もう少しだけ自分のことを愛してあげよう
――日本では風邪予防だけではなく、自分に自信がないという理由で夏でもマスクをつけている人もいます。顔を隠すこと、自分に自信がないと言うことに対して、メッセージがあれば教えて下さい。
ジョナサン:心地いい場所、つまりぬるま湯に浸かったままだと人間は成長しない。だからもし医学的な理由ではなく、落ち着いくという安心感が理由で毎日マスクをつけているのだとしたら、まず「何を一体そんなに怖がっているの?」「何から隠れているの?」と自分に聞いてみて、例えば試しに火曜日と木曜日だけはマスクを外してみる、というのはどうかな。いきなり毎日外すのは難しいと思うから、例えば「1日おきに外してみる」とか、ちょっとずつ試してみるところから始めてみたらいいと思う。そして自分に聞いてみるの。「なんでマスクをした方が落ち着くんだろう」って。こういうのも(手で顔の下半分を覆う)確かにお洒落だけど、それが本来の自分を隠すものだったとしたら何か対策を考えないとだね。

カラモ:僕からも言わせて貰うと、今回日本の依頼人たちと接して気づいたのは、彼らの多くが人には見せたくない部分を抱えていることだった。それは傷ついたことが発端だったりする。誰かから自分のことを変だとか醜いと言われたりして。その傷が今度は恥に変わって、自分もそうだと思い込んでしまう。今回日本の依頼人たちで特に感じたのは、まずそう思い込んでしまったこと、そしてそれを隠さなきゃと思っていた自分を許してあげていいんだと伝えることが最初のステップだということ。「その思い込みから自分を解放してあげていいんだ」と自分で自覚する必要がある。そこから今度は、自分が抱えている「恥」だったり、「自己否定」を無くす為には別のメッセージで置き換えないといけない、ということを知ることが大事なんだ。ジョナサンが言うような、自分を肯定する小さなことから始めてみるのでもいい。
ジョナサン:僕はこれを「学習棄却(いったん学習したことを意識的に忘れ、学び直すこと)」って呼んでるんだ。
カラモ:学習棄却だ。自分が好きになれる自分の別の部分に目を向けるんだ。そして人に揶揄されるんじゃないかと自信が持てないものを抱えていたとしても、自分のことを「美しい」と言ってくれる、自分を支えてくれる人たちを周りにおくこと。自信が持てないのは誰だって同じ。人から「変だ」と言われた経験は誰にだってあって、みんな日々自分に「大丈夫だ」って言い聞かせているんだ。ありのままの自分こそが完璧な姿であって、そんな自分を愛するところからまず始まる。そうやって一歩一歩進むことによってマスクをつけて自分を隠している人たちでも、自信が持てるようになるんじゃないかな。

ボビー:日本文化全般に言えることは、もう少しだけ自分のことを愛してあげてもいいんじゃないかということ。もっと自分を褒めてあげてもいいと思うし、自分を大事にしてあげていいと思う。これまで日本の人たちと接してきて感じたことは、みんな常に他の人がどう思うかを気にしている。何度も言うけど、それはそれで素晴らしいことなんだよ。調和のとれた社会を作ることができるんだから。
でも同時に、個人の中に抱え込んでしまうものもたくさん産んでしまう。そのことにもっとみんな気づかないといけないと思う。『ル・ポールのドラァグ・レース』をみんな見てるかわからないけど、ママ・ルーの言葉を借りるなら、「自分を愛せなくて、どうやって他の誰かを愛せるって言うの?」ってこと。本当に本当にその通りだから。だって自分を愛せなくて、自分を美しいと思えない人が、結婚相手や家族に対して愛情を伝えられるわけないでしょ? 自分にだってできないんだから。
今回日本で出会った依頼人の中でも、どうしても自分を好きになれない依頼人が一人いてね。僕たちから見たら本当に素敵な人なのに、自分ではそう思えず、だから奥さんに対しても愛情を伝えることができなかった。でも今は自分の素晴らしさに気づくことができて、奥さんに対する態度も変わったのを目の当たりにして、本当に最高だった。だから、そこが唯一日本の文化に欠けている部分だと思う。もっと自分のことを愛していいと思う。そこは変わらなきゃ駄目な部分。まあ、アメリカ人は自分たちのことを愛し過ぎだけどね。

ジョナサン:僕が気づいたのは、一般的に日本人が抱える問題とアメリカ人が抱える問題を区別してその文化的背景の違いばかりが取り上げられるけど、アメリカの田舎だってLGBTに対して抑圧的だ。だから抑圧的な伝統を重んじる文化で育つ人の気持ちは僕にはよくわかる。それに、自殺は日本が抱える大きな問題だけど、アメリカでも同じ。過重労働もアメリカで今大きな問題で、日本でも同様だ。男女の不平等や賃金差にしてもそう。日本が抱える問題はアメリカが抱える問題とさほど違いはない。例外なのは銃規制だ。
つまり何が言いたいかというと、国が違っていても抱えている問題はそんなに差がないと言うこと。一見全然違うように見えて、一歩下がって社会学的観点から見てみると、日本文化もアメリカ文化も、南アフリカもロシアも、みんなそれぞれ抱えている問題はあるけれども、突き詰めてしまえば、みんな愛を求めているんだ。みんな受け入れられたいと思っている。他のことは単なるおまけでしかない。だから、例えば日本人はもっとこうした方がいいとか、アメリカ人はもっとこうしなきゃ駄目だって話になると、そういう漠然とした一般論にはうんざりしてしまうんだ。だって、みんなそれぞれ必死に悩んでいるんだから。

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