そして、だんだんママのお腹も狭くなってきた。ボクにも手や足が出来てきて、ママのお腹の中を触ったり蹴ったりすることができるようになった。言葉は話せなかったけど、お腹を蹴ったりすることで、ママにここに居るよ~と伝えることが出来るようになった。それにママの声以外にも音が聞こえるようになって、色んな音が合わさって流れるように聞こえてきて、これがとっても楽しい。この流れるような音が聞こえてくると、ついつい踊っちゃってママのお腹を蹴っちゃうんだ。とっても楽しい音。ボクはまだ目が見えないし、時間の感覚もないから、ボクがママのお腹の中でどのくらい過ごしていたかもわからないけど、そろそろここから出ておいでと言われてる気がする。それはママから言われてるような気もするし、もっと違うところから言われてるような気もする。でも、誰よりも何よりもボクが早く出たいと思ってる。だって、早くママに会いたいもん。そして、ママのお腹の中だけじゃない外の世界を見てみたい。気がつくとボクの頭の上に小さい穴が見えてきた。その穴は奥まで続いて細長いトンネルみたいになってる。ここを行けば外に出られるみたい。でも、このトンネルはものすごく狭くて、とてもじゃないけどボクには通れそうもない。どうしたらいいんだろう? 困っていた、そのときだった。ボクの世界が大きく波を打って真っ赤になって、優しい声が響いた。「ありがとう」その声に導かれるようにして、ボクの体がぐるぐる回り始めた。引っ張られてるような、押し出されてるような、不思議な感じだったけど、あんなに狭かったトンネルの中をそうやって進むことが出来た。トンネルの先にはまた穴が空いていた。今度はとっても明るくて白い。あの先がきっと外だ。外はどんな風になっているんだろう。外ではどんな音が聞こえて、どんな色があるんだろう。もうすぐママに会える。イチさんにも会えるのかな。外に出たらきっと嬉しくって泣いちゃうな。さぁ、もうすぐだ! ハロー、ワールド♪ ボクはこの世界で生きていく。(おわり)ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・-・-・-・ー・ー・ー・ー・-・-・-今回モチーフにしたのは『神さまのカルテ2』(2014年)です。人生の中で何本かその後の人生に影響を与えた映画がありますがこれは間違いなくそのうちの一本です。映画の中で主人公の青年医師(イチさん)は患者を救うか?家族を守るか?という選択を迫られる局面があるのですがこの映画の公開時期に我が家も長男が生まれる時期だったので全く同じ葛藤を抱えてたりしました。でも、この映画との仕事を通して、僕の中のその後の人生のスタンスが変わりました。僕にはそれは家族でした。今回、育児休暇を取ったのもそういうことです。おかげで今はとても良い時間を過ごせています。次男もきっと自ら選んで我が家に来てくれたんだと思っています。改めて言いたい。「生まれてきてくれてありがとう」