数年前までアカデミー賞レースを牛耳っていた独立映画製作会社のワインスタイン・スタジオが創設者ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題で崩壊してから、空席となったインディーズ映画界の王位に着く形となった製作会社である。映画の都ハリウッドではなく、ニューヨークに本社を構えているところもどことなくカッコいい、どこか秀でた感のあるインディーズ・スタジオだ。
創設から6年、いまもなお続く快進撃
2012年の創設以来、すでに延べ24のアカデミー賞にノミネートされるという“偉業”を成し遂げている話題の製作スタジオである。
2015年には劇中AIを演じた女優アリシア・ヴィキャンデルを国際的な女優に押し上げたSFドラマ映画『エクス・マキナ』が話題を集め、同年にリリースした『ルーム』ではアカデミー賞4部門にノミネートされ主演女優賞を獲得。
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2016年には主要キャスト全てが黒人の『ムーンライト』で8部門にノミネートされ見事に作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門でオスカー像を受賞するという快挙を成し遂げ、2017年にもアカデミー賞候補にこそならなかったものの、シアーシャ・ローナン主演でティーンの心情を描いた『レディ・バード』が米国映画批評集積サイトRotten Tomatoesで短期間とはいえ非常に稀な数値である100%という支持率を記録し、万人から好感を待たれるインディーズ作品として話題になった。

A24の快進撃は今年に入ってからも続いている。学校でサイアクな日々を送る内気な中2(= 米国8年生)の少女が、高校進学前に過ごす最後の学期の様子と揺れる心の機微を描いた『エイス・グレード(原題)/ Eighth Grade』は、中2の心情を最もよく表した映画であると絶賛され「親とティーンが一緒に見に行けて語り合える希少な作品」という高評価を受けた。
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まもなく日本でも公開される『へレディタリー/継承』では、辛口のホラー・ファンをも唸らせる恐怖映画、と言われちょっとしたブームになり、ドラマのみならずホラー作品もお手の物であるスタジオであることを証明した。
権力の時代に終わりを告げる…センスと才能ある人材で映画界を牽引
A24の成功劇の裏には、世相を読み取りタイムリーな作品を世に送り出すセンスを持った優秀なチームの力がある。アカデミー賞の白人中心主義を槍玉に挙げた#OscarsSoWhiteというツイッターの呟きが社会問題にまで発展してアカデミーがそれまでの体制を見直さざる得なくなったその翌年に、『ムーンライト』を発表したA24のタイミングは、芸術の域に入るワザである。

創設者ダニエル・カッツを始めとする3名は大手の映画出資会社出身。大金を投じる価値のある作品であるかを見極めるという仕事の場で、売れる映画を選抜するセンスを磨き、有力なスタジオ関係者らと関係を培っていった。やがて意気投合をしたカッツを始めとする3人組は、古巣の出資会社を後にすると持ち前のセンスを生かしてA24を立ち上げた。
経験とセンス共にソリッドな才能を持つメンバーからなるA24。ワインスタインのように、権力をかざして驕り高ぶらず、このまま時代の波に乗り続け、映画ファンを魅了し続ければ、ハリウッドで最高のインディーズ映画スタジオとして君臨し続けることも夢ではない。(text:Akemi Kozu-Tosto/明美・神津トスト)