンパウダー・ミルクシェイク』は3月18日(金)より全国にて公開。
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