リウ・イーフェイ演じる実写のムーランは、もともと武術に長け、戦士としてのポテンシャルもやる気も十分。にもかかわらず、“女性であること”のみが彼女を押さえつけている。思わぬ状況に飛び込んだことで自覚を強めていくアニメーション版ムーランに対し、実写版ムーランはただただ自分を生かせる場所を模索。性別に関係なく、1人の人間として。ムーランの掲げる理想と葛藤が問い掛けてくるものはいまだ大きい。
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出世作『クジラの島の少女』を挙げるまでもなく、ニキ・カーロ監督はこれまでも女性主人公に寄り添ってきた。「この物語で私が惹かれたのは、ムーラン自身」と監督自ら語っているように、私たちは絶対的にチャーミングで、壮大な戦いの物語をリードするのにふさわしいムーランに出会える。その分、ムーラン以外の登場人物たちの描写はややあっさりしているが、コン・リー、ドニー・イェンら存在感たっぷりのスター俳優たちに役を託すことで補完。バランスも調整できている。
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実写ならではの魅力として優美なアクションやスペクタクル映像は言うに及ばないが、とりわけ目を見張ったのは色とりどりの衣装。市井の人々の日常着から、こっくりした赤が印象深い戦闘服まで。キッチュな遊び心あり、伝統的な美しさあり、アニメーション版への敬意ありで目に楽しい。『ボルベール <帰郷>』や『オール・アバウト・マイ・マザー』など、ペドロ・アルモドバル作品でも腕を振るった経験を持つ衣装デザイナー、ビナ・ダイヘレルがいい仕事をしている。
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