シットコムとはシチュエーションコメディの略。家庭や職場など舞台は限定的で、毎回、同じ顔ぶれのキャスト陣が巻き込まれる様々な状況を描いていくタイプのコメディドラマは、ほぼ30分未満で1話完結。前情報を多く必要としなくても楽しめる気軽さが何といっても魅力。
日本では「24」や「CSI」シリーズなどのクライムドラマの人気が高く、「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ウォーキング・デッド」「ブレイキング・バッド」といった壮大なスケール感や見応えあるシリアスなストーリーのドラマの影に隠れてしまいがちだったものの、こんな状況のいまだからこそ、シットコムに改めて注目。ウィットに富んだテンポのいい会話に、見れば見るほど愛着の増す登場人物たち。その中には大ブレイクを果たした人たちも! 気鋭のクリエイターやキャストたちが時代を映しつつ、ときには先取りしつつ作り出してきたシットコムをピックアップした。
とにかく笑って癒されたいなら
「ブルックリン・ナイン-ナイン」
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ニューヨーク市警、架空の99分署を舞台に、愛さずにはいられない個性豊かな刑事たちが織りなす脱力系の警察コメディ。2013年にFOXにて始まり2018年5月にシーズン5で一度打ち切りが決定するも、ファンの大きな後押しにより、そのわずか31時間後にNBCが引き取ったという逸話がある愛されドラマ。アメリカでは2020年4月にシーズン7の放送を終え、シーズン8の制作も決定済み。
主人公は、頭は切れるもかなり抜けているジェイク・ペラルタ。彼が大好きな『ダイ・ハード』は劇中でよくネタにされている。演じるのは、「サタデー・ナイト・ライブ」出身で最新映画『パーム・スプリングス』が春に公開予定のアンディ・サムバーグで、プロデューサーも兼任。
そのほか、四半世紀前にゲイを公表している堅物署長のホルト(アンドレ・ブラウアー)やジェフォーズ巡査部長(テリー・クルーズ)といったアフリカ系キャストは存在感たっぷり、謎多くタフなローザ(ステファニー・ベアトリス)にはバイセクシャルを家族にカミングアウトするエピソードも。レギュラーは降板したものの、99分署には欠かせないジーナ役チェルシー・ペレッティは『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピール監督と駆け落ち婚したことでも知られる。
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そんな彼らは何気に固い友情で結ばれていて、署内はアットホームで温かく、毎回事件のみならず個々が抱える悩みさえも解決してしまう。ニューヨーカーの英語のテンポも馴染めば耳心地よく、吹き替え版でもその勢いを保持している。
ローザのヘアスタイル七変化はどれが好き?
仕事や上司のことでイライラしたら
「The Office/ジ・オフィス」
シットコムといえば、「フレンズ」や「フルハウス」など観客の笑い声(“ラフ・トラック”と呼ばれる)が入った作品を思い浮かべる人も多いのでは? 本シリーズにはそういった演出はなく、製紙会社で働く社員たちの日常をドキュメンタリーとしてカメラに収めていく、いわゆる“モキュメンタリー”の手法がとられて人気を博した。9シーズン(2005~2013年)がNBCにて放送されたが、いま改めて注目を浴びている。
BBC制作の同名ドラマのリメイクで、『怪盗グルー』シリーズや『リトル・ミス・サンシャイン』などで知られ、『フォックスキャッチャー』ではシリアスな演技でアカデミー賞にノミネートされたスティーヴ・カレルが主演。彼が演じる上司マイケル・スコットが、もはや勘違いや“KY”では片付けられないほど、ミソジニーで差別的な言動を繰り返す“アウトな上司”の典型のようなキャラクターなのだ。
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また、『クワイエット・プレイス』製作・監督のジョン・クラシンスキーの若き日の姿もあり、『オーシャンズ8』出演や「私の“初めて”日記」のクリエイターであるミンディ・カリングはケリー役を演じるほか脚本家としても参加。「NYガールズ・ダイアリー 大胆不敵な私たち」のカッコいい上司の代表格ジャクリーン役のメロラ・ハーディンも出演している。
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どうしようもない孤独を感じたときには
「コミ・カレ!!」
舞台となるのは架空のコミュニティ・カレッジ、グリーンデール。学費が安く、誰にでも門戸が開かれたコミュニティ・カレッジには年齢も、境遇も、人種も異なる学生たちが集まっている。人気アニメ「リック・アンド・モーティ」のダン・ハーモンが自身の体験を基に手がけており、製作総指揮には『アベンジャーズ』シリーズのアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟も。2009年からNBCで放送されて人気を誇ったが、シーズン5で打ち切りの危機から米Yahoo Screenでの配信にて復活、シーズン6(2015)まで制作された。
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中心となるキャラクターは、“グリーンデール・セブン”を名乗る7人。学歴詐称の弁護士で、自己愛が強く裕福な白人男性のジェフ(ジョエル・マクへイル)を中心に、高校を中退した活動家のブリッタ(ジリアン・ジェイコブス)や、離婚して2人の子どもを育てるシャリー(イベット・ニコール・ブラウン)、ドラッグ依存症になったアニー(アリソン・ブリー)ら濃すぎる登場人物たちが関わってくる。
とりわけ、映画やドラマにめちゃくちゃ詳しいが人間関係の構築に難を抱えているパキスタン=ポーランド系のアベッド(ダニー・プディ)と、いまだ高校アメフトのスター選手だった栄光を捨てきれないトロイの友情は大きな牽引力に。
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このトロイを演じたのが、ドラマ「アトランタ」や実写版『ライオン・キング』ほか、『スター・ウォーズ』の世界では若きランド・カルリジアンとして知られ、「This is America」の“チャイルディッシュ・ガンビーノ”でもあるドナルド・グローヴァー。劇中にはラップを披露するシーンも多い。
当時としては画期的で、コメディの中に絶妙な形で現実社会を盛り込んできた本作だが、シーズン2にはいわゆるブラックフェイス問題でNetflixの配信から取り下げられたエピソードがある。攻めすぎてしまったゆえなのか、英語のセリフではハッキリと「それはヘイトクライム」と表現されている。
ユニークでゆる~い世界に浸りたいなら
「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」
「ワハハ」と観客の笑い声“ラフ・トラック”が入る往年のスタイルで高視聴率を獲得し、エミー賞&ゴールデン・グローブ賞などを受賞した大人気コメディ。2019年にファイナルのシーズン12を迎えた(最終シーズンは日本未配信)。
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主役となるのは、カリフォルニア工科大の物理学者で2人合わせて“IQ360”のルームメイト、シェルドン(ジム・パーソンズ)とレナード(ジョニー・ガレッキ)。さらに、ゲーム仲間のハワード(サイモン・ヘルバーグ)、ラージ(クナル・ネイヤー)という4人の天才オタク=ギークたち。
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ここに、レナードがひと目ぼれしたペニー(ケイリー・クオコ)や、エイミー(メイム・ビアリク)、バーナデッド(メリッサ・ローチ)といったパートナーたちも加わり、それぞれのロマンスがゆるいオタクトークともに展開。シーズンを重ねるほど彼らの関係性は深まり、自分たちだけが心地よい世界で生きてきた彼らの“宇宙”はいっそう拡がって賑やかになっていく。メイム・ビアリクが実際に神経科学の博士号を持っている点もユニークだ。
▼スピンオフ「ヤング・シェルドン」も登場した。
彼らの会話が小難しくなっても笑っていられるのは彼らの個性の化学反応と、“ラフ・トラック”の相乗効果かも。スティーヴン・ホーキング博士や、ビル・ゲイツ、『スター・ウォーズ』のキャリー・フィッシャー、ジェームズ・アール・ジョーンズ、そしてマーク・ハミルといった豪華ゲスト出演者も見逃せない。
青春のイタさを思い出したら
「デリーガールズ~アイルランド青春物語~」
シットコムといえばアメリカ、というイメージが強いが、北アイルランド・ロンドンデリーを舞台にした本作もぜひ推したい。北アイルランド紛争の最中、テロが激化する90年代という舞台にしながら、カトリック女学校に通う5人の高校生(1人は男子)が自分たちなりに青春を謳歌しようする姿は共感必至。女性クリエイター、リサ・マッギーの実体験が反映されているという。
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“あの頃”って、周囲で大事件が起きていても(通学路で爆弾が見つかったり…)、自分たちは日常の悩みごとやトラブルの対処で精いっぱい。傍目には些細なことかもしれなくても“世界の終わり”だとアタフタする。そんな微笑ましいまでの彼女たちはアメリカのティーンドラマの華やかさとはほど遠く、周囲の大人たちのイケてなさも含めて親近感を持たずにはいられず、アイルランド訛りもクセになりそう。
アイルランド国籍を持つシアーシャ・ローナンがファンを公言しており、チャリティ「RTE's Comic Relief」でメインキャスト陣と共演したことも。デリーでは彼女たちの壁画が登場するほど大人気となっており、クレア役のニコラ・コクランはNetflixで大ヒット中の「ブリジャートン家」にも抜擢されている。
また、主人公エリン(シアーシャ=モニカ・ジャクソン)の部屋にはアイルランド出身のシネイド・オコナーのポスターがあり、同人気バンド「クランベリーズ」の「Dreams」が主題歌のように起用されるなど、90年代のヒットソングやカルチャーも要チェック。